リーダーとしての仕事
三部になりました。完全趣味です。マイペースで頑張りますので良ければよろしくお願いします。
中央六華国はコルベル連王国、ベルン共和国、ラシード都市国家群、エウスピナ連邦、バルディア王国、メルフェスカ公国
の六つの国からなる一つの経済圏である。
この六つの国々では流通する金貨は取り決めがなされており、ほぼ統一されているという。
他にも六つの国々では多くの条約や取り決めがなされている。
この六つの国々に共通しているのは肝心な武力を冒険者ギルドに依存しているという点だろう。
それというのもSランク冒険者『十天星』が、一人一人国家の所有する軍にも匹敵する武力を有しているためだ。
それらが所属し、運営するユニオンは現在三つあり、それらの拠点があるために武力に回すべき予算が最小限で済んだ。
冒険者ギルドは魔の森の管理を主軸としている。魔の森というのは魔物を生み続ける森のことである。
魔の森を放置し、戦争を何年も起こされると人類が滅ぶ危険がある。
人類の国家間の紛争に目をつぶっていた冒険者ギルドだったが、そのような背景から戦争介入を選ばざる得なかった。
冒険者ギルドという武力の背景が、中央六華国は武力に金を注ぐことなく経済に金を回すことが可能となり、
中央六華国は空前ともいうべき経済的な繁栄を謳歌することになった。
六つの国がこの世界で最も反映した背景、中央六華国と呼ばれる背景がそこにある。
もちろんそれらに目がくらんだ侵略者もいたが、二度ほどあった大規模な侵攻もSランク冒険者『十天星』により鎮圧されている。
長く続いた繁栄は緩やかな腐敗を生み、商人たちは力を増し、貴族は徐々にその力を失っていく。
また六つの国の中でも負け組と勝ち組が明確に分かれつつある。
繁栄の裏で歪な社会構造が生まれつつあった。
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現在滞在するライラックという港町は半島国家ベルン共和国の最北端の港町である。
サムディニア大陸の北端にあり、そのまま南に行けば目的地であるカロリング魔導国にたどり着く。
旅を始めたきっかけはセリアにきちんとした学校に通ってもらいたいというのがある。
順調にいけばあと二か月だ。サルア王国から長旅だったなあと思う。
俺たち『渡り鳥』はその港町ライラックの宿を借りて五日滞在している。
プラナッタ王国の一件でクラスタは離脱。オズマは遅れてくることになっている。
ちなみにセリアは魔法の修行でゲヘルのいる『極北』に行っていて、エリスといえば付近の魔の森で狩りをしている。
明後日には合流予定である。
昨日俺は夜遅くまで宿でパーティメンバーの取り分の計算をしていた。
俺は取り分はきっちり分けるべきだと思っている。人の成果を横取りするような真似は嫌だ。
そんなわけで取り分の計算を計算していたのだ。
冒険者チーム『渡り鳥』の金銭上の管理は全部俺任せになっている。というのも特に頓着する奴がいないためだ。
少し前にクラスタがパーティを抜けることになったので手持ちの金貨のほとんどを渡してしまった。
そんなわけで持っていた白金大金貨を換金する必要に迫られたのだ。
白金大金貨というのは貨幣の中でも最大の価値を持っている。偽造防止の刻印を施され、さらにその流通量も限られているという。
同時に白金大金貨を換金する場所も必然的に限られてくる。
現在俺のいるライラックの港町はできるということなのでオズマを待つのと、
白金大金貨の換金のためにしばらく滞在することにしたというわけだ。
昨日銀行のような場所で五枚交換しようとしたが、白金大金貨を取り出すと店の中は大慌てとなり換金が終わるまで丸一日かかった。
なんでも店にある金貨の枚数が足りてなかったらしい。ちなみに白金大金貨一枚で金貨一千枚。金貨五千枚となる。
