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どこにも存在しない土地(2)

        3

 首都高速道路本線を区間閉鎖して、現場検証が始まった。

 残された現場の状況は、事件現場ではなく、戦場だった。

 巻き込まれた車輛が破壊されていた。壁や頭上の標識まで、あらゆる場所が破壊され、広範囲に着弾痕が残されていた。

「何ですかね、これは」

 城田が飛び散った破片の中に、しゃがみ込んでいた。

 指差す先に、小さな人形が残されていた。奥畑が立っていた場所だった。馬と驢馬ろばに乗った、ノッポとデブの二人連れ。

 中世の鎧と、長い槍が滑稽だった。

「ドン・キホーテのつもりか?」

 荒瀬は、呆れた声を出した。

 人を喰った、おかしな奴だった。荒瀬は奥畑の顔を思い浮かべた。

「チェ・ゲバラはキューバ時代に来日した事実があるんですよね」

 城田がネットで調べた情報を、荒瀬に伝えた。

「奥畑の話か? チェ・ゲバラの孫だという……」

 荒瀬が訊ねると、城田が勿体ぶって頷いてみせた。

「当時、原爆の地が見たいと、お忍びで広島に向かっているんです。時系列でみると、たしかに一夜を広島で過ごしている」

「奥畑の祖母が夜伽をしても不思議ではない、と言いたいのか?」

 言い咎める荒瀬に、城田が悪戯いたずらっぽく笑い掛けた。

「予定外の行動を採ったゲバラに、夜伽の相手があてがわれたなんて、あまりにも話の都合が良すぎますけどね……」

「チェ・ゲバラの広島行の話は、曳地から聞いている。よくある伝説話レジェンドだな」

 城田が頷き、遠くを見つめた。

「奥畑を見ていると、嘘臭い話でも、人格形成に影響を及ぼすケースはあるんだな、って思いますよ。これから先どうするつもりなんですかね、奥畑は」

「日本で盛大に花火を打ち上げたからな。まずは、コロンビアで行動を起こすだろうな。今回の取引で、アメリカ合衆国の後ろ盾もできたし、対抗する柳谷のグループも倒した。クーデターで一気に政権を覆そうと考えるはずだ」

 遠くを見つめたままで、城田が呟くように言葉を漏らした。

「知っていますか。第一次世界大戦後のドイツで、弱小勢力だったナチス党が国家の中心的存在にのし上がる発端となった事件を」

「ミュンヘン一揆だな。号砲一発だよな」

 城田が深く頷いた。自分の言葉に納得するように、何度も頷きながら話を続けた。

「演説の続くビヤホールで、ヒトラーがブローニング拳銃を天井に向けて発射し、国家主義革命の始まりを宣言した」

「ドイツ国民の流れが変わった事件だよな」

 荒瀬は頷いた。本で読んで知っていた。

「今回、奥畑が起こした一連の事件は、同じく、流れを変えるための大芝居、って気がするんです。でも、奥畑の目的は、コロンビア一国の政治を手中に収めるだけではないと思いますよ」

「同感だな。コロンビア一国だけの統治だったら、わざわざ、アメリカ合衆国の後ろ盾を得る必要はないからな。手中に収めようと考える範囲は、アメリカ合衆国と同等、もしくは、アメリカ合衆国を超える存在。世界の統一、理想郷ユートピアの建設だな」

 城田が呆れた表情で笑い、荒瀬に語り掛けた。

「理想郷とは、ずいぶん大きく出ましたね。ところで、ユートピアの語源を知っていますか?」

「《どこにも存在しない土地》だよな。〝救いがたき理想主義者〟にとっては、笑えないほど強烈な皮肉だ」

 どこにも存在しない土地を求めて彷徨さまよい続ける奥畑の姿を荒瀬は思い浮かべた。

 隊列を組んで荒野を行軍する孤立無援の軍隊だった。

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