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【第一章 密室の扉】 (四)客室

 階段は途中、踊り場を()て二階へとつながっていた。何代にも渡って昇降された一段一段が鈍い光を放ち、次に踏み出すべき場所を示す。心地のいい階段だった。

 (にしき)が階段を上りきったところで立ち止まった。二階は廊下を挟んで左右に部屋が並んでいる。

 南側は客室か家人(かじん)の部屋らしかった。

 北側には、御手洗い、とプレートが掛かっている。まともな部屋は、錦が扉の前に立っている部屋だけだ。

 

 ――一部屋だけ北側にあるのは、奇妙だな。

 

 しかも扉は薄い木戸だ。(ふすま)と違って、二枚組ではない。一枚だけの戸だった。

 

「使用人部屋ですか?」


 問いかけると、踊り場から声がした。


「客室です。こちらは家庭教師の結城(ゆうき)先生が使っているはずなんですが」


 岩田(いわた)だった。


「こちらへ」


 錦に呼ばれて、現一狼(げんいちろう)は扉の前に立つ。

 血の匂いが濃い。

 現一狼は奥歯を噛んだ。

 空気には、あの殺人鬼の匂いも混じっている。

 

「血の匂いがしますか?」


 錦が首を(かし)げた。


「どのみち、この部屋で何かあったとしても、滅多に匂いはこもらないのですけれどね。扉の上の通気口から廊下の空気が流れ込み、窓側から外に出るので」


 岩田に言われて見上げると、確かに、扉の上の高い位置に、大きな通気口が開いている。他の部屋には、ない。


 ――ともかく、死体を見よう。


 扉に手を掛けて引いてみた。が、(ふすま)が引っかかったようにガタガタと音はするものの、開く気配はない。


「鍵がかかるんですか?」

「この部屋には内鍵があります。丸い棒を、扉の穴に差し込む形の」


 錦の言葉に、現一狼は鍵の形状を思い浮かべ、心中で舌打ちをする。単純なしくみで、合い鍵などはない。その分、かけられると外しようがない。


「まだ、寝ている訳はないだろうな」


 岩田がつぶやいて、扉を力任せに引いた。扉が(きし)み、窮屈な音を立てた。開きはしないが、現一狼よりも動く。


「力があるんですね」


 驚いて見上げると、岩田は慌てたように手を放した。


「いや、そんなことは。しかし、これだけ物音がして起きないなんて」


 再び岩田が扉に手を掛けようとするのを錦が止めた。


「まあ、待って。結城先生、錦です」


 優雅にノックなどしている。現一狼が慌てて呼びかけるのと同時に、岩田が錦を扉から引き離した。


「あの、錦さん、いくらなんでも死体に返事は無理ですよ」

「錦様、おやめください。殺人犯がまともに返事をするわけございません」


 途端、岩田が現一狼を見た。


「死んでいるのは結城先生ですか?」


 現一狼も言い返す。


「殺人犯なら、何故、逃げもせず留まっているんです?」


 岩田は申し訳なさそうな顔をして肩をすくめた。


「それは、おかしいと思いましたが。でも、どうして鍵がかかっているんですか? 自殺でしょうか」


 岩田の言葉に、首を左右に振る。

 自殺者の匂いだったら、ここまで匂わない。明らかに殺されている。まだ体を巡るつもりでいた血が、虚しさを追い払おうと匂う。

 しかし、それを言っても信じてもらえる可能性は低い。

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