王様の行進(3)
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両親の死後、内木は赴任地のコロンビアに妹を引き取っていた。海外生活に慣れていたし、日本に戻して、不用意な干渉を受けさせたくなかった。
「扱い難いですね、歳の離れた異性の兄妹は……」
内木は日本語で嘘を吐いた。
扱いにくい理由は、本当は年が離れている点でも、異性だという点でもなかった。
〝ユア・シスターが在留邦人の青年と交流しており、当の青年がボゴタのゲリラ組織と関係を疑われている。注意が必要だ〟
コロンビアで妹の生活が始まって間もなく、内木は監視役を頼んでいた現地高校の教師から伝えられた言葉を思い返した。
未だに想像できない内容だった。
両親が惨殺された現場に、妹も居合わせた。痛みは、内木より大きかったはずだ。
〈妹は、なぜテロリストとの関係が疑われるような青年と交流を持ったのか?〉
両親を殺した犯人と同一ではないにしろ、テロリストはテロリストだった。
穿った見方をすれば、両親を巻き込んだ空港テロに妹が関与していた可能性も考えられた。
上の空になった内木に、企画官が声を掛けた。
「事務官の妹さんは、お幾つですか?」
「まだ、高校生です。少し歳が離れているもので……」
企画官の口から、続いてコロンビア駐在当時の話が出るのではないかと、内木は緊張した。しかし、経済産業省の企画官が、妹の事情を知っているはずはなかった。
幾分かベールに包んで、内木は領事館の上司に事情を説明した。問題が発生しないうちにと、内木は本省勤務を希望した。
本当の事情は、外務省内でも知られていないはずだ。
マクガヴァンが話を続ける。
「繰り返すが、テロは許されざる非人道的な行為だ。我々の戦略で標的とするのは、軍事施設や兵士であって、一般市民ではない。テロはコモン・ピープルが標的だ。要するに、大義名分を掲げた大量殺人に過ぎない」
帰国後、妹に何ら感情的な変化が見られなかった点も疑問だった。
意に反してコロンビアから強引に連れ戻されたのだから、反発があって当然だった。
〈もしも、帰国が最初から予定されていたとしたら、どうだ〉
内木は妹を疑い続けていた。
辛い立場だった。悲しみに沈んでいる妹を、敵として疑いたくはなかった。
すべては両親を死に巻き込んだテロ行為のせいだった。憎むべきは、何もかも奪ったテロリストのはずだ。
「君の妹さんも守らなければいけないんだ」
繰り返したマクガヴァンの言葉を聞きながら、内木は〈馬鹿げている〉と、不安の芽を否定した。
妹がテロリストであってはいけない。外務省事務官として、当然だ。
無理に笑顔を作ると、マクガヴァンが満足した表情で頷いた。




