公爵令嬢はピヨピヨ精霊に恋をする。
「シルデフィア・デルベルグ公爵令嬢。そなたは、ここにいるリーナ・カルダス男爵令嬢を虐めていたな。そなたの悪行許しがたい。よって婚約破棄をし、私はリーナ・カルダス男爵令嬢と婚約を結ぶ。」
卒業パーティで、こう言ってのけたのは、この国のアルド王太子である。
リーナと呼ばれた茶色のふわふわした髪の女性は勝ち誇った笑みを浮かべて、アルド王太子殿下にべったりとくっついていて。
「私はシルデフィア様に虐められていたのですっ。ですからこの女に断罪をっ。」
アルド王太子も頷いて、
「そうだ。お前はリーナを虐めていたのだからな。それ相応の…」
「おだまりなさい。」
銀の縦ロールの髪に、きつめの顔。
まさに悪役令嬢そのままのシルデフィアはアルド王太子の前に堂々と進み出て、
「本当に婚約破棄をしてくださるのですね?その言葉に二言はありませんね?」
アルド王太子は頷いて、
「何だ?何が言いたい。」
「わたくしは貴方との婚約を白紙にしたくてしたくてたまりませんでしたわ。
何故なら…わたくしも…好きな方がいるのです。」
「何だって?」
「だからそこにいるリーナとやらを虐めるなんてとんでもありませんわ。
王家の命だから、我が公爵家は従っていたまでで、ですから、断罪は受け入れられません。
婚約破棄は喜んで受け入れさせて頂きます。それでは失礼致しますわ。」
ドレスを翻し、会場を後にするシルデフィア。
慌ててアルド王太子はその背に声をかける。
「どこへ行く??」
「勿論。わたくしの愛する方の元へ参ります。では皆様ごきげんよう。」
優雅にカーテシーをすると、急いでその場を後にするシルデフィアであった。
かといって、まずは婚約破棄を受け入れて身を綺麗にするのが先である。
シルデフィアは父のデルベルグ公爵に報告をし、王家と交渉して貰い、婚約破棄を受け入れた。
ただし、非があるのはアルド王太子である。
そこの所はしっかりと王家の陰が調べ上げていたので、こちらは慰謝料を貰う事が出来た。
ああ…やっとわたくしはあの方にアピールする事が出来るわ。
今までアルド王太子の婚約者という枷があったから、アピールする事が出来なかった。
他の令嬢達は嫌と言う程、彼に付きまとって、アピールしていたのに。
わたくしは負けないわ。
アルド王太子は卒業したけれども、わたくしは後、一年、王立学園に在学出来るのですもの。
その間に彼にアピールして、我が公爵家に婿入りして貰うの。
他の国の令嬢は、今までの王妃教育の時間を返してだなんて情けない事を言っていますけれども、わたくしは…
勉学に無駄なんて一つもないと思っていますわ。
今まで受けた王妃教育も、王妃になれなくてもきっとわたくしを輝かせてくれる。
だから、あの人もわたくしの夫になる事を喜んで受け入れてくれるはずですわ。
なんせ、わたくしは、デルベルグ公爵令嬢。わたくしのような美しく最高の教育を受けているレディを振るなんて考えられない。
アルド王太子は愚かだったからわたくしより、男爵令嬢なんぞに現を抜かしましたけれども…
シルデフィアや他の令嬢達が想いを寄せている男性と言うのが、
オルドール・アイスレッド伯爵令息である。銀の髪で背の高い彼は王立学園で成績も学年で一番であり、剣技も優れていて、誰も彼に敵う者はいなかった。
しかし、モテるはずの彼は何故か婚約者もいない。
フリーだった事も手伝って、彼は全女生徒の憧れだったのだ。
シルデフィアもオルドールに憧れている女生徒の一人だった。
王立学園でのクラスが違うので、接触はまるでない。
あまりにイイ男なので、銀の月とあだ名がついている彼は、人付き合いは苦手らしく、
昼休みはぶらりとどこかへ姿を消してしまい、男女ともに友達と呼べる人もいないようである。
今日は王立学園も休みである。
シルデフィアは、目出度くフリーになったので、
さっそく彼が住んでいる王立学園の寮を訪ねる事にした。
☆
銀の月とあだながついている彼はどうしていたかと言うと、
思いっきり風邪を引いていた。
頭が痛くて痛くて仕方がない。
寮のベッドで寝込んでいたのだ。
「まずいな…この状態は非常にまずい…」
そう…彼は実はピヨピヨ精霊だった。
ピヨピヨ精霊とは、身体が球体でつぶらな瞳に、羽が生えている森に住む小さな精霊である。
正確には人間とピヨピヨ精霊の夫婦から生まれた半ピヨピヨ精霊なのであるが。
ピヨピヨ精霊の遺伝子は強い。
