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旅は道連れ世は情け

魔族との激闘があった翌日、サンサ村からヘルポイへの帰り道。

馬車に揺られながら俺はハルカにこれまでのことを話をしていた。

一応魔神のことは伏せた上でほぼ一年前にこの世界に来てからのことをかいつまんで。

気が付けば北のサルア王国の辺境にいたことや、セリアとエリスと出会い等々。

ハルカはそれを興味深く聞き入っていた。


「ちなみに俺は魔族らしい」

ある程度話が進んだところで俺はぶっちゃける。


「魔族?何ですかいきなり」

はじめは冗談かと思っていたハルカだったが、

俺の顔が真剣であることや、セリアたちの表情から冗談ではないと理解したようだ。


「この世界に来てから気づいたらそうだった。

ちなみに『渡り鳥』にはエリスとセリアの他にオズマとクラスタ、それと鳥のアタがいる。

今は二人とも別行動で、それぞれ別のことをやってる。ちなみに二人とも俺と同じ魔族だ」

勇者という立場からすれば魔族は敵対する間柄である。

もし隠したままだと敵対する可能性が潜在的に発生する。


「…うーん、たとえユウさんが魔族であったとしてユウさんはユウさんですよね。

私は私の見たモノを信じます。私から見てあなたは信ずるに値する人間だと思います」

当然のように遥は答える。その考え方は同郷人らしい。

人を人種やレッテルではなくその人の人間性を見る。

他に劣等感を抱かない恵まれた場所で生きてきた真っ直ぐな考え方ともいえる。


「それに見た目では人間と区別つきませんよ。角とか生えてるならわかりますが」

ハルカはしげしげと俺の顔を覗き込む。

ハルカの整った顔立ちを間近で見て俺はちょっとたじろぐ。


「はあ…にしてもめちゃくちゃ強いと思ってたらチーターだったわけですか」

「ひどっ」

ハルカの言い回しがひどすぎる。


「チーターって何?」

セリアが横から会話に入ってくる。


「ゲームでずるする人のことですね」


「そういわれると確かに…」

「セリアさん…」

エリスが苦笑いをしている。どうやら俺の味方してくれない様子。


「それにユウは他にもゲヘルたちからいろいろともらってるのよ?

家とか入る入る収納の腕輪とか、なんでも切れる剣とか」


「えー。それ本当ですか?」

ハルカは俺を見て大げさに引いた素振りを見せた。

女性二人に口でやりあっても勝てる気がしないので俺はされるがままになって手綱を握る。


そんな感じで馬車に乗り俺たちはヘルポイの街中に入り、冒険者ギルドに入った。

俺たちが冒険者ギルドに足を踏み入れるなり音が消えた。


冒険者ギルドの人々が動きを止め俺たちを見ている。

周囲からは視線を痛いほど浴びせられる。

その心当たりならば大いにあった。


------------------------------------------------------


…ジュウシロウさんの報告が受け入れられた?嘘だろう?

