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入れ替わりの聖女たち  作者: リコピン
異世界編
11/13

異世界1-04 断罪の行方

ディオン達に決別を告げた日より三日。


美咲は、感じた違和感に背を向けたのは間違いだったと、心の底から悔いていた――


「……よって、リリー、君の聖女としての権限を剥奪、ヴェスティバ離宮での蟄居を言い渡す」


「っ!?待って下さい、殿下!私は、クローデット様を陥れる真似などしていません!それは、殿下もご存知のはずっ……!」


美咲の訴えは、しかし、碧の瞳の一瞥で切り捨てられる。


「だが、君は先日、『階段から突き落とした犯人はクローデットである』と証言しただろう?それを、私もアルマンも聞いている」


「なっ!?」


「うん。俺も聞いたよ。確かにそう言ってた」


美咲は「信じられない」という思いで、部屋の隅に立つアルマンに視線を向ける。


王宮の王太子執務室。霊薬開発の関係で何度か訪れたことのあるこの場所に、今居るのは六人。ディオンの護衛である騎士と記録係である書記官を除くと、ディオン、アルマン、リリー、そして、クローデットの四人だった。


(直接、あの日の話をしようと、決着をつけるからと、そう言っていたのに……!)


確かに、ディオンはあの日の始末について口にした。だが、裁かれたのは、事件の犯人ではなく、被害者であるはずの美咲だった。


「残念だったね、リリー?」


アルマンが愉快でたまらないという風に笑う。


「君が陥れようとしたクローデット様には、あの日あの時間、他の場所に居たという証拠があるんだ。複数の人間が、この王宮で彼女を見ている」


「っ!私は、クローデット様を犯人だと言ったわけではありません!私が言ったのは……!」


「諦めが悪いなぁ。あの日の会話は俺たちが聞いてただけじゃない。ちゃんと、録音もしてあるんだよ?」


そう言って彼が取り出したのは水晶球、録音の魔道具だった。それを、美咲に見せつけるように掲げる。


「ほら、ちゃんと聞いて。間違いなく、君の声だから」


――『白金の髪の人物がいた』……


――法に則った処罰をお願いしたいと思います。


――クローデット様……、酌量の余地を……。彼女をそこまで追い詰めたのは私ですから。


流れた音声に、美咲は憤る。


「こんなもの、証拠とは言えません!都合の良い箇所だけ切り取った、捏造じゃないですかっ!」


美咲の訴えは、しかし、誰にも届かない。


「陛下にも、証拠品としての提示は済んでいる。離宮での蟄居は陛下が下された、王命だ。速やかに従え」


「っ!」


ディオンの氷のような眼差し。リリーの記憶に、彼のこんな姿はなかった。


(どうして……!)


何故、突然こんなことになったのか。まるで、魔法が解けたかのよう。今までリリーに甘い言葉を囁いてきた彼らの豹変に、美咲は怯えた。


味方を探して、部屋中を見回す。だが、冷めきったディオンの態度、アルマンの嘲りの笑み、感情の読めないクローデットの瞳、後は視線さえ合わない無関心。


(誰も……)


誰も美咲を気に掛けない。味方などいなかった。


立たされたままだった美咲の身体から力が抜ける。膝から崩れ落ち、床に両手をついた。震える身体で、茫然と床を見つめる。


「……ランド、連れていけ」


「御意……」


ディオンの命に、低い声が答える。美咲の視界に男性の足が映った。それが誰か確認する間もなく、美咲は腕を掴まれ、力づくで引き起こされる。


「いやっ!」


「……」


拒絶の言葉は黙殺され、美咲の身体が強い力で引きずられる。


「止めてっ!?どうしてですかっ!何でこんなこと……っ!」


なりふり構わず抵抗する美咲に、アルマンが冷笑を向ける。


「リリー、君はやり過ぎたんだ。学園内を散々かき回して、挙句、教会に戻るなんて。……今更、許されるわけないだろう?」


「だけど、それは……!」


「おまけに、公爵令嬢であるクローデット様を罪人扱いしたんだ。本来なら極刑。君は死んでもおかしくなかったんだよ」


笑みを消した彼が、「クローデット様に感謝しろ」と告げる。


「彼女が君の減刑を望んだ。……俺は今でも、君を殺しておくべきだと思ってるけどね」


「っ!?」


殺意を言葉にされて、美咲は呼吸が止まりそうになる。空気が上手く吸えない。助けを求めた視線の先で、クローデットが口を開いた。


「……リリー様にも酌量の余地を与えませんと。彼女をここまで増長させたのは(わたくし)たちの責任ですから」


彼女の口元に薄い笑みが浮かんだ。初めて目にしたそれに、美咲は戦慄する。


嵌められた――


いつから計画されていたのかは分からない。だが、ディオンやアルマンがリリーに向けていた好意は全て偽物、彼女を上手く扱う(・・・・・)ための手段だったのだ。それを、クローデットは知っていた。知っていたからこそ、リリーの行いに沈黙を貫いた。


(……気付けなかった)


リリーの記憶は彼らを信じていたから。それが悔しくて、悲しい――


美咲は、虚ろな目でクローデットを見つめる。不意に、ディオンが口を開いた。


「……私はクローデットを愛している。私の妃となるのは、クローデットただ一人だ」


「……」


だから、何だと言うのか。それが、こんな茶番を仕組んでまでリリーを排斥する理由だというのなら、もっと他にやりようがあっただろう。


美咲はそれを口にすることが出来なかった。


「……連れていけ」


もう、手遅れだ――


ディオンの温度の無い声を最後に、美咲は部屋の外に連れ出される。扉が、目の前で閉まった。






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