王様の行進(2)
2
マクガヴァンの自慢話は休みなく続いていた。
〈この場所が日本で良かった〉
安堵した内木は、深く息を吐いた。
内木の緊張した様子に気付き、マクガヴァンが眉を上げた。自慢話が飽きられたと思った様子だった。
「失礼……」
マクガヴァンが包容力を感じさせる笑顔を見せて、話題を変えた。
「日本は変わらないね。9.11以降、我が祖国は、すっかり変わった」
「貴国だけでなく、世界は、どこも変わりました。私はコロンビアに在任していましたが、ゲリラ組織に対する強硬政策の結果、主要な組織は、すっかり衰退しました」
内木の返事に、マクガヴァンが満足して頷いた。
「おかげで私は、南米中の嫌われ者になったよ。別に、ゲリラ組織に対する強硬政策は、他国に同調を求めたわけではないんだがね。結果的にゲリラ組織の一掃に、大きな影響を与えたからね」
「ゲリラ組織に対する政策で言えば、日本は明らかに後手に回っていますね。大きなテロ事件が起こっていないと、大多数の国民が安心しきっていますが。起こってから騒いでも遅いですからね」
経済産業省の企画官が口を挟んだ。
内木は、発生している列車ジャックには、あえて触れなかった。事件の経過は、マクガヴァンとセキュリティ・サービスには説明済みだった。
マクガヴァンが口を曲げて、不満な表情を見せた。
「テロリストに対する貴国の考え方は、たしかに不充分だね。もっと社会悪として排除を徹底していく必要があると思う。ゲリラの標的は一般の市民だ。悲しい現実に何も知らない人々が巻き込まれないように、憎むまでの強硬な姿勢が必要だ。解るよね。君だって、万が一、巻き込まれたら、悲しむ家族がいるだろうからね」
内木は返事を躊躇った。話し難い状況だった。内木は両親を無差別テロで亡くしていた。
「両親は亡くなりました。不慮の事故でした。未婚なので、家族は残された妹だけです」
内木は、あえて言葉を濁した。
テロの言葉を出せば話が長くなる。内木は両親を一度に失った悲しみに、整理が付いていなかった。
触れたくない内容まで、訊かれたくなかった。
大げさに表情を変えて弔意の言葉を添えた後、マクガヴァンが巨体を内木に向けて、頷きながら言葉を強めた。
「近い将来、君は人生の良き伴侶を得るだろう。愛らしい子供たちも与えられるに違いない。そのとき、ディス・カントリーが、日々、テロリズムに脅かされる状況だったら、どうだね。愛する家族たちのために、徹底してディス・ワールドからゲリラ組織を排除する必要があると思わんか。もちろん、現在、君のそばにいる妹さんも守らなければいけないんだがね」
「妹も、ですよね」
内木は顔を顰めた。妹とテロリスト。内木には口に出せない悩みがあった。




