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01-07 ゲスな宝石商

※ 話の都合上、登場人物をゲスに描いておりますが、あらゆる文化、人種、性別への差別を意図するものではありません。ご承知おき下さいませ。


 高架下という場所から出たところでふと上を見上げたマナがこっちの世界のスマホとかいうものをさわり始めた。


「なにしているの?」


「ん、これから会いに行く奴に連絡をしている」


 スマホは遠くの人に手紙や声を届けたりできるらしい。あと図書館の中身が見れるとか。

 こちらの機械で一番に欲しいものだったけど、電気の他に基地局とかいう大規模施設もなければ機能しないとか。

 なかなか上手くはいかないものだ。


 マナが再び歩き始めたのでついていくと、宝石の絵が描かれた看板を掲げる店が増えてきた。

 建物も古びていたり小ぶりになってちょっと安心感。

 

「このあたりは鉱物の問屋街なんだ。石を売るなら石屋だろ?」


「お店は三種類あるみたいだけどこれから向かう店はどれなの?」


 見た所問屋は高級宝石を扱う店と大きな原石や玉石を売っている店の三種類あるみたいだ。

 一つはやたら照明が明るくて黒い服の店員がいる店。多分こっちは貴石を扱う店なんだろう。

 もう一つは似ているけど店員が高齢。多分指輪の台座を直したりする工房だ。

 最後の店は一番多くて、色とりどりの石が修道僧の数珠のようになって壁に掛かっている。


「普通の問屋は貴石以外買い取りはしていない。これから行くの少しグレーな場所だ。そこでは僕はゼンザエモンのいとこのマナで、ヴィータは外国から来たマナの友人という事で通して欲しい」


 グレーって、この国の治安がどうなってるか知らないけど、そんな所に乗り込むの? 用心棒とかいるのかな?


「ヤバい時にはためらわずに殺していい?」


 マナ、無言で眉間にしわを寄せるのやめて。心の距離を感じるから。



「確かにこれから会う相手はクズだけど、この国では殺人は重罪だし、警察は優秀。何より商人としての奴は有能だから殺すのは駄目だ」


 相手が可哀想だからじゃないんだ。

 やばいな異世界と言ってマナが引いてるんだけど、私だってたくさん人を斬れば心が消耗するんだからね。人としての感性は死んで無いんだからね。

 マナこそパロナールに行ったら顔色一つ変えずに殺しとかしそうなんだけど?

 とか考えているうちに目的の場所に着いたらしい。


「こんにちは。ゼンザエモンの紹介で来ました」


『ハイハイようこそ入って~』


 看板の掛かっていないドアの横にある呼び鈴を押すと、軽薄そうな男の声が聞こえてきた。

 心なしか、ただでさえ冷たいマナの声がさらに冷たかった気がする。

 ガチャリという音の後、綺麗に整えられた髪と髭を持つ、褐色の肌をした男の人が出てきた。


「はーじめましてーアサドで——ってクリスちゃん⁉」


 出会い頭にマナを抱きしめようとした鼻筋の通った褐色の美形がよく調教されたライオンの様に固まる。

 マナがさっき食べていたケバブサンドのソースがついた包み紙を突き出したからだ。

 汚したくないんだろうな。あの服高そうだもの。


「似ているとよく言われるが私の名はマナで、クリスはいとこだ。口調が全然違うだろう?」


 平坦な口調で自己紹介をするマナ。でも私はわかっている。この男、無表情の貌の裏で絶対楽しんでいる。


「そうだね、どちらかといえばゼンザエモンに似ている……ん?」


 肩を落としていた男の視線がつと私に向けられた。

 かと思うと、次の瞬間には夜会の貴公子もかくやとばかりの立ち姿で男が微笑んでいた。


「ご挨拶が遅れ、大変失礼致しました。私、古物商を営んでおりますアサドと申します。以後お見知りおきを」


 そういって男は胸に手を当てて腰を折る。

 その姿に私は思わずため息をついた。

 出会い頭にマナに抱きつこうとした醜態を見せておきながら貴公子面できるメンタルの強さがうらやましい。


「私はヴィータと申します。本日は友人のマナに連れられおたずねした次第です。よろしくお願いしますね」


 しかしどんな相手でも私は淑女。最低限の礼儀は見せなければならない。

 

