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01-05 性別反転の短剣、そしてケバブ (Side-ヴィータ)

 私が夏服を指さすと、ゼンザエモンが絶句し、目を見開き固まってしまった。

 ふふふ、鉄面皮が歪んでおりますよ?


「サイズがあわないのだが?」


 サイズが合えば着るのか、という指摘はしないでおこう。


「大丈夫よ、これがあるから」


 そういって私は木箱から取り出した一振りの短剣を見せた。

 この性別反転の短剣は刺すことで男を女に、女を男にできる。

 あ、刺すと行っても痛くないし血も出ないから大丈夫。


 伝え聞くところによればひいおじいちゃんがさる貴族に依頼されて作ったものらしい。

 男子に恵まれなかった貴族が娘につけて男として育てたとか。

 その貴族の家がその後どうなったのかは知らないけど、とにかく要らなくなったから製作者の元に戻ってきたらしい。

 まあ普通に考えて業が深い魔道具だし、製作者が管理して正解だと思うけど。


「……そうか。身体が女性になるというなら問題ない」


 短剣の使い方を教えると、ゼンザエモンは服とともに寝室へと入ってしまった。

 あれ、性別が変わるってもっと慌てるものじゃないの? 少なくとも私は子どもの頃遊びで自分に使った時は大騒ぎしたものだけど。


「まあいいや、今のうちに魔道具の整理をしよう」


 木箱を部屋の一角に集めて蓋を開いていく。

 なかにあるのは様々な魔道具、魔道具のジャンク、その他様々な素材だ。

 実家にあるひいおじいちゃんの工房から引っ張り出してきたもので、この箱の中身で次元魔法の杖を修理したのだ。


 この実績をもってすれば魔導技師としての私の名前は一気に挙がる……のだけど、同時に次元魔法の杖は誰かの手に渡ってしまうだろう。

 ライアン家の脳みそに詰まっているのは筋肉だけじゃないと証明にするためにも、今後も魔道具いじりは続けていく所存だ。

 それに、魔術が使えなくても内蔵魔素で動く魔道具が使えるならこちらでの活動も楽になるだろう。


「着替え終わった」


 寝室のドアが開く音とともに鈴がなるような声がした。ずいぶん可愛い声になったねゼンザエモン.



「どう? 女の子になったきぶ——」


 そこにはアンナ様にも負けず劣らずな美少女がいた。

 片方に流れた漆黒の髪が小作りな顔の白さを引き立て、南方のタカラガイのような桃色の唇が楚々としながらもなまめかしく輝く。

 すっと通る鼻筋と丸い額、切れ長のまぶたの中にある瞳は深い夜の海のようで見つめれば引き込まれていきそうだ。

 ちょっときゃしゃで背は私より低いけど、この瞳はたしかにゼンザエモンのものだ。


「うわぁ、性別反転後の姿はその人の血がベースになってるんだけど、すごい美少女になっちゃったねぇ」


「ああ、鏡をみて驚いている。小さい頃の妹を見ている気分だ」


 え、小さい頃でこの容姿って、妹さんどんな美女なの?


「とりあえず髪の毛がうざったい」


 動く度に一切きしむことなくこぼれ落ちていく黒髪に見とれていたけど、確かに邪魔そうだ。

 さらさらの髪に苦戦したけど、結局ヘアバンドで抑えることにした。

 依頼で手に入れたそれなりの物だけど似合わなくて困ってたんだよね。


「どうだ?」


 私の予備のサンダルを履き、腰に手を当てポーズを決めるゼンザエモン。レベルたっか。パーフェクト。


「可愛いんだけど、ゼンザエモンほんとに初めて?」


 無表情のまま首をかしげる仕草まで一々あざといまでに様になっている。


「ええと……しぐさとか女の子らしくて、もしかして女装趣味とか?」


 ゼンザエモンの顔は無表情のままだけど、ごめん、失言でした。だからアンナ様みたいに圧をかけるのは止めて?


