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待ち伏せ

俺たちは日が昇るよりも先にやってきて昨日襲撃のあった場所の近くに陣取っている。

辺りはまだ薄暗く、周囲は闇にまみれて何も見えない。

俺たちはここ数日被害があったという畑の近くにやってきていた。

息を殺して近くの森の中に潜んで見晴らしのいい場所からその様子を観察している。


「本当にここに出るの?」

懐疑的な表情でレイチェス。


「二日前から出没しているようだ。遭遇する可能性は高い」

俺はボウラットの言葉にちょっと驚く。つまりは遭遇しない場合も考えられるということだ。

今更ながら俺はその点が抜け落ちていたことに思い至る。

それというのも俺の仲間のオズマがいれば臭いで標的を追跡できたし、

魔族から貰った道具を使えば周辺の魔物の位置は把握できた。

標的を見つけることに関して不自由しなったのだ。


「もし仕留められなかった場合は…」

俺は恐る恐るボウラットに問いかける。


「足跡を頼りに森の探索だな」

ボウラットが苦笑いを浮かべ俺の問いに応えた。

それを聞いたレイチェスがあからさまに嫌そうな声を上げる。


最悪の場合、魔物の討伐のために二三日ここにとどまることになるということだ。

ちなみに明日がセリアとエリスと待ち合わせの日になっている。

俺としてはたとえ報酬が安かろうが、一度引き受けてしまったポーターという仕事を途中放棄するような真似はしたくない。

二人は冒険者だし、数日遅れることは理解はしてくれるだろうが遅れることで間違いなく機嫌を損ねるだろう。

そもそもボウラットからの話を受けなければこんなことにはならなかったのだ。

…二人には何かご馳走すれば見逃してくれるだろうか。


「安心しろって俺も暇じゃねえ。こんな金にもならねえ仕事はとっとと終わらせるつもりだ。

万が一にも金は延滞した場合はその分を加味した上で払ってやるさ」

ボウラットはにやにやしながら俺の背中をドンと叩いてくる。俺の困った表情から金の問題を心配していると思われたらしい。

そりゃ、銀貨一枚という破格の値段で請け負ったけどね。

そんなことを考えていると俺の感覚に引っかかるものがあった。


「…あっ、来ましたね」

標的を発見したことで気が緩んだのか、つい声に出てしまった。


「何も見えないじゃない」

レイチェスが周囲を見渡して不機嫌気につぶやく。まだ暗くボウラットですらその気配を感じ取っていない様子。

しばらくすると俺の目の向けた方向に二つの動く影が現れる。

ワイルドボアである。かなり距離がありこちらには気づいていない様子である。


「ビンゴだ。…良く見つけたな」

顔を引きつらせながらボウラット。新人たちはポーターの俺が誰よりも早く標的を見つけたことに驚きの表情をする。


「それと…」「お前は俺たちが魔物を狩り終えるまであっちの丘の方に行ってろ。くれぐれも周囲への注意を怠るなよ。

ポーターに怪我を負わせるわけにはいかねえからな」

俺が声を上げるとボウラットが言葉をかぶせてくる。そう、今回俺の役割はポーターであり、あくまで荷物もちだ。

俺に対する配慮というよりはポーターに何かあっては帰りの荷物の持ち運びに支障が出てくるということもあるだろう。

また万が一動けない怪我を負った場合や不測の事態が起きた場合、冒険者ギルドに知らせるということも考えてのことだろう。

俺は口を閉じてボウラットの言葉に従い、静かに離れた丘まで移動し聞き耳を立てる。


ボウラットは一目でワイルドボアの脅威度を測る。大きさは中。Cランク相当。

ここは新人に譲るべきという判断に至るまでそれほど時間はかからなかった。


「俺は回り込んであいつらをこっちに誘導する。あの二匹はお前らに任せる。ワイルドボアの特性は昨日話した通りだ」

三人は無言で頷くのを横目で見て、ボウラットはにやりと笑みを浮かべ、

足音を消してワイルドボアが見えない反対方向まで回り込む。


ある程度ワイルドボアとの距離を引き付けるとボウラットが俺たちに見えるようにワイルドボアの背後で手を挙げる。

作戦開始の合図である。


「おら」

突如ボウラットは大声を出して剣を持ってワイルドボアの背後に現れる。

威嚇されたワイルドボアは突然のことに驚いて逃げようと背後のレイチェスたちのいる方向に進む。


レイチェスの前にはカータが立ちガードの構えをとる。ワイルドボアはそんな事お構いなしに二人に向かって来る。

レイチェスが魔法を使い、地面からワイルドボアの進行方向に岩の塊を出現させた。

ワイルドボア咄嗟のことに突進方向を変えられず、そのまま岩に激突し、沈黙した。


もう一匹はハルに向かって一直線に突進していく。だがハルは動じない。

身を引くしてワイルドボアの斜め脇にすべりこむように走り、出会いがしらに首元に一閃。

ワイルドボアの首はぱっくりと切られ、首から血しぶきを上げながら直進し、倒れた。

ボウラットが言っていたハルが自身よりも上だという剣術は伊達ではないということだろう。


「見事だ」

ワイルドボアは真っ直ぐ進み、向きをあまり変えられない。

ワイルドボアの特性を理解し、それを利用した形で倒した二人にボウラットは称賛の言葉をかける。


「ほらほら、ぼさぼさするな。血抜きだ」

ボウラットはパンパンと手をたたき新人たちに作業をするように指示する。


「にしても解せねえな…何か見落としがあるのか…」

ボウラットは首を傾げていた。ワイルドボアは魔物というより害獣に近い。

今回の大きさのワイルドボアを倒すことぐらいなら罠を使えば村人にもできたはずだ。

それに多少の臭みはあるが食感は猪や豚に似ていて貴重な食糧にもなる。わざわざ金を払ってまで冒険者を呼ぶ必要がない。


「あれ何…」

初めにそれに気づいたのはレイチェスだった。

レイチェスの視線の先には身長をゆうに超えるほどの大きさの影がそこにあった。

二メートルはあるだろうか。さっきの魔物とは比較にならないほどに大きい。


「グランボア…今までのは子供か…」

皆の表情が凍り付いた。そうまだ討伐は終わっていなかったのだ。

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