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異世界HERO's  作者: 夜勤
英傑
1/1

俺は何故異世界に行ったのか

長年読み専でいましたが、一念発起の初投稿です。

初回は連続更新となっております。

――202X/05/21 AM10:30――


 俺は今日と言う日を心待ちにしていた。


 今日はネットで頼んだ「アレ」が届く日だ。ツテから入手する方法もあったが俺は断り、正攻法で「アレ」の争奪戦に参加し、見事に完売前に予約する事が出来た。

 今か今かと待つ事しばし。マンションの自室、その部屋のチャイムが鳴り、聞き慣れた声が部屋に響いた。ついに届いたのだ。


「毎度どうも~!西川運急でーす!」

「はいはーい!今開けますよっと」


 玄関を開け招き入れると、そこには見慣れた配達員の顔。ウチには月1~2ペースで荷物が届くので、この配達員のおっちゃんともすっかり顔馴染みだ。


葛木(かつらぎ)さん、また今回は大物ですねぇ。新しい筋トレの道具ですか?」


 向こうも慣れたものか、気安い調子で話しかけてくる。俺は一抱えある荷物を受け取りながら答えた。


「いや違いますよ。今回は思い出の品でしてね」

「ほほー・・・っと、はいサインも確かに。それじゃまたよろしくお願いしまーす!」


 軽く雑談を交わし、おっちゃんが去った所で俺は早速届いた荷物を開けた。出てきたのは――


「くぅぅ~、ついに届いた!CMEブレイザーベルトG!」


 嬉しさについ感嘆の声が漏れてしまう。

 "Complete Maximum Edition"――通称CME。

 そう、俺が頼んだのは特撮ヒーロー「機面ブレイザー」シリーズ玩具のハイエンド版、いわゆる「大きなお友だち向け」仕様の変身ベルトだった。ちなみにお値段3万8000円。

 決して軽い出費ではない。が、この変身ベルトには値段以上の価値が俺にはあるのだ。

 今回届いたコイツは数年前に放送されたシリーズの物だが、それを最新技術で改めて商品化してくれた玩具会社には感謝しきりである。


「よっし、それじゃモノも届いたしそろそろ行くか!」


 箱を上から下からじっくり堪能した俺はそそくさと届いた玩具と荷物をまとめ、マンションの地下駐車場へと向かう。

 目的地はもう1つの趣味でもある―――キャンプ場だ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆




――****/**/**――


まただ。また"奴ら"が来る。


アイツらはどこから来たのか――目的は?何が望みなんだ?


わからない。否、誰も知らないのだ。


ある日"奴ら"はどこからともなく現れ、「我々」に襲いかかってきた。


言葉は通じるらしいがアイツらは何も聞き入れない。


とある小国では連中に会談を持ちかけ・・・国ごと滅ぼされたと聞いた。


我らが「王」はこの危機に対して秘儀を使うとの事だった。


俺たちはそれを待つ以外に方法は無いのか?


ああ、"奴ら"の足音が聞こえてくる。


じきにこの場所も戦場となる。俺も生きて帰れないだろう。


だからせめて記録を・・・


きロく・・・


ナん・・・ちかラ・・・ハイら・・ク・・・??


ちが・・・かラ・・・くサ・・・




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆




――202X/05/21 PM13:30――


「ふぃ~。着いた着いた。」


 運転する事1時間少々。目的の山の麓にあるキャンプ場へ到着し、車を降りて軽く伸びをする。ココは近場だしお気に入りの場所だった。

 入口で手続きを済ませた俺は、他のキャンプ客から少し離れた所に積んできたテント等を設営する。

 ソロキャンプは趣味と実益を兼ねているので慣れたモンだ。


 30分程度で用意を済ませた所で俺は一緒に持参した「例のアレ」を取り出す。

 そう、午前中に届いた変身ベルトだ。

 事前に必要な電池も買っておいた。まずは箱から出して説明書通りに電池をセットし腰へと巻く。


「あぁコレコレこの感触・・・懐かしいなぁ」


 ベルトを巻いた所で数年前の記憶が甦ってきた。あの時は大変だったっけ・・・。

 玩具を身に付け黄昏る。端から見ると「ちょっとアレ」な人だが、ド平日の昼間なのでキャンプ客も少なく、離れた場所に設営したのでまず大丈夫だろう。


 よしよしそれじゃ早速、と電源を入れようとしたその時だった。


「うわぁぁぁぁぁ!!」


 離れた場所から叫び声が聞こえてきた。

 一体どうしたと言うのだろうか。まさかテントに引火でもさせたか?お楽しみのベルトは一旦外し、自分のテントの中へ。声が聞こえた方へ様子を見に行く事にした。


 そして目的地に近づくにつれ、複数のキャンプ客のどよめきが聞こえてくる。


「おいおい、何だありゃあ・・・」

 腰を抜かして座り込むオッサン。


「おい!何か知らんがとりあえず撮っておけ!」

「は、はい!・・・こんなの初めて見たぞ・・・」

 連れの若者に指示する写真家らしき2人組。


「うっわ何アレ・・・キモッ!」

 悪態をついてスマホでカシャカシャ撮っている女の子。


 彼らは一様に空を見上げていた。

 俺もそちらを同じように見上げる。そして見てしまった。


「黒い・・・目玉・・・?」


 そうとしか形容できない、黒くて歪な「何か」が宙に浮かんでいた。

一瞬「特撮の撮影か?」と思ったが周囲にはそれらしき人なんて居やしない。これは現実なのか?と思ったその時、その「何か」と目が合った。そんな気がした。


(ッ!?これは・・・何か知らないがここに居るのはマズいッ!)


