表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/61

東京圏輸送管理システムが書き換えられた。(1)

        1 

 壁に表示された在線状況を由紀子は凝視した。

 御乗用列車が順調に宇都宮線、白岡駅を通過していた。大宮総合車両センターを出てから、目立った障害は確認できなかった。

〈このままで行けば、栗橋駅まで問題なく到着できる〉

 大宮総合車両センターで受けた攻撃を教訓として、由紀子は保線車両の配置を確認した。

 手書きのダイヤ図を離れ、ディスプレイでダイヤグラムを眺めた。由紀子は、どこかに違和感を覚えた。

 顔を近づけて、細かなスジを確認した。大宮総合車両センターに関して、記憶にない変更が追加されていた。

 攻撃を仕掛けてきた保線車両が移動した経緯だった。

「すみません。誰か、ダイヤグラムを書き換えましたか?」

 由紀子はディスプレイを凝視しながら、データの入力担当者に訊ねた。

「誰も書き換えていませんよ。溝渕さんも一緒にいたんだから、判りますよね」

「でも、先程の大宮総合車両センターの動きが、書き足されているんですよ。見てください」

 由紀子の言葉を受けて、入力担当者が半信半疑の様子で渋々ディスプレイを確認した。

「本当だ。交差支障を起こして保線車両を停めた。実際の列車の動きが、書き足されていますね。保線車両は現場の直接管理だから、残っていないはずなのに」

「もしかして、この端末って、ハッキングされていませんか? 情報の漏洩だけでなく、書き換えまでされていますよ」

 振り返って、由紀子はシステム担当を捜した。入力担当者が、首を傾げた。

「東京圏輸送管理(ATOS)システムは、外部から直接にアクセスができないはずですよ。駅間に張り巡らされた専用光回線を利用していますからね」

「それじゃ、内部にダイヤグラムを変更している人物がいるんですか?」

 納得がいかずに、由紀子は声が荒くなった。

「調べてみますが、ファイヤー・ウォールも不正侵入の形跡を認めていないですからね」

「じゃあ、誰がスジを書き換えているんですか。私は何も入力していないですよ」

 気持ちに治まりがつかなかった。だが、言い争いを続けていても、事態は決して進展しない。

「最新のダイヤグラムを出力して貰っていいですか。私以外の誰かが書き足した分があれば、事前に把握しておきたいんです」

「特別な追加変更は、なさそうですよ。今のところ、障害となる交差や閉塞は認められません。でも……」

 アラーム音が指令室に響いた。

 列車の運行が計画より三分以上に遅れると、輸送管理システムはアラームを鳴らして注意を促す仕組みになっている。


        2

 担当者が一斉に、壁の大型ディスプレイを見上げた。 

 上り列車が二駅先の久喜駅三番ホームと、上り本線上で非常停車していた。車輛の一部にブレーキ不緩解が報告され、応急処置が必要だった。

 由紀子の引いたダイヤグラムでは、御乗用列車は当該久喜駅で先行する普通列車を追い越す予定だった。

「どうして……、やっぱり書き換えられている」

 追い越される普通列車が一番線に停車して、御乗用列車の通過待ちをするようにスジを引いた。ところが、入力されたダイヤグラムでは、二番線に停車と変えられている。

〈外部からのアクセスができないとしたら、内部に反抗分子がいるの?〉

 一番線を利用して駅を通過するためには、番線変更が必要だ。ポイントを切り替えて進路制御を行う。

 速度制限があるから、二番線利用時よりも時間が掛かる。

 由紀子は先行する普通列車の在線状況を確認した。

 番線変更する余裕はなかった。列車は分岐器の地点まで迫っていた。現在の位置で強引な進路制御を行えば、脱線転覆は避けられない。

 由紀子はスジを寝かせて、番線変更を書き直した。

 先行する普通列車が停車するためにスピードを落とした。久喜駅二番線に構内入線を始めた。

「ちょっと待ってくれ。久喜駅で列車防護無線のスイッチが押された」

 運行指令担当者の松浦が声を上げた。

 上り線のアラームとは別に、今度は非常停止信号が鳴り始めた。御乗用列車には無線が届かないため影響がなかったが、構内に入線途中の、先行する下り列車が緊急停止を始めた。

「どうして、こんなタイミングで列車が停車するのよ」

 停車した列車の車輛が、番線変更の分岐器上に最後尾を残す形で停車した。

 由紀子を振り返りながら、松浦が眉を顰めた。

「新白岡駅通過後に、御乗用列車を停止させる必要があるな」

「減速します。目視で確認可能ならば、先行する列車をホーム前方に進めてください」

 由紀子は松浦を見返して言葉に力を籠めた。簡単には引き下れない。

 大宮総合車両センターで、予定外の時間を無駄にした。日光駅の到着を十三時前にするために、時間の余裕がなくなっていた。

 このまま線路上で停止して、先行列車の移動を待つわけにはいかなかった。

 松浦は首を横に降って、由紀子の申し出を断った。

「線路内への人の立ち入りが報告された。駅構内の安全確認が取れるまでは、列車は移動できない。御乗用列車の線路上停車は必須だ」

「確認を急いでください。なんとか、移動できませんか? 交差支障が回避できるだけ。一車輛分、二十メートルの前進だけで良いですから」

 現時点では無理と判っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