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異世界転・・・性  作者: 矢頭天ル
第1章
3/13

2 家族

 この世界の朝は早い。

 農村では尚のこと子供も大事な労働力だ。ヒカリも昨年から本格的に家の手伝いをするようになった。

 まだ冬には間があるが、外に出れば刺すような冷気が眠気を吹き飛ばす。


 朝の作業は季節ごとに異なるが、ここ最近は家族と手分けして畑を見回り、軽く手入れをするのがヒカリの仕事だ。ついでに朝食用に野菜をいくつか採るのも忘れない。一言で表すと簡単に聞こえるが、実際はなかなかの作業量である。

 農作業は前世でも少し経験があったが、何もかもが違っているのでなけなしの農業知識はほとんど役に立たっていない。

 

 しかし前世より更にきつい労働環境にも拘らず、ヒカリはそう辛いとは感じていなかった。

 

 なーんか身体が軽いんだよなあ


白い息を吐きつつ苗を整えたり少量の野菜を収穫したりと忙しなく動きながら、ヒカリはぼんやりと考える。

 

 子供ってそんなもんかと思ったけど、確かに実感としても重力が3分の2くらいに感じるっていうか。なんか他の人にもびっくりされるし、本当に気のせいじゃ無いかも?まあ、働き詰めで常にフラッフラだったアラフォーの身体感覚からしたら、周りの皆も十分タフだし身軽だと思うけど


 村上光一としての子供時代は、もうはっきり覚えていない。これは転生とは関係なく、意識的に記憶に蓋をする内に思い出すのが困難になった。

 だから前世の子供時代とも比べられないが、村の子供たちの中でも足は早いし力も強いようだ。そして健康だ。控えめに言ってかなり質素な食生活を送っているにも関わらず、病気らしい病気を患ったことがないし、疲労を感じても寝れば即回復する。


 人一倍元気な子供ってことかね。チート無双は諦めたけど、これはこれで有難い恩寵だわな〜


 ヒカリは雑草を抜く手を止め、腰をトントン叩きながら伸びをした。そのまま「ありがとうございます」と空に向かって感謝しておいた。


 「ヒカリーっ、朝ごはんだよーっ!」


 ちょうど、家の方から姉のリーネが呼ぶ声がした。

 ヒカリは手を振りながら元気よく応える。畑仕事での汚れを軽く落として家に入ると、台所では母が新鮮な卵を次々調理していた。採ってきたばかりの野菜はリーネに渡す。透かさずキラキラした笑顔で「お帰りなさい、お疲れ様」と二人揃ってヒカリを労ってくれた。


 リーネはヒカリより三つ年上で、この家の長女だ。よく気が利くし弟妹の面倒見も良い。その上身内贔屓を抜きにしても、前世では絶対に縁がないであろうレベルの美少女だ。まだこの村を出たことがないので、この世界の美的基準はまだ不明瞭だが、と少なくともヒカリの知る限りリーネは一番可愛い。

 しかし大分慣れたものの、このキラキラした姉を直視することにはいまだに躊躇いがあったりする。何と言っても、今の自分は幼女だが中身がややこしい・・・まあはっきり言っておっさんである。前世の記憶があることは誰にも行っていないので、家族全員に対して罪悪感を抱いているが、リーネに対しては微妙なやましい感じが加わるというか。時々脳裏を過ぎる、おっさんと美少女が見つめ合う絵面・・・


 いや俺、幼児趣味なんて断じて無いし、前世も無かったけどね!?


 「食べないの、ヒカリ?」  


 知らず姉をじっと見つめていたらしい。目の前には湯気が上がった目玉焼きが置かれている。


 「ううん、大丈夫!いただきます!」


 内心かなり慌てたヒカリだが、食前のお祈りをして朝食に取り掛かる。

 起床してすぐ水一杯飲んだだけで農作業を始めるので、この時間はいつも空腹で目が回りそうだ。

 リーネは夢中で食べるヒカリを見てくすりと微笑むと、自分も食べ始めた。そこに母が蒸し野菜の皿を手にやってきて、女三人で食卓を囲む。

 目玉焼きを咀嚼しつつ、ヒカリは目の前の二人を見て思う。

 

 これってやっぱ、ご褒美だよなぁ


 姉が姉なら母のマイーナも相当美人だ。着飾らない女性がここまで美しいなんて奇跡だと思う。そして何より、信じがたいほど優しい。もちろん母親として時に厳しい面も見せるが、根底に計り知れないほど深い愛情があるのは疑いようがない。


 母や姉だけではない。ヒカリの家族である父、兄、祖母、弟の全員が温かく、善良な人たちだ。

 いくら疲れ知らずの若い体であっても、貧しい上にインフラも整ってないというのはなかなかに過酷だ。現代日本人の記憶があればなおのことである。それでもここまでヒカリとして前向きに生きてこられたのは、紛れもなく〝この家族〟のお陰である。

 村上光一にとって、「お互いを思いやる温かい家族」などというものは都市伝説に等しかったのだがー。


 うっかり考え事に夢中になっていたヒカリは、食事の手が止まっていた。母と姉が顔を見合わせて苦笑しているのに気がついて、慌てて食事を再開する。

  

 ああもう、ヒカリになって6年経つって言うのに、未だに不思議な気分になるんだよな。俺が、二人と同じ女って。ねえ・・・

 

 尤も、ヒカリは自分自身にも総じて不満はない。男だったらもっと戸惑わなくて済んだかも、とは思うが。


 この二人は至高だから敵わないのは当然として、まあ俺も結構・・・いや十分可愛い女の子だと思うんだよ。赤毛ってのも面白いし。まともな鏡が家にないのはやっぱ残念だよなー


 母と姉が二人とも明るい茶色の髪に青い瞳なのに対し、ヒカリは赤毛で瞳はエメラルドグリーンだ。顔立ちも、涼やかで落ち着いた雰囲気を持つ二人とは違い、ヒカリのくりっと大きな瞳が、見る者に溌剌とした印象を与える。

 肌や髪の毛は農民の宿命で常に日焼けし薄汚れてはいるが、磨けば光るのではなかろうか。


 はっと気づいた時にはすでに遅かった。

 目の前の二人が胡乱な目でヒカリを見ている。どうやらヒカリはいつの間にか一人でニヤついていたようだ。


 またやってしまった・・・


とは言え、ヒカリはすでに家族からすっかり「変わった子」扱いされているので、今更も今更である。 

 ヒカリはがっくりと肩を落とし、そそくさと朝食を済ませたのだった。

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