彼は体調が悪いと、ピヨピヨ精霊になってしまうと言う非常にありがたくない宿命を背負って生きてきたのであった。
そして、今、まさにピヨピヨ精霊になるという危機を迎えている。
ついに体調が限界を迎えて、ベッドの中で彼はピヨピヨ精霊になってしまった。
丸い身体に小さな羽、一応くちばしは着いている。
ぴよぴよと鳴きながらベッドの中で震えるピヨピヨ精霊。
- ハチミツ…ハチミツを食べないと…食べて眠れば体調が回復して人の姿に戻れる… -
棚にしまっておいたハチミツのツボを出そうと、小さな羽を動かして棚に近づくも、
ふらついていたせいか、ハチミツのツボにぶつかって、床にツボが落ちてしまった。
ガシャンと割れるツボ…
流れ出てしまうハチミツ。
ぴよぴよぴよぴよ…
大事なハチミツがっ…
床にぽてっと降りて、ハチミツをくちばしでつついて舐める。
その時、扉の鍵を回す音がした。
- 何故っ???扉が?鍵が何故っ?? -
慌てて、ベッドの中に逃げ込むピヨピヨ精霊。
毛布の中で脱げてしまった服の中に更に潜り込んで、ともかく隠れる。
誰か入って来た???
何で?何故っ?
知らない女性の声がした。
「寮長様。有難うございます。中で待たせて貰いますわ。」
「いえいえ。シルデフィア様を外で待たせる訳にはいきませんから。
彼は出かけているようですね。」
「そうね。」
- ノックぐらいしてくれっ。でも、答える事も出来ないか…ぴよぴよとしか今は鳴けない。シルデフィア?ああ、あの卒業パーティで王太子殿下に婚約破棄を言い渡された噂の令嬢か… 俺に何用で来たんだ? -
はっきり言って、あまりよく知らない令嬢である。
他のクラスで接触もまるで無かった。
銀の縦ロールの、キツイ顔立ちの美しい令嬢だったような記憶はあるが。
その令嬢は椅子に座ったようである。
しかし、オルドールは困ってしまった。
このまま居座られたら…本当に困る。
その時、ムズムズして、ついくしゃみをしてしまった。
くしゅんっ。
「あら、ベッドの方から何かくしゃみの音がしたわ。」
- まずいっ。見つかってしまう。-
ベッドの端に逃げるピヨピヨ精霊。
思いっきり毛布をめくりあげられて、目と目が令嬢と合ってしまった。
「まぁ、オルドール様ったら、ペットを持ち込んでいたなんて。」
そして、令嬢に抱き締められてしまったのだ。
「なんて可愛いんでしょう。オルドール様がこっそりと飼っている気持ち、解りますわ。」
「ぴよぴよぴよ。」
もう、鳴くしかなかった…
そして夜になってしまって、ピヨピヨ精霊はデルベルグ公爵家に連れて来られてしまったのだ。
「どこ行ってしまったのかしら。オルドール様。仕方ないわね。メモを残しておいて、
今夜はわたくしが貴方を預かる事にするわ。」
― 預からなくていいっ… -
オルドールは泣きたくなった。
いやもう、ぴよぴよと鳴くしか出来ないのだけれども。
デルベルグ公爵家のメイドの女性が、
「ピヨピヨ精霊ですね。お嬢様、」
「まぁ、この子、精霊なの?」
「はい。深い森の奥に住んでいるはずですが…食べ物は確か花の蜜…ハチミツなら喜んで食べると思います。」
「それならハチミツを用意して頂戴。」
皿にたっぷりと高級ハチミツが用意されて、
オルドールはそのハチミツを見て、ピヨピヨ精霊の本能で、思いっきり皿に飛びついていた。
凄い勢いでくちばしでハチミツを突いて、食べまくる。
- 美味しい美味しい美味しいっーーー。ぴよぴよぴよぴよぴよぴよーーーー。 -
その様子を見ていたのか、シルデフィアの笑い声が聞こえて、
「まぁ、お腹すいていたのね。沢山食べて頂戴。」
ハチミツをお腹いっぱい食べたら、眠くなった。
シルデフィアはピヨピヨ精霊を抱き上げて、
「一緒に寝ましょう。明日、オルドール様の所へ返してあげますから。ね?」
その声を聞きながら、オルドールは意識を手放したのであった。
翌日の事である。
「きゃああああああああっーーーーーー。」
女性の悲鳴でオルドールは飛び起きた。
ベッドでネグリジェ姿で悲鳴をあげている女性は…シルデフィア。
そして、自分の姿は、素っ裸の人間の姿で。
「いやそのっ…」
「いつの間にっ。」
「誤解だっ。」
慌てて、毛布を身体に巻くと、廊下に飛び出る。
あっという間に男性の使用人達、数人に取り押さえられた。
オルドールは思った。
公爵家の令嬢のベッドに素っ裸で潜り込んでいた。
これはもう、人生が終わったのではないのか…
そう、覚悟した。
☆
シルデフィアは、部屋で縛られているオルドールと対面した。
