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異世界転・・・性  作者: 矢頭天ル
第2章
12/13

10 生存者

 中年の男はドウモ・マイードと名乗る商人で、襲撃を受けた隊商の主人だった。

 マイードの肩が震えているのを見て思わず肩を摩りながら励ましたヒカリだったが、マイードが驚いた顔をしたので「もしかしたら不敬かも?」と慌てて手を離した。

 殆ど村人だけしか接して来なかったヒカリは、この世界の身分制度について知識こそ多少あれど、まだ肌で馴染めていない自覚はある。

 しかしそれは杞憂だったようで、マイードは表情を緩ませると「ありがとう」と砕けた感じで礼を言った。先ほどは気を張っていたのだろう。


 少しして気を取り直したマイードは、ヒカリにイベカの元を離れないようにと言うと、吹き飛ばされたり逃げたりして散り散りになった仲間を探しに行った。

 と、マイードとほぼ入れ違いでイベカが目を覚ました。


「お父さんっ!良かった!!」


「うう・・・痛っ!・・・あれ、ヒカリ・・・?」


 思いがけず呑気そうな声に、ヒカリは心底ほっとした。

 イベカは鷲獅子に吹き飛ばされた際、全身を大木に打ち付けて気を失ったらしい。ヒカリはその後の顛末を話そうとして、そこで初めて気が付いた。

 自分の仕出かした事が「これヤベぇやつだ・・・」と。

 

 しかし父に話さないわけにもいかず、己が魔法で鷲獅子を倒したことは努めてシンプルに話した。

 俯いて話していたヒカリだったが、イベカの反応がないので恐る恐る顔を上げると・・・イベカは見たことのない顔をしていた。ふとヒカリの脳裏には前世、中学だか高校だったかで愛用していた歴史資料集に載っていた、埴輪が思い浮んだ。

 一瞬そんな現実逃避をしてしまったが、ヒカリは無言の父に声を掛けてみる。


「お、お父さん・・・?」


 今までは貴族に見つかったら面倒、という以外あまり深く考えずに魔法を習得してきたのだが。その威力は実戦に於いて練習とは比べようもないほど強大だった。冷静になって考えると、こんなとんでもない人型兵器ありかよ、と自分でもドン引きしてしまう。

 魔法の訓練をしたいとヒカリが言い出した時、ドットがあれほど渋っていた理由が今になって漸く分かった。


 ・・・確かにこんなヤバい奴がそこらにホイホイ居たら問題だよな・・・もしかしてバケモノ扱いされたりとか・・・


 血が繋がっているから、家族だからどんな自分でも受け入れて貰えるなどというのは幻想だ──少なくとも村上光一にとってそれは当然の認識だったし、実際最も自分を拒絶した人間たちは〝家族〟だった。


 ──だが転生し、ヒカリとして〝家族〟というものへの認識が変化した今、拒絶されたくないと強く思った。そしてそんな自分にヒカリは驚く。

 ほんの短い沈黙の間、ヒカリの内心は千々に乱れていたのだが、


「凄いじゃないか、ヒカリ!!」


 イベカから放たれた言葉は、どこまでも父らしいものだった。


「・・・こ、怖くない・・・?こんな子供・・・」


 今まさにヒカリに向けられているイベカのキラキラした目を見れば、愚問だと分かっているのに、ついそんな事を口走らずにいられない自分に戸惑う。

 案の定イベカは目を丸くして


「ヒカリが怖い?何でだ?ヒカリはあのでっかい鷲獅子をやっつけて、お父さんを助けてくれたんだろう?・・・ああ凄いなあ、凄いじゃないか!!あーでも上級魔法なんて、お父さんも見たかったなあ!」