 背筋を這い上がるような悪寒。

 直感的にこの場にいるのが危険だと判断した俺は、急いで自分のテントに戻ると撤収の準備を始める。

 この場にいると良くない。こういう時の直感というのは馬鹿にできない事はよく知っている。

 中の荷物を一通り片付け終わろうかと言うその時、更に異変が起きた。急にテントが光りだしたのだ。


(今度は何だ!?テント・・・じゃない、外が光ってる・・・?)


 どんどんと光量が増していく。しかも急な眩暈が襲ってきた。何なんだこれ、頭がグラグラする。


 そして眩く光る周囲の状況とは裏腹に、俺の意識は遠のいて―――




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



・・・・・・・・・



・・・・・・



・・・



「んぁ・・・?」


 俺はテントの中で目を覚ました。どうやら気を失っていたようだが・・・先ほどまでの光も消えている。

 テントの外からはガヤガヤと声が聞こえ、更に金属を動かすようなガチャガチャした音も鳴っていた。


(さっきのは何だったんだ・・・それにこの音は警察でも来たのか?)


 一度様子を見ようとテントから顔を出したその瞬間、鋭い声が俺に向けて降りかかる。


『イチマノナリカン!!』


 更に声と同時に槍らしき刃物の先が突きつけられた。見た事の無い形だが長柄の刃物だし槍だろう。


「えーっと・・・どういう状況?」


 テントを開けるとそこは部屋だった。

 何を言っているかわからないだろうが、俺も何が何だかわからない。更に相手の言語も何を言っているかわからない。

 とりあえず抵抗の意思は無い事を示そうと両手を上げてテントを出ようとする。すると再び怒声が降ってきた。


『アヌシニアカキナラキチマノナリカン!!』


 槍の穂先が更に突きつけられる。どうやらテントから出してはくれないらしい。物音からして複数でこのテントを取り囲んでいるようだ。

 それにしても状況もそうだが・・・この連中の言葉、更には見た事も無い鎧姿と言い、酷くイヤな予感がする。まさかと思うがこれは―――


『イニトチチミヌシチキト!!』


 状況を整理しようと考えた所に新たな声が響き渡った。女性の声だ。

 声のした方に目を向けると、そこには部屋の出入口であろう扉の前に少女が立っていた。

 見た目は中学生くらいだろうか?長い銀髪をポニーテールにまとめ、高価そうなドレスを着ている。

 それに「可憐な美少女」と言っていい顔立ちではあるが、明らかに年齢にそぐわない碧く鋭い目つきと迫力がそれを上塗りしている。

 そして彼女が現れた途端、目の前にいる鎧姿の男がたじろぐ気配がした。


『イトミトタラマナ!イノチトニノト・・・』


 何かうろたえている。言葉はわからないが態度や口調が焦っている人間のそれだ。もしかしてこの娘はどっかの偉いさんの子だったりするのだろうか。イヤな予感が更に加速する。


『イウシチキト、アノチイサリマヌシニアカキララ』


 更に少女が低いドスの利いた声を発すると、怜悧な空気が辺りを包む。見た感じ相当キレているらしい。

 その後も何事か目の前の鎧男と会話していたが、最終的に鎧男が槍を引き、テントを囲んでいた奴らも含めて部屋から出て行ってしまった。

 この場にいるのは俺と少女の2人だけだ。テントから出た俺はとりあえず少女に話しかけてみる事にした。


「あの・・・」


 俺が口を開く前にハッと何かに気付いた少女が両手を俺に向けた。「ちょっと待って」の時によくやるジェスチャーだ。

 そして少女は懐からネックレスを取り出すと自分の首へとかけ、目を瞑り何事かブツブツと唱える。

 しばしその姿を眺めていると少女が目を開き、俺に語りかけてきた。


『あ、あーあー。いかがかしら。これで私の言葉がわかりますか?』


 先ほどまでのキッツい視線は何処へやら。穏やかな顔で微笑みかけてきた。そして言葉がわかる。

 俺は頷いて彼女へ問い掛けた。


「あ、はい。わかります。もしかしてそのネックレスは翻訳機ですか?」

『ネック・・・?あぁ、この首飾りですわね。ホンヤクキ?と言うのは存じませんが、これを身に着けると我々の言葉が()()()()()にも通じるようになるのですわ』


 首肯する少女。そして俺は出来れば聞きたくなかった言葉を言われてしまった事に気付く。()()()()()


「いま異境、と仰いましたか。するとここはやはり"異世界"なのですね?」


 嫌な予感が的中した。夢だと思いたかったがさっきの鎧男も目の前の美少女もこの部屋も現実だ。

 そしてこの少女は俺の内心など露知らず、笑顔で答える。


『察しの良いお方で大変助かりますわ。私はリアラ・リィ・ファーラヴルと申します。ようこそ異境のお方。()()たるお方。貴方様にはどうか私達の世界を救っていただきたいのです』


 ・・・何てこった。どうやら俺は巷の小説で流行りの"異世界"に来てしまった、と内心頭を抱えるのだった。


初回は3話連続更新となっております。

なおリアラ達の元言語はこれっきりです。アナグラム化が大変なので・・・。

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