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テンプレ元ネタ短編

王子様はだまされない

作者: F

 僕の婚約者が決まった。第三王子である僕の婚約者は権力がありすぎても困るし無くても支障が出るしで、いっそ好きな子を貴族から選べばいいよと言われたがこれといって自分の好みがはっきりしない僕には厳しい要求。

 家族の方が嫁選びにきゃっきゃしているので、まかせて適当にいい子を選んでもらった。

 良くも悪くもない伯爵家の長女。おどおどした少女だが、もっと特筆するべきは別のところにある。


 この子ご飯食べてるの?

 痩せすぎなんだが?


 これ、婚約という名の保護だろう。まったく。

 いいと思う。

 慈善活動、大いに結構ではないか。王家だしね。それになんかこうかまいたくなるよね。せっせと食事を取らせたくなるよね。ふくふくと育っていくところを想像したらなんだか燃えてきたよ。これが父性?


「庇護欲って言うのよそれ」


 母に指摘されて庇護欲という概念を認識した。少女小説も読まされ、どうやら女性にとっては好ましいものらしいことを理解した。


「へぇ。さすが僕だね。王子の中の王子を名乗っていいかもしれない」

「自信があるのはいいことよね。でも自称はやめなさい」

「はーい」


 そんな寄り道をしながら婚約者の回復計画を家族と医者と練っていた時だ。学園で声をかけてきた見目麗しい少女がいた。

 目をうるうるとさせた、少女小説いわく庇護欲をそそられる女性という感じの子だ。

 実物を前にして僕が思ったのは。

 これのどこが?

 こんなきんきんキラキラ綺麗な衣装を着た色白美少女。ただの美少女との違いがわからない。女性の価値観は繊細だよね。


 うるうる美少女が、うるうるしながら僕の婚約者の妹だと名乗って、儚げそうに言った。


「姉がいじめるのです」

「ふうん」


 あのガリガリで生きているのが精一杯という感じの子が?


「し、信じてくださらないのですか? 姉は」

「安心して。ちゃんと聞くから。ひどいお姉さんなんだね。大変だったね。僕はまだ彼女のことをよく知らないんだけど、教えてくれるかな?」

「ええ、もちろんですわ。姉はとてもわがままで、私のものをいつもうばっていくのです。いつも姉ばかりドレスを買ってもらっていて、いらなくなったものを私に投げて渡してきますのよ。この服も、姉が着ることもせずに好みではないからって、私に下げ渡したものなのです」


 どう見ても君のドレスが新品で、姉のドレスが古臭いデザインのものなのに?


「そうなんだね。ひどいなぁ」


 嘘も上手につけない頭だなんて、大変だね。姉の方は勉強できるのにね。あんな栄養も足りない体でよく頭が回ると思う。もしかしたら本来はもっと頭がいいのではないかな?

 生まれながらの知能格差、ひどい話だなぁ。かわいそうだねー。


「殿下ぁ。私怖くて、姉に会うとなにをされるかって、不安で。でも殿下といると安心します。ずっと殿下のおそばにいられればいいのに」

「ああ、それはいい考えだな」

「殿下! 嬉しい、じゃあ──」

「君の姉で僕の婚約者であるディオーラには王城に住んでもらうことにするよ。それなら君も姉に会わなくてすんで安心でしょう?」

「お、お姉さまが!? え、え、えーと、でも、でもでも姉はわがままだから殿下にご迷惑をおかけしてしまうかもしれませんわ」

「そうか。それなら僕がよく言い聞かせて、改心するよう話し合うことにするよ。だから君は安心して過ごすといいよ。あとは僕に任せて。ね?」

「え、ええー、え、どうしてそんなこと。そんなことしなくていいです! お、お手をわずらわせるなんてそんな、姉なんかのために」

「でも僕の婚約者だから。その責任も権利もあると思うな。だから君は何の憂いもなく、家で過ごしているといいよ。もう二度と姉と二人きりになっていじめられるような環境にはしないであげるから」

「そ、そんな、でも、あの」

「なにかな?」


 言葉を失っている悪人が何を言うのか、嗜虐心で聞くのはいじわるなことかな? はは。


「お、お姉さまは! 家に帰りたいと思うのではないかしら」


 おや、なかなかいいところを突くね。


「そうだね。ディオーラに聞いて決めることにするね」

「そ、そうでしょう! それがいいと思いますわ」


 途端ソワソワしだす妹君、ははは、ディオーラのところへ言い聞かせに行きたくて仕方が無いんだな?

 させるわけないではないか。


「じゃあ今から聞いてくるね、君はここで待ってて」

「私もまいりますわ」

「無理しないで。いじめてくる姉と会うなんて怖いだろう? 何を言われるか分からないしね。君は安心してここで、待ってて、ね?」

「あ、いや、でも、あのそう! お姉様が王城へ行かれてしまうなら最後にあいさつくらいしておきたいなと、思って」

「ははは。優しい心がけだね。そうだよね、たった二人の姉妹だもんな。もちろんあいさつする機会は設けるよ。でも今すぐでは、君も心の準備をする時間が欲しいだろう? 今はここで待っているんだ。分かったね?」


 最後、少し声に圧をかけて見下ろせば、青い顔をさらに青くして女は目線を下げた。


「は、い」


 で、かわいそうな婚約者のところに来たわけだよ。


「ディオーラ、そんなわけで王城に住まないか?」

「よ、あの、よ、よろしいの、です、か。私なんて、お邪魔じゃ……」

「邪魔なわけないだろう。みんな君のことを心配しているくらいだ。さ、なら決まったね。今日から君は城住まいだ。許可は、伯爵の前に君の伯父さんの侯爵に先に取っておくから、父君の反対は心配しなくていいよ」


