表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/61

テロリストの最後(2)

        3

 最初の攻撃では、標的ターゲットは明らかに柳谷本人だった。

 列車ジャックされた車輛から発射された銃弾は、真っ直ぐに柳谷に向けられていた。

 韮山と浅場に邪魔されなければ、柳谷が殺されていたはずだ。

 ところが、狙撃後の攻撃は、単純に柳谷を狙ったとは言い切れない状況に変わった。

 柳谷の移動に合わせて、攻撃対象となる車輛が変わった。

 最初に頭部を撃ち抜かれて死んだ女子中学生は、柳谷の横を通り抜ける際に、偶然に被害に遭ったと考えていた。

〈しかし、走行する保線車輛上からの攻撃とはいえ、手練のスナイパーが犯すミスにしては、初歩的すぎる〉

 弾道も理屈が合わない。

 車輛と同等の高さから銃弾を撃ち込んだ場合、弾道は水平なはずだ。

 柳谷の頭部を狙ったならば、弾道はもっと低くなる。シートに座った柳谷の頭部は、女子中学生の胸より下になる。

 女子中学生の頭部に邪魔されなければ、銃弾は柳谷の頭頂部よりも上を通過したはずだ。

 総攻撃に関しても同じだった。なぜ犯行グループは、一思いに柳谷を射殺しないのか。

 車内全体に被害者が積み重なっている現状だ。

 韮山たちSPに護られているとはいえ、柳谷が傷一つ負っていない状況は、あまりにも不自然だ。

 そもそも、柳谷を日光まで護送する命令は、何を目的としているのか。

 皇族が乗車する御乗用列車を護送手段に選ぶ必要は、どこにあったのか。

 ここまで破壊し尽くして、何の利点があったのか。

 当初から中学生たちが、|ソーシャル・ネットワーキング・サービス《SNS》を利用して、車内の状況をネット上に配信し続けた。

〝祭り〟状態になった情報が報道にも使われて、一般市民の周知に繋がった。

 非難は犯行グループに集中する。

 非道の集団として、批判は〝ドン・キホーテの会〟ばかりでなく〝ラ・マンチャの軍隊ラ・マンチャ・デレ・ヘルシト〟にまで集中している。

 日本国内に限った状況ではなかった。

 上司から伝えられる情報では、中国、ロシアを含む諸外国で、今回のテロ事件が非難の対象となっていた。

コロンビアでも主流メイン・ストリームから外れたゲリラ組織だった〝ラ・マンチャの軍隊〟が、一躍有名になった。

 広告プロパガンダとしては、間違いなく有効だった。

〈しかし、帰結点は、どこに設定しているんだ。このままでは、犯罪史に悪名を残すだけで、組織の殲滅せんめつに向けて諸外国が動き出す。悲劇的な結末を待つだけだ〉


        4

 韮山は周囲を見回した。

 パニックはピークを過ぎていた。

 憔悴しょうすいし切った女子中学生と教師たちが、占拠したゲリラの命令に従って、座席に身体を埋めていた。

 中学校関係者を占めている感情は〝諦め〟だけだった。

 列車の外では、SAT隊員と、負傷者救出を待つ救急隊員が、突入の契機を待ち続けていた。

 整列しながらも、誰もが、半歩でも先に飛び出そうと、意気込んでいた。救出を焦る気持ちが熱波のように伝わってくる。

 剃刀の上に乗ったように、空気がヒリヒリと乾き切っていた。

 一触即発の状態だった。

 僅かな振動を残して、再び列車が動き始めた。

 予想されていた突入がなかった。

 身動きこそしないが、SAT隊員の焼け付く視線が、御乗用列車の車内に注がれていた。

 表情を隠した防弾バイザーが、却って焦燥感を表していた。

 誰一人として突入を諦めてはいないのに。

 車内の韮山たちSPにも、憤然とした空気が走った。

 柳谷の動きに神経を集中し、韮山は眉間に力を入れた。

 犯行グループに向けて拳銃を構えるだけの状況がいつまで続くのか。

〈新たな進展はなかったか〉

 車内のSPも、意気込みは最高点に達していた。だが、先走りの失敗だけは回避しなければならない。

 前屈みになり、口から飛び出そうとする怪物のごとき闘志を抑えていた。

 列車の速度が、上がっていく。車輪がレールの継ぎ目を越える音が、着実に速さを増していく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