それで換金するだけのはずが、関連の店を巻き込んだ大騒ぎになってしまったのだ。
面倒事はもう二度とごめんだ。換金する場所にもこれからは首都とか発展してる場所にしようと俺は心に誓う。
まあこの交換の時のひと悶着が、大騒動のきっかけになるのだが、この時の俺は知らない。
ちなみにベルン共和国は中央六華国の一つ。前述したとおり、通貨は一緒である。
こんな厄介なものを手に入れたのは冒険者ギルド最大の問題児と関わってしまったことが原因である。
その名はゼームス。理不尽を人間にしたような男で、竜王国の問題とプラナッタ王国をめぐる事情で関わることになった。
討伐報酬に白金大金貨二十七枚とか正気を疑うレベルである。
現在手元にある白金大金貨は二十二枚。もし五枚以上出してたらと思うと店側に断れたのではなかろうか。
手持ちでこの港町ごと買収できそう。
…奴と関わっていると金銭感覚が崩壊していく気がする。
ちなみに俺がそんな大量の金貨を持ち運びできるのには理由がある。
右腕は『極北』の魔神であるゲヘルから新調された『収納の腕輪』があるためだ。
これがあればどこかの空間にモノをしまっておくこともできるし、自在に取り出すこともできる。
『極北』の魔神たちからもらったアイテムであり、『収納の腕輪』の他にもある。
『極北』の魔神は六体。人類が恐れる魔神であり、ある出来事がきっかけで彼等から俺はそれぞれの魔道具を貰っている。
ゲヘル・カロリングからは街すら収納できる腕輪『収納の腕輪』を。
ゼロス=クルエルミからは失った腕の代わりになる義手『黒い腕』を。
クベルツン=アーリアからは何にでも変身できる生きる刺青『黒蜥蜴』を。
ラーベ・ファウ・ヴィスカリオからは人に命令を聞かせることができる『魔眼のネックレス』を。
ネイア・フラトリスからはイヤリングで操れる人工衛星『天の目』を。
ヴィズン=ヲーリオからは彼自身の最高傑作の剣『天月』を。
この六つどれもが人間側の既存の技術をはるかに超越した破格の性能をもっている。
プラナッタ王国で左手を失った代わりにゼロスからもらった『黒い腕』は現状、問題なく使えている。
ゼロスから貰った左手の黒い腕は今のところ問題なく使えている。腕が黒いので左手だけは長袖に手袋と、皮膚が見えないようにしてある。
ここに来るまでにいくつか検証したが、腕のサイズを巨大化できるたり、イメージ通りに変化させることができた。
また、巨大な口になって相手を食えた。ちなみに魔物を食べさせてみたが普通に食べた。
なお、食べたものがどこに行ったのかはわからない、ちょっと怖い。腕を貰っておいて文句はないが。
通りに面する窓から日の光とともに海産物を焼いたいい匂いが部屋に入ってくる。俺は空腹感を覚えた。
俺の肉体はこの世界に来てなぜか肉体が魔族になっていた。
魔族の体は見た目は人間と一緒であるが、年を取らない。際立った弱点も存在しない。
魔素が潤沢にあれば食事は必要はないが、魔素が薄い人間界だとエネルギーの代償として食事をとらなくてはならない。
また俺が魔族であるということも問題である。
魔族のほとんどは『極北』に棲んでいる。それは長い人間との歴史で共存できないと出した答えでもある。
そもそも魔族は人間にはあまりよく思われていない種族だし、知られたらどんな目にあうかわからない。
最悪人間社会から追放される場合もあるだろう。
魔族は人間とは隔絶した技術や知識を持っている。それらを欲して俺に近づいてくるものもいるだろう。
魔族だと知られて損をしても特をすることはないのだ。
幸い俺は見かけは人間そのもので、運よくそれを隠しておりばれていない。
俺はカーテンを開けて外の通りを見下ろす。通りには活気が満ちてきている。
港町の朝は早い。今の時間ならばどこかの食堂が開いてるかもしれない。
俺は背伸びをすると立ち上がり部屋を後にした。