 そう言うと、少年のような笑顔になっている。

 ヒカリは全身から力が抜けて行くのを感じた。


「やっぱりヒカリはあの祖父さんの血を引いて・・・っておい、ヒカリ!?どうした!?」


 イベカが急に慌て出し、ヒカリは自分が泣いていることに気づいた。


「実は怪我しているんじゃないのか!?どこが痛む!?」


 自分こそ怪我の痛みを堪えて立ち上がろうとするイベカを、今度はヒカリの方が慌てて止めながら、


「違うの!・・・えーと、こ、怖かったの、あ、あんな大きな魔獣初めて見たし・・・」


 相当しどろもどろでそう言い訳すると、イベカは納得したようで


「ああそうか!そうだよなあ。ごめんなあ、ヒカリ。そんな当たり前のことにも気が回らなくて・・・」


 イベカを止めようとしがみついていたヒカリを優しく抱きしめ返して、謝った。父の逞しい腕が温かくて、ヒカリの涙はいよいよ止まらなくなる。


 ごめん父さん、怖いのは本当だけど・・・そこじゃなくて・・・


 ぐちゃぐちゃと色々な思いが溢れるが結局何も言うことができず、ヒカリは父の優しい腕の中でただ、涙が止まるのを待つしかなかった。





 自分で思ってた以上に精神的にキてたんだなあ・・・てか俺、頭ん中も若干幼児化してたりして


 ひとしきり泣いた後。ヒカリは羞恥心すらも流し切ったようで、イベカに寄り掛かりながらぼーっと、取り留めない事を考えている。

 ついでに大量消費した魔力もそこそこ戻って来たようで、あの独特の倦怠感が大分マシになった。

 そうこうしているとマイードが仲間を連れて戻って来た。

 マイードの仲間は、彼の部下と護衛で雇っていた冒険者三名の計四人。冒険者の内二人は自力で歩くのも困難らしく、両側から支えてられている。


 生存者についてはヒカリが事前にイベカに伝えておいたので、互いの簡単な自己紹介の後すぐにこれからの段取りについて相談が始まる。

 かなりの時間を費やしたが、ここからなら何とか日没までにミズラヒに到着するはず、というか何としてでも間に合わせようという話になった。というのは重傷者がいて物資も足りない上に魔獣の危険もある状況なので、野宿はどうしても避けたいのだ。

 

 ちなみにマイードの話では探し始めて早々に全員見つかったそうだが、その後歩ける者たちで、なんとあの襲撃現場へ積荷の確認に行ったらしい。あれだけの目に遭い、再び魔獣が襲って来てもおかしくない中で何ともタフである。これが商人かとヒカリは妙に感心した。

 その甲斐があったと言うべきなのか、僅かばかりの積荷が無事だったそうだが、ヒカリ達の馬車に載せられるかどうかは後で判断するしかない。

 なんせ村のオンボロ荷馬車にヒカリ抜きでも六人が乗るとなると、積荷もあるのでスペース的にも重量的にもかなりキツい。

 ・・・そんな話をしていると、一人の冒険者が自分は歩くと言ったが、何とか歩けるというだけで怪我人には違いなかったため、却下された。

 時間が差し迫ってはいたが彼らはテキパキと決めるべき事を決め、結果ヒカリの予想よりもずっと早く出発となった。


 数時間前は、初めての遠出にワクワクしていたせいかあまり気にならなかったが、馬車の揺れはかなりキツい。

 慣れてはいるだろうが、満身創痍という事もあってか大人たちも結構キツそうだ。それに過剰積載というか、人数も多い上に大柄な者が多いので車内はかなり狭苦しい。

 それからマイード達が確認した無事だった荷物だが、実際に見てみると本当になけなしの量だったため、結局それらも回収したのだった。


 そんなこんなで結構過酷な旅路がスタートしたわけだが、だからこそ気を紛らわせる意図もあるのだろう、馬車の中では出発早々和やかな会話が交わされ・・・というか、ヒカリに質問が殺到した。

 そこでやっと気づく。


 見 ら れ て た !!


 またかという話だが、ヒカリは勝手に「全員気を失っていたのだろう」と都合良く思い込んでいたのだ。

 確かに重傷の二人は見ていなかったようだが、あとの者はばっちりヒカリの勇姿を目撃していたらしい。

 

 幸か不幸か、頭が真っ白になったヒカリにはもはや馬車の揺れも狭さも気にならなくなっていた・・・。

誤字脱字修正いつもありがとうございます。

焦るとモロわかりですね・・・。

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