なんでこうなった。冒険者ギルドを出た俺は自問自答する。


話によればジュウシロウはあの戦いの後、一足先に帰還し、

今回の顛末をヘルポイの冒険者ギルドに報告したという。

村の失踪の調査だが魔族が関与していたとなれば事の重大さが変わってくる。


ベルン共和国にはサルサ村のほかにも集団失踪をしている村々がある。

断定はできないが他の悪魔族が関係している可能性もある。

ヘルポイの冒険者ギルドは報告を受けた後、これ以上犠牲を増やさないためにも

失踪した村々への立ち入り禁止をベルン共和国内の冒険者ギルドに通達したという。


眉唾物の話だがそれを信じ実行させたのはジュウシロウへの信頼らしい。

どうもジュウシロウとゾルテという冒険者はかなり名の知れた冒険者で

冒険者ギルドに一定以上の発言権を持っている様子。


俺たちが戻ってきたころには冒険者ギルドはその対応に動き終えていた。

昨日のことなのにすでに対応を終えている辺りは流石というべきだろう。

個人的に魔族と遭遇したぐらいで終わらせるつもりだったが、

報告が終わっている以上どうしようもない。

俺たちは特に報告をするわけでもなく、報酬を貰うことになった。


今回の件に関して一人当たり金貨二百枚の大幅増額になった。

その一つに今回の件が魔族と関係があったことに対する詫びと口封じの意味合いも

含まれているのだとか。

ちなみに金貨二百枚を目にしたハルカは固まった。

ハルカからすれば見たこともない大金なのだそうだ。

この状況に慣れ始めている自分が怖い。


冒険者ギルドを出るとでジュウシロウとゾルテが馬車に乗り込んで俺たちを待ち構えていた。

俺たちはジュウシロウを無視して馬車に乗り込み出発させる。


「海魔獣に上位魔族の討伐。評価はうなぎのぼりじゃねえの?うらやましいね」


「…本当に勘弁してください…」

恨めし気にジュウシロウを見る。


「…評価上がって嫌な顔する冒険者初めて見たぜ」

ジュウシロウが動いたのは他の冒険者のことを考えてのことらしいのだから文句は言えない。

冒険者ギルドに報告を上げる手間が省けたというのもある。


「でも上位魔族って…」


「嘘は言ってねえよ。あいつら二千年以上生きた旧きモノと自分から名乗っていたしな。

旧きモノは上位魔族だ。実力も相応にあったしな。それにこっちのほうは大目にもらえただろ?」

ジュウシロウはにやにやしながら、手で金のしぐさをみせる。


「分け前は半々でいいですか?」

俺はジュウシロウたちに分け前を袋に手をかける。

魔族を犠牲なく退けられたのはジュウシロウたちの力によるところが大きい。

もしジュウシロウたちが来てくれなかったと思うと背筋が凍る思いだ。

だから参戦してくれたジュウシロウたちには心から感謝していた。


「いいっていいって。俺たちもちっとはもらったしな」

笑いながらジュウシロウ。


「助けていただいて分け前も払わないとか悪いですよ」


「別に金なんぞ腐るほど稼いでるしなー。次の街で一杯おごってくれればいいぜ」

「わしには魔石を少々もらえるとうれしいの」

二人を見てつくづく思う、ゼームスといい上位の冒険者ってのは金にルーズだなと。


「…わかりました。そういうことなら…次の街って…、

ジュウシロウさん、このまま俺たちについてくるつもりですかっ?」

俺は思わず声を張り上げる。


「いいじゃねえか。それにうちの元弟弟子のココノエの話も聞きたいしな」


「元弟弟子?じゃ…」

ココノエを知らないハルカを除いた皆の表情が固まる。

ちなみにココノエというのは竜王国の竜騎士の一人であり、世話になった人である。

プラナッタ王国の一件の後、竜王国に戻っていった。


「ここだけの話、俺もあいつらと同じ竜族だ」


「ええっ」

俺とエリスとセリアは同時に声を上げる。ハルカだけはわかっていないみたいでぽかんとする。

にしても世の中狭いよ…。


「あいつを倒したって聞いたときから『渡り鳥』には興味があってな。

ライラックからあんたらのことはつけさせてもらった」

なるほど。ジュウシロウは海魔獣の一件以前から俺たちに目をつけていたらしい。


「それに旅は道連れ世は情けっていうだろう、はっはっは」

ジュウシロウは笑いながらなれなれしく俺の肩に手をまわして叩いてくる。

恩人であるために強く出れないし、パーティのメンバーに悪くいう者もいない。

身元は割れてるし、悪い人間じゃない。何よりうちのメンバーも受け入れている。

セリアが気に入ってるから悪い人間でもなさそうだ。


「…もう勝手にしてください…」

しばらくはこの状況もいいかと俺は諦め、ため息を吐いた。

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