テロリストの最後(2)
3
最初の攻撃では、標的は明らかに柳谷本人だった。
列車ジャックされた車輛から発射された銃弾は、真っ直ぐに柳谷に向けられていた。
韮山と浅場に邪魔されなければ、柳谷が殺されていたはずだ。
ところが、狙撃後の攻撃は、単純に柳谷を狙ったとは言い切れない状況に変わった。
柳谷の移動に合わせて、攻撃対象となる車輛が変わった。
最初に頭部を撃ち抜かれて死んだ女子中学生は、柳谷の横を通り抜ける際に、偶然に被害に遭ったと考えていた。
〈しかし、走行する保線車輛上からの攻撃とはいえ、手練のスナイパーが犯すミスにしては、初歩的すぎる〉
弾道も理屈が合わない。
車輛と同等の高さから銃弾を撃ち込んだ場合、弾道は水平なはずだ。
柳谷の頭部を狙ったならば、弾道はもっと低くなる。シートに座った柳谷の頭部は、女子中学生の胸より下になる。
女子中学生の頭部に邪魔されなければ、銃弾は柳谷の頭頂部よりも上を通過したはずだ。
総攻撃に関しても同じだった。なぜ犯行グループは、一思いに柳谷を射殺しないのか。
車内全体に被害者が積み重なっている現状だ。
韮山たちSPに護られているとはいえ、柳谷が傷一つ負っていない状況は、あまりにも不自然だ。
そもそも、柳谷を日光まで護送する命令は、何を目的としているのか。
皇族が乗車する御乗用列車を護送手段に選ぶ必要は、どこにあったのか。
ここまで破壊し尽くして、何の利点があったのか。
当初から中学生たちが、|ソーシャル・ネットワーキング・サービス《SNS》を利用して、車内の状況をネット上に配信し続けた。
〝祭り〟状態になった情報が報道にも使われて、一般市民の周知に繋がった。
非難は犯行グループに集中する。
非道の集団として、批判は〝ドン・キホーテの会〟ばかりでなく〝ラ・マンチャの軍隊〟にまで集中している。
日本国内に限った状況ではなかった。
上司から伝えられる情報では、中国、ロシアを含む諸外国で、今回のテロ事件が非難の対象となっていた。
コロンビアでも主流から外れたゲリラ組織だった〝ラ・マンチャの軍隊〟が、一躍有名になった。
広告としては、間違いなく有効だった。
〈しかし、帰結点は、どこに設定しているんだ。このままでは、犯罪史に悪名を残すだけで、組織の殲滅に向けて諸外国が動き出す。悲劇的な結末を待つだけだ〉
4
韮山は周囲を見回した。
パニックはピークを過ぎていた。
憔悴し切った女子中学生と教師たちが、占拠したゲリラの命令に従って、座席に身体を埋めていた。
中学校関係者を占めている感情は〝諦め〟だけだった。
列車の外では、SAT隊員と、負傷者救出を待つ救急隊員が、突入の契機を待ち続けていた。
整列しながらも、誰もが、半歩でも先に飛び出そうと、意気込んでいた。救出を焦る気持ちが熱波のように伝わってくる。
剃刀の上に乗ったように、空気がヒリヒリと乾き切っていた。
一触即発の状態だった。
僅かな振動を残して、再び列車が動き始めた。
予想されていた突入がなかった。
身動きこそしないが、SAT隊員の焼け付く視線が、御乗用列車の車内に注がれていた。
表情を隠した防弾バイザーが、却って焦燥感を表していた。
誰一人として突入を諦めてはいないのに。
車内の韮山たちSPにも、憤然とした空気が走った。
柳谷の動きに神経を集中し、韮山は眉間に力を入れた。
犯行グループに向けて拳銃を構えるだけの状況がいつまで続くのか。
〈新たな進展はなかったか〉
車内のSPも、意気込みは最高点に達していた。だが、先走りの失敗だけは回避しなければならない。
前屈みになり、口から飛び出そうとする怪物のごとき闘志を抑えていた。
列車の速度が、上がっていく。車輪がレールの継ぎ目を越える音が、着実に速さを増していく。




