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6 after【New 8】悪役令嬢4人衆。その後……。(後編)

ガーデンチェアに腰かけて親友たちの話に耳を傾けながら、私はゲームシナリオに思いを巡らせていた。



(爆弾の解除は、本当はアイザック・ルートで出てくるイベントだったのよね。その知識を参考にしながら、私は今回の事件に対処したのだけれど……)


アイザックの攻略ルートのなかには、【爆弾事件の解決】という時間制限付きのイベントがあった。

隣国のスパイが王都に爆弾を仕掛け、アイザックがそれを無効化する方法を発見する――というものだ。

爆弾の核となる鉱石が、特定の薬品で溶解するという特性を知っていたアイザックの機転で、王都が救われる――というイベント。

学生時代から化学分野ですばらしい才能を発揮していたアイザックならではのエピソードである。


ゲーム内ではヒロインがアイザックを手助けして、事件解決に導いていた。

こっちの現実では、ヒロインの代わりに私があれこれ先回りして、アイザックに助力を請う形となったのだけれど――


(ゲームの中のアイザック・オルトン子爵令息は、国を救った功績により伯爵位を与えられるの。そして、卒業後にアイラと結婚して、おしどり夫婦な伯爵夫妻になるの。……でもその伯爵位、なぜか私が貰っちゃってるんですけど!?)


今さらながら、ものすごくマズイ気がしてきた。

なぜなら、アイザックの婚約者であるエリンは、ゲームの中ではアイザックの家格の低さを蔑んでいたからだ。


(悪役令嬢エリン・クレスディは、伯爵家の三女。アイザック・ルートでは、自分の家よりも家格の低い子爵家に嫁がされるのを、ずっとエリンは不満に思っていたの。だからアイザックを見下して、意地悪な態度を取り続けていたわ。そして、伯爵位を得たアイザックに掌を返してエリンは擦り寄るのだけれど、愛想を尽かされ婚約破棄されてしまうの。……あくまでも、ゲーム内のシナリオだけれど)


こっちの現実では、エリンはとくに婚約者への不満を口にしていなかった。

だからあんまり気に留めていなかったのだけれど……。


(アイザックが伯爵位を貰っていた方が、エリンも幸せだったはず。さっきアイザックの話題が出たとき、気まずそうな顔をしていたのは……もしかして、アイザックと不仲になってるからでは!?)


どうしよう。

私、アイザックの手柄を取ってしまったのかも。


「どうしたの、ミレーユ? さっきからずっと暗い顔して」

エリンに問われて、ハッと現実に引き戻された。


「な、なんでもないわ。……ところでエリンは今、幸せ?」

「いきなりどうしたの?」

「いえ、ちょっと気になっちゃって」

「?」


挙動不審な私を見て、3人が首を傾げている。

そのとき――




「エリンお嬢様。アイザック様がいらっしゃいました」

しずしずと、メイドがエリンに声を掛けてきた。

気恥ずかしそうに眉を寄せ、エリンが「あら、そう」と素っ気なく答える。


「お通ししてもよろしいでしょうか、お嬢様」

「……いいわよ。呼んでちょうだい」


メイドに導かれ、姿を現したのはアイザック・オルトンだった。

男性にしてはやや小柄で華奢な体格。

中性的な美しい顔立ちからは、彼の穏やかな人柄がにじみ出ている。

彼はいわゆる『弟系』で、素直で優しく、ひたむきな愛をヒロインに注いでくれる攻略キャラだった。


「こんにちは、エリン。それに皆さんは久しぶりだね。ミレーユ嬢には、先日会ったばかりだけれど」

「あの節はお世話になりました、オルトン様」

「こちらこそ。国のために役に立てたのなら、僕も光栄だよ」


朗らかな笑みを浮かべながら、アイザックは私達に礼をした。

私達が礼を返すなか、エリンだけは気まずそうに顔を赤くしてぶすーっとした表情になっている。


(……やっぱり、ふたりは不仲なのかしら)


アイザックとエリンに向かって、ソフィが問いかけた。

「あら、オルトン様もいらっしゃる予定でしたの? エリンったら、先に教えてくれたらよかったのに」


「……アイザックが今日になって、いきなり来るって言うから。仕方なくOKしたのよ」

ツンとした態度で言うエリンの隣で、アイザックは笑みをこぼしている。


「エリンが今日、貴女たちに会うというから。僕もどうしても挨拶したくてね」

「ご挨拶?」

「ああ」


アイザックがそっとエリンを引き寄せた。


「僕たち、今年の末に結婚することが決まったんだ。エリンの親友である貴女たちには直接、僕からも伝えたかったんだ」


エリンが林檎みたいに真っ赤な顔をして、気恥ずかしそうに口をつぐんでいる。

突然の結婚報告に、私達は「ええ!?」と声を上げていた。


「……もう! アイザックったら、いきなり皆に言わないでよ! 恥ずかしいじゃないの」

「いいじゃないか。慶事はきちんと伝えなくちゃ。直接会える機会もそうそうないし」

「それはそうだけど……」

アイザックに文句を言うエリンは恥ずかしそうだけれど、とても幸せそうだ。

ふたり仲良く寄り添い合って、あれこれと語り合っている。


(そういえば、エリンはツンデレさんだったわ……。不仲なんじゃなくて、恥ずかしがってただけなのね)


そう思ったら、安心してきた。


エリンは頬を染めながら、私達に報告してくれた。

「というわけで私、年末からオルトン子爵家の若夫人になるの。皆これからもよろしくね!」

彼女の声は、誇らしげだ。

家格の上下など、まったく気にしている様子はない。

気恥ずかしそうにしながらも、アイザックと寄り添って幸せそうだ。


「おめでとうエリン!」

「良かったわね!」

「私達の中の、既婚者第一号ね」


よくよく考えてみたら、私が『悪役令嬢ミレーユ』ではなくなったのと同様に、学園生活を経てエリンの性格もかなり変わっていた。

エリンは気が強いけれど、優しい良い子だ。

だから、アイザックとも深い信頼を築けているのだ――二人の様子を見て、そう確信した。



無事にハッピーエンドと新生活を迎えることになったエリンとアイザックを、私達は祝福していた。


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