騎士団へ連絡して引き渡す事も出来る。
でも…この公爵家に裸で忍び込むなんて、
まして、シルデフィアの部屋は二階だ。
使用人の目をくらまして、忍び込むのは非常に難しい。
シルデフィアはオルドールに尋ねた。
「質問に答えて頂戴。貴方はどうやってわたくしのベッドに忍び込んだの?」
「言いたくない。」
「それとも、わたくしが貴方をベッドに引き込んだのかしら…貴方はもしかして、信じたくはないけれども、ピヨピヨ精霊?」
オルドールは俯いて、
「俺の母がピヨピヨ精霊で…その遺伝子が強く出てしまったんです。だから疲れたりするとピヨピヨ精霊になってしまう。そんな自分が嫌で…。誰とも婚約を結ばなかったんです。」
「それなら、その秘密を知っているのは、貴方のご両親と、わたくしだけですわね。」
シルデフィアはオルドールの顔を覗き込んで、
「わたくしと婚約を…公爵家に婿に入りなさい。そうしたら、貴方の正体は黙っていて差し上げますわ。」
「脅すのですか?」
「わたくしは貴方の事をお慕い申し上げておりましたの。でも、王太子殿下の婚約者。貴方の事、諦めていましたのよ。今はフリーの身、貴方にわたくしの想いを告白しようと寮を尋ねましたの。貴方程の出来る男は学園にはいない。だから、わたくしの夫になって頂戴。」
「でも、俺はピヨピヨ精霊ですよ。」
「そんなの貴方の優秀さからすれば、些細な事だわ。」
シルデフィアは、にっこり笑って、
「承諾しなければ、このまま騎士団へ渡しても良くてよ。」
「解りました。貴方の申し出を受けましょう。」
「うふふふふ。いい子ね…」
可愛い人…
そう、わたくしは最も優れた公爵令嬢なのだから…わたくしの思うがままに生きてもいいわよね。
「わたくしはシルデフィア・デルベルグ。王妃教育を受けて来たこの国で一番優れた女性だと自信を持って言えます。わたくしの伴侶になって後悔はさせないわ。
オルドール・アイスレッド。愛しているわ。」
オルドールに口づけをする。
相手がピヨピヨ精霊であろうと、関係はない。
いえ、返って可愛いじゃないの…
愛しい男性を抱き締めて、シルデフィアは幸せに浸るのであった。
オルドールと結婚をし、女公爵となったシルデフィア。
アルド王太子は廃嫡されず、リーナが王太子妃となった為、
恥さらし王太子妃と出来る女公爵、と二人は比較されて、この国の政務官たちは婚約破棄をしなければよかったのにアルド王太子殿下と嘆きながら、非常に苦労したと言う。
シルデフィアは、オルドールの助けを借りて、領地を発展させ、
それはもう、社交界でも大きな顔をして過ごした。
二人は仲良い夫婦として子にも恵まれ幸せに暮らしたと言う。
オマケストーリー付き。
「セレリオ・ミッシーナ伯爵令息の憂鬱」
「シルデフィア・デルベルグ公爵令嬢。そなたは、ここにいるリーナ・カルダス男爵令嬢を虐めていたな。そなたの悪行許しがたい。よって婚約破棄をし、私はリーナ・カルダス男爵令嬢と婚約を結ぶ。」
この国のアルド王太子がよりにもよって、リーナと言う茶色のふわふわした髪のいかにも馬鹿っぽい女性を新たに婚約者に選んだのを見た、セレリオ・ミッシーナ伯爵令息は眩暈がした。
シルデフィア・デルベルグ公爵令嬢は他に好きな人がいるのでと喜んで、婚約破棄を受け入れると言いきって、会場を出てしまったのである。
あんな馬鹿女を婚約者にしてどうするよーー。王太子殿下っ。
セレリオは王宮の外交部署へ勤務する事が決まっていた。
何故、外交部署に勤務する事になったかと言うと、セレリオは外国語が堪能だったからである。
母が遠国から嫁いで来た女性だったので、母の国の言葉も話す事が出来た。
その他に近隣諸国の言葉も勉強し、あらかた話す事が出来る。
母の国と言うのが、マディニア王国である。
この国、フィリオス王国はマディニア王国と離れている遠い国であった。
しかし、マディニア王国と貿易をしたいと願っていたのである。マディニア王国は魔国とも繋がりがあり、資源が豊富だ。
遠国でも貿易する事に価値はある。そうフィリオス王国の方針だった。
マディニア王国はともかくフィリオス王国と離れている。
国が離れれば、言葉も離れる。
だから、マディニア王国語を話せるセレリオは王宮の外交部署で歓迎されたのだ。
即採用が決まり、卒業後、就職する事が決まっていた。
馬鹿な王太子妃の尻ぬぐいをする未来が見えている。
セレリオは泣きたくなった。ああああっ…王宮の外交部署に就職を決めた自分を呪いたい。
先行きどうなるんだろう?