 彼女の母はかつて彼女の父である伯爵と結婚できないなら駆け落ちする! と親につのって結婚したはいいが、すぐに心変わりして別の男と駆け落ちしていったという、曰く付きの女性だ。そのせいで彼女に八つ当たりする伯爵とその後妻とその息子と娘という地獄絵図のできあがり。

 かわいそうだが、伯爵もまぁかわいそうではあるので糾弾もしづらいという状況に手を差し伸べたのが、僕の空白だった婚約者の座というわけだ。


 彼女の母君の生家である侯爵家も彼女を気にかけてはいたようなのだが、そうはいっても実は駆け落ちの時に当時の侯爵家当主であるこの母君の父がブチギレて侯爵家から勘当したため、そのまま子供のことも保護の権利がなくなってしまっている状態だった。

 そしてできたのがこの、おどおどした伯爵令嬢というわけだ。


「お、伯父様、が……」

 そう言う彼女の目は暗い。

「君にとってはいい人でもあり助けてくれない人でもあっただろうが、権力はあるからね。僕にもさ。何度も使える手ではないけど、今が使いどきだろう。守るよ」

「あ……」


 じ、と僕の目を見上げてくる彼女の暗い目から、ぼろっと涙が溢れた。あわてて彼女は顔を伏せる。まるで悪いことをした子の反応だ。泣くと叱られるものだと思っているみたいに。


「あ、ごめん、なさい、あの。あ……」

「そういうときはね、ディオーラ。ありがとうって言ってほしいな?」


 蒼い、綺麗な瞳が僕を見上げて、きょとんと首をかしげた。


「あり、がとう?」

「うん」

「ありがとう、って、どういう意味、ですか?」

「……」


 それが分からないって。ああ、そうか、当たり前すぎて学園でも教えたりはしないよな。

 どういう生活してきたか推して知るべしか。


「そこからかぁ……」

「す、すみません! ご迷惑を」


 とたん、おどおどする彼女の頭をぽんぽんと慰める。キョトンとする顔がかわいいなって思った。


「いいよー。これからたくさん勉強していこうな。城にはいろんな人がいるからさ、きっと知らないことたくさん学べるよ。難しいことも、楽しいこともね」

「楽しいこと……」

「そうだな。まずは、おいしいお菓子から学ぼうか!」

「おかし。ですか。学園で初めて食べました。みんなに配られたやつなのですが」

「ああ、リア公爵令嬢かな。よく配っているよね」

「はい。私にも普通に接してくださる……とても、素敵な方です」

「友達にはならなかったの?」

「そんな、恐れ多い、です」

「ああー、そっか。リア嬢がその気でも君が逃げてはそうなるか。なら、おいおいだね」

「おいおい?」

「君は王子の婚約者だよ? 公爵令嬢とも友達にならないとね?」

「あ、そ、そうでした。あの、がんばります……」

「ふふ」


 おどおど、でも意欲は持っているこの少女に僕は少し興味が湧いてきた。

 僕の婚約者、なかなか面白いかもしれない。


 そんなこんなで保護した彼女は、めきめきと肉をつけて、常識を身につけ、学力もつけ、さらに王家総出でかまいたおしたので人にかまわれるのにも慣れ、ごく普通の貴族令嬢になっていった。


 結婚式を明日に控えて、2人でゆったりと部屋でお茶してくつろいでいる今。

 昔の彼女を思い出して「ふふ」と思い出し笑いした僕に、安心しきった目で昔のように彼女が首をかしげた。


「どうかしましたか?」

「いいや、昔のことを思い出しただけだよ。ディオーラが元気になってよかったなってね」

「……昔は、本当に私、右も左も分からない状態でしたね」


 ふと目を伏せ、記憶を撫でるように胸に手を当てた彼女は、幸せそうに微笑んだ。


「あなたがくれる一つ一つが宝石みたいに輝いて見えて、何もかもが楽しくて、嬉しくて。勉強は大変でしたが、それさえもあなたのためだと思えばがんばれました。きっと、ずっと、いつまでも私の大切な思い出ですわ」


 陽の光の下では金色に輝く茶金色の髪を、今はゆるやかに肩から前へ流している彼女は、そっと目を開いて僕を見た。蒼い目がとても嬉しそうに笑んでいる。


「ありがとう」


 ああ、僕の婚約者は今日も可愛いなぁ。

 明日の結婚を楽しみにする僕でしたとさ。


 ついでに、彼女の異母弟も「結婚するのだから」と言ってゴリ押しで城での英才教育に引きずりこんだので(彼の実母は箔がつくと言って喜んで送り出したくらいだ)今ではまともに育って、僕の可愛い婚約者に謝罪するまでになった。王家に顔が利くということで、現伯爵夫妻には早めに自領へ帰っていただいて、彼が伯爵位につけるようにしているよ。

 未来の伯爵家も安泰だね。


 彼女の妹?

 ああ、あちこちでハニートラップをしかけて国外追放になった問題児か。

 異国でどうしているかは、本人の心がけ次第だろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 素敵な王子様でドアマット令嬢が幸せになれて良かったです。 第三王子でこのスペックなら王太子や第二王子も推して知るべく優秀なのでしょうね。 この国は安泰ですね❤️
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