「そういった趣味はないけど、僕はコツをつかむのが得意なんだ。これなら外出しても問題はなさそうだな」


 堂々とした立ち姿でうなずくゼンザエモン。腕組みで押し上げられた双丘も実に堂々としておりますねコンチキ。



 ゼンザエモンに連れられて歩きながら、私はこの地球と呼ばれる異世界について一通り講義を受けた。

 魔素が無い時点で想像がついたけど、この世界は魔法ではなく理法——この世界でいう物理法則だけで成立している世界らしい。


 それだけきけば不便そうだけど、まったくそんな事はなかった。

 機械というこの世界の魔道具が非常に発達しているからだ。

 例えば馬車。

 今、広い道の端を歩いているけど、それは道の中央を電気自動車という馬車より数倍速い乗り物が行き交っているせいだ。

 しかもこの自動車というものは多くの平民が持っているらしい。

 これだけでもウチの世界相当負けてるよね? ズキヤ神様ごめんなさい。



 ほかにも色々な機械があって、是非持ちかえりたい……ところなんだけど、機械は魔素の代わりに電気という特殊な雷で動くらしい。

 内蔵魔素のような仕組みを持つ機械もあるらしいから、おいおいゼンザエモンに教えてもらおう。

 それはそれとして……


「ねぇゼンザエモン? ゼンザエモンの個人名って末那っていうんでしょ? 長いからマナって読んで良い?」


 大きな橋の下をくぐった所でゼンザエモンに訊いてみた。

 マナならパロナール王国にもある女性の名前なので私も違和感が無いんだけど、ゼンザエモンは小さな顎にかわいらしい指をあてて考えている。


「……わかった。この姿の時はマナと呼んで構わない」


 よかったー。ゼンザエモンってなんかザ音が多くて可愛くなかったから抵抗あったんだよね。

 

「それより、この辺りから秋葉原という地区に入る。人が増えてくるからはぐれないように」


 ゼンザエモン、もといマナが私の手をぎゅっとにぎる。

 うわ、細いちっちゃい柔らかい……

 しばしの間マナの手をにぎにぎしていると嫌がられたので腕を組むことにした。

 なんか更に嫌がったけど引き剥がせないとわかるとおとなしくなった。

 私に腕力で勝てると思うなよ? 第一女の子同士なんだから良いじゃない。


「ヴィータ、先を急ぎたいんだが……」


 先を急ごうとするマナを大通りの真ん中で強引に引き留めた。私に腕力で以下略。

 いやいや、ちょっとまって感動させてよ。

 色とりどりの看板に覆われた混沌とした建築物と、なによりその下を行き交う様々な格好をした人々に私の目は奪われた。

 ここに来るまでのガラスに囲まれた建物や大きな陸橋にも驚かされたけど、あまり人には会わなかった。

 やっぱり人々のまとう雰囲気が根本的に私の世界とは違う。

 これが異世界の文化なんだ。

 自分が本当に異世界に来たんだと自覚すると、改めて身震いしてしまった。


 再び歩き出すマナの腕をとって知りたいものを片っ端から指さして訊く。


「マナ、あの大きな絵はなに? 建物をおおってるなんてすごくない?」


「あれは看板の一種だ」


「あそこでビラを配っているメイドはどこの貴族に仕えてるの?」


「彼女らは……説明は難しいけど、町娘だ」


 最初は無邪気に勘当していた私だけど、これだけあからさまだとさすがにきかないわけにはいかない。


「……ねぇマナ、私たちすごい目立ってない?」


 いつの間にか周りの人達が私たちを避けながら注目している。

 なんか既視感、ああ、アンナ様のお忍びに付き合ってばれた時の感じだ。

 今回は私はへまはしていない、はずなんだけどなんと言っても異世界だ。

 知らないうちになにかやらかしてしまったんだろうか。


「ここなら一般人に紛れて行けるかと思ったんだが、予想以上に目立ってしまったな」


 クオリティ高ぇ! 百合ってレベルじゃねぇぞ! カメラどこだ⁉ というざわめきを無視するように超然としているマナだけど、内心は焦っているのか歩みがどんどん早くなっていく。


「予定変更だ。コナカは諦める。裏通りから徒歩で上野に移動するぞ」


 私の世界の軍服みたいな服が売られているコナカという店の前を通り過ぎてしばらくしてから通りを右に曲がりビルという建造物の下を通っていると、嗅いでいるだけでよだれが湧いてくる臭いがしてきた。


「ねぇ、マナ。あの自動車って屋台だよね?」


 なにか黄色い看板を下げた四角い自動車の前で客が食べ物を受け取っている。

 食べたい。激しい食欲が私のなかで暴れている。

 マナが急いでいるんだが、と言いつつケバブサンドというものを買ってくれた。


「うまぁ!」


 似たような料理は私の世界にもあるけど、スパイスとソースが全然違う。

 パンも焼き方は素朴だけどこれはかなり上質な小麦粉を使っているはず。

 ぜひ買いだめして収納しておきたい。


「ねぇマナ」


「買いだめはまた今度だ」


 ぐぬぅ、こちらの考えはお見通しだったらしい。

 包み紙を収納しているとマナがふとなにかに気付いた様にこちらを向いた。


「ヴィータ、お前こっちの金はどう工面するんだ?」


「あ……」


 やばい忘れてた。向こうの通貨ってこっちで使えないよね当たり前!


お読みいただきありがとうございます。

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