そう、そしてその心配は現実になったのであった。
外交部署に配属されてから二か月後、マディニア王国のディオン皇太子殿下が訪問されたのだ。
当然、アルド王太子は卒業後、すぐにリーナ・カルダス男爵令嬢と結婚してしまった。
王妃教育もあったものではない。
まったくの素人が王太子妃になったのだ。
普通だったら、こんなバカ王太子、廃嫡になっているであろう。
しかし、アルド王太子以外に子がいなかった。
だから、フィリオス王国のアルフォンス国王も王妃も、アルド王太子を廃嫡出来なかったのである。
シルデフィア・デルベルグ公爵令嬢なら完璧に王太子妃、先行き王妃を勤めたであろう。
10年も前から、王妃教育を受けさせてきた出来のよい公爵令嬢なのだ。
しかし、リーナを今から王妃教育をさせてはいるが、
「こんな難しい事わからなーい。」
とばかり、出来が悪く、すぐに逃げ出す始末で、王家としても頭を抱えている王太子妃だったのだ。
そんな中、ディオン皇太子の訪問である。
外交部署に配属されて2か月しかたっていないセレリオの大舞台が来てしまったのだ。
仕事は通訳である。
ディオン皇太子も、通訳を連れているはずだが、向こうの都合のいいように通訳されてはたまったものではない。だから、こちらからも通訳を用意して、事に当たらなければならないのだ。
そして、リーナ王太子妃はさっそくその場でやらかしたのである。
アルド王太子がリーナ王太子妃と共に、ディオン皇太子を出迎える。
ディオン皇太子は背も高くイイ男だ。
王宮の赤絨毯の廊下で、ディオン皇太子を出迎えたリーナ王太子妃が、
「まぁ…なんてイイ男っ。アルド様より、ディオン様の方がいいなぁ。私、マディニア王国へいきたーい。」
アルド王太子は真っ青になる。
向こうの通訳も怪訝な顔をしている。(ちなみに向こうの通訳は女性だった。)
慌ててセレリオは取り繕う。
「王太子妃様は、名高いディオン皇太子殿下にお会い出来て、とても光栄ですと言っておられます。」
ディオン皇太子は満足げに、
「そうか。俺もお二方にお会い出来て嬉しいぞ。」
向こうの通訳がディオン皇太子の言葉を伝えて来る。
アルド王太子が何か言う前に、リーナ王太子妃が、
「リーナに会えて嬉しいだなんてーー。あ、そうだ。ディオン様って黒百合の痣があるって有名ですよねー。リーナ、みたいですわーー。脱いで下さらない?」
ひえっーー。この女、またしてもとんでも無い事をっ。
セレリオは懸命に取り繕う。
「ディオン皇太子殿下は黒百合の痣が有名だそうで。黒百合の痣を背負った皇太子殿下の銅像がマディニア王国の広場にあるそうですね。いつかその銅像を拝見したいと申しております。」
ディオン皇太子では頷いて、
「確かに広場に俺の銅像がある。我が国の観光スポットにもなっているが。我が王国へ来た時に案内させよう。」
女性通訳がディオン皇太子の言葉をそのまま通訳する。
そして付け加えるように。
「ここは公共の場だ。まことに済まないが、脱ぐわけにはいかない。」
と機転を利かせてくれた。
そして、セレリオに向かってウインクをする。
ともかく、このスットコドッコイの王太子妃の言葉を、ディオン皇太子に伝えてはならない。
向こうの通訳も上手く取り繕ってくれているのが、助かっていて。
リーナ王太子妃はぷうううっとふくれっ面をし、
「えええええっ。それじゃいつ見せて下さるのーーー?二人っきりになったら見せてくっださるのーーー?いいわぁ。二人っきりになりたいっーー。」
セレリオは、内心ひやひやしながら、
「有難うございます。いつかそちらの王国へアルド王太子殿下と伺う時は、是非。広場の有名な銅像を拝見したいと存じます。」
