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【第二章 犯人は二人】 (二十七)助言

「大丈夫。大丈夫。青龍は現一狼が何とかしたから。誕生日プレゼント? ええ? 英語の教材はやめてくれよ、兄さん。ええとさ、ゲーム機、欲しいな。駄目? いや、父さんと母さんはゲーム禁止って言っていたけど、もう四年も経っているし。志望校に受かったら? それ来年じゃないかよ、兄さん」


 大学生になってからアルバイトして買えよ、という錦の後ろで、岩田(いわた)が、大学生でも駄目です、と言っているのが聞こえた。惣時郎の決めたことは絶対に守るという岩田の主義が、こんなところまで徹底している。


 友人が持っているだの、実はこっそり友人宅でやったことがあるから、いまさら禁止しても意味がないだの、いろいろ説得を試みたが、ことごとく失敗に終わる。


「まあ、ゲーム機への情熱はわかったよ。聞き置く。ともかく、元気で誕生日を迎えられてよかった。おめでとう」


 錦の声は優しいが、揺らぎがない。青龍よりも手強い。


「……ありがとう。じゃあ、何かあったら連絡するから」

「だったら、今、連絡しなきゃならないことがあるだろう」

「何だよ、青龍の襲撃のことは言ったよ」

「もしかして、襲撃より前に、そちらで死者がでているんじゃないか」


 錦の言葉に、渥はぎょっとした。


「何で知っているんだ。現一狼が言ったのか?」

「いや。父さんの高校の後輩で、私立探偵をしている人がいるんだ。その人のところに情報が入ったらしい。不審な死者がいるらしい、ってね。話を聞いてみると、ちょっと夢現流のことっぽかったから。当たりだったか」


 錦の声が低くなる。


「巻き込まれているのか」

「兄さん。巻き込まれていたら、俺は生きていないだろう?」

「先に青龍がおまえと接触したのは、その事件がきっかけなんじゃないだろうな」


 名推理だ。


「兄さん。これ、夢現流の電話使ってるからさ、電話代がもったいないよ。帰ってから詳しく話すから」

「電話代? かけ直そう」


 いきなり電話が切れる。受話器を置くと、すぐに鳴った。

 渥はうんざりしながら、受話器を取る。


「はい」

「檜錦です。……さて、渥。話してもらおうか」


 こうなると、錦は全部聞き尽くすまで粘る。仕方なく、渥は夢現流に着いた途端に殺人事件に遭ってしまったこと、被害者の詳細、葬儀での棺の話など、分かる限りのことを話す。


「以上。俺がいる間に、いろいろ調べてみるよ」

「まあ、夢現流のことだからな。檜家には関係なさそうだ。ただ」

「何だよ」

「棺が片方、ちょっと重かったというけれど。ちょっとってどのくらいなんだ?」


 言われてみれば、だいたい何キログラム重かったのか、聞いていなかった。


島田(しまだ)さんに確かめてみるよ」


 錦と挨拶を交わし、電話を切ってから、嫌な気分になった。

 あのときのことを思い出してみる。島田は井筒(いづつ)たちが持っている棺に手を掛けて、ちょっと重い、と言っていた。


 ――まさかな。


 渥は嫌な予感を振り払いながら、中棟の階段を上った。

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