「素晴らしく美しいレディ達と知り合う事ができた今日という日に感謝致しますよ。さて、お話の前にお茶をお持ちします。ソファでお待ちください」


 室内に通した後、にっこりと笑ったアサドが奥の扉の向こうへと消えていく。

 水の音がするからあそこに調理の機械があるのだろう。


「※※、※※※※~。※※※?※※※※※※※」


 うげぇ。

 扉の向こうから聞こえてくる独り言の内容にげんなりしてくる。

 欲望がダダ漏れじゃない。

 私の顔を怪訝そうに見ていたマナがそっと口を寄せて訊ねてきた。


「ヴィータ、もしかしてアサドの話している言葉がわかるのか?」


「え? マナにはわからないの?」


「アサドが今話しているのは奴の母国語だ。次元魔法の杖は日本語だけじゃなく奴の母国語も翻訳しているみたいだな」


 まあ確かにそうだよね。日本語だけを翻訳する方が手間だろうし。

 ちなみにアサドが楽しげに話している内容はこうだ。


『クリスちゃんほどじゃないけどマナちゃんの冷たい視線、ゾクゾクくるわぁ。ちょっと幼い外見に尊大な口調も慣れればアリだな。ヴィータちゃんも健康的で良い身体してるから良い子どもを産んでくれそうだし、言葉づかいじゃ隠しきれない頭の悪さがアホ可愛いよ』


 マナに一言一句伝えると少女はさして驚くこともなく頷いた。


「その言葉でアサドがゲスだという事はわかったと思う。けど、そんな奴にも美点というものはあるんだ」


 美点? 彼にそんなものがあるとは思えないんだけど。

 首をかしげていると扉を開けてお茶をトレイに乗せたアサドが入ってきた。

 テーブルに手際よくカップを並べて自らも私たちの対面のソファに座る。


「さて、お茶の前に二人に聞いてもらいたい事がある」


 対面のアサドが端正な顔を引き締めてこちらを射貫くような真剣な視線を向けてくる。

 世の女性であればこれだけで恋に落ちるだろう。

 けれど私とマナはアサドのゲスっぷりを知っているので冷めた視線を返すだけだ。


 アサドはアサドでそんな視線にかまうことなく仕立ての良い服の内側から二つのケースを取り出して開いて見せた。


「一目見た時から僕の心は貴方『達』に奪われてしまった。どうか結婚してくれないか? この婚約指輪は私の財力と気持ちを表したものだ。この世の他のどんな男より君たちを満足させる自信があるよ。さあ」


 素晴らしいカッティングが施された大粒のダイヤモンドが入ったケースが二つ、アサドの大きな手に収まっていた。

 二人同時に愛の告白ってなめてんのか。


「わかっただろう。彼の美点はどこまでも正直である事だ」


「そうね。牧場の獣神パン野郎にあからさまな品定めをされた時以来の生理的嫌悪を感じるけど、その点は認める」


 アサドも私たちに軽蔑されている事は口調と言葉の意味からわかっているだろうけど、微塵もたじろぐ様子がない。

 ホントに何なのこの強メンタル。目の前のダイヤモンドくらい硬いんじゃない?


お読みいただきありがとうございます。

御徒町の問屋街には宝飾店だけではなく原石やパワーストーンなどを扱う小売店も軒を連ねています。

そのあたりを感じていただければなと。


面白い、続きが読みたいと思われた方、ぜひ下にあるブクマを押して続きをお楽しみください。

評価欄も広告の下にあります。

☆☆☆☆☆を★★★★★にしていただけるとすごく嬉しいです!


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