ディオン皇太子はハハハと笑って、
「そろそろ国王陛下の元へ案内してくれ。本題に移りたい。」
「承知しました。」
凄く疲れた。マジで疲れた…
この後はアルフォンス国王と王妃と、ディオン皇太子殿下は対面し、
他の政務官達も加えて本格的な話し合いが行われた。
その通訳は疲れる事は無かった。
そのまま伝えればよかったのだから。
リーナ王太子妃が同席してなくてよかった。
二日後、無事、貿易の交渉も纏まって、ディオン皇太子の為に晩餐会が開かれる事になった。
国王陛下と酒を飲むディオン皇太子殿下。
近くでセレリオは控えて、国王陛下の言葉を通訳しなければならない。
そこへリーナ王太子妃がやって来て、ディオン皇太子に抱き着いた。
「やっぱり、とても素敵だわーー。リーナをマディニア王国へ連れて行ってーーー。」
驚いたのがアルフォンス国王である。
いきなりリーナ王太子妃がディオン皇太子に抱き着いたのだ。
セレリオは慌てて、ディオン皇太子に説明する。
「これは、挨拶です。挨拶っ。我が国に来てくださって有難うございます。リーナ、感激ですわーーー。と挨拶をしているのです。」
ディオン皇太子も驚いていたようだが、
「そうか。随分と情熱的な挨拶だな。」
アルド王太子がやってきて、慌ててリーナ王太子妃を引き離す。
そこへ、婚約破棄を以前されたシルデフィア・デルベルグ公爵令嬢が優雅にドレスを纏い、やって来て。
「シルデフィアでございます。ディオン皇太子殿下。お久しぶりですわ。」
綺麗なマディニア王国語でディオン皇太子に話しかけたのだ。
ディオン皇太子は嬉しそうに、
「久しぶりだな。シルデフィア。美しさに磨きがかかったな。」
シルデフィアは優雅に微笑んで、
「有難うございます。女は成長するものですわ。わたくし、女公爵になる予定ですの。改めて、ディオン皇太子殿下にもご挨拶に伺いますので…我が領地のワインを持って。」
「デルベルグ公爵家の領地のワインは美味いからな。楽しみにしている。なんなら纏めて購入してもいいぞ。」
「有難うございます。嬉しいですわ。」
セレリオは思った。
なんていう違いだっ…なんていう。あの馬鹿王太子殿下が婚約破棄をしなければ、こんな苦労はしなくてよかったのに。
アルド王太子は不機嫌になるリーナ王太子妃の機嫌を取っているようで。
「もっとディオン皇太子殿下とベタベタしたかったわーー。」
「君は私の妃だろう?」
「でもぉ。」
「でもじゃないっ…」
セレリオは思った。
フィリオス王国の先行きがものすごく心配だ。
凄く凄く心配だ…
シルデフィアがセレリオに声をかけてきた。それも、マディニア王国語で。
「実権を握らせなければよいのですわ。お飾りの王妃。お飾りの国王。
そのためにも優秀な宰相が必要ですわね。」
「優秀な宰相…」
ディオン皇太子もセレリオに、
「お前はまだ若い。期待しているぞ。出世して…この王国を救ってやれ。」
「解っていたのですか?あの王太子妃の言葉…」
ディオン皇太子はハハハと笑って、
「少しはな…最初、耳を疑ったが。シルデフィアが王太子妃になれば、この国も救われたと思うが…」
シルデフィアは嫣然と笑って、
「わたくし、婚約致しましたの。優秀でわたくしの好きな方をデルベルグ公爵家に迎える予定ですわ。」
そう言うと、
「それでは、失礼しますわ。」
その場を去って行ってしまった。
セレリオは思った。
必ず出世して、この王国を…良き方向へ導かないと…
後にセレリオは出世し、宰相になり、アルド王太子とリーナ王太子妃が、
国王と王妃になった時、実権を握り、フィリオス王国を発展させることになるのはまだまだ先の事。
今はただ、不安を抱えながら頑張ろうと思うセレリオであった。