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射殺(2)

         3

 無線係からマイクを借り、御乗用列車の車掌に向かって、由紀子は訊いた。

「救護処置は何分間の見込みですか?」

『被害者の状況が不明なため、時間は読めませんが、搬出だけなら五分程度で充分です』 

 微妙な時間だった。二分か三分ならば、それぞれの車輛が駅間を走行するスピードを調整して、全体の遅れは吸収できた。

 しかし、十分を超えると、確実にスジの引き直しが必要となる。

「分かりました。搬出できるホームを検討します。車輛は現状通り走行を続けてください」

 線路配線図を確認すると、最も近い場所は大宮総合車両センターだった。

 通常のホームでは、短時間で乗降客を排除できない。今回、攻撃を受けたとなると、駅構内に同じグループが紛れ込んでいる可能性があった。

〈何より、お召列車と同じ条件の確保が必要だ〉

 大宮総合車両センターなら工場棟が設置されている。建屋に入り、外部からの侵入を防げば、二度目の狙撃は避けられるはずだ。

「大至急、指令をお願いします。御乗用列車は負傷者搬出のために、大宮総合車両センターに入構します。点検車輛の移動を願います」

 現時点で点検ブースの空きはなかった。今から点検中の車輛を移動させれば、大宮で御乗用列車が車両センターに入っても、ギリギリ間に合う計算になる。

 ただし、移動完了時刻に合わせて、御乗用列車のスジを寝かす必要がある。

「警察と救急車の手配を頼みます。間に合わないと、次の狙撃が防げなくなる」

 大宮総合車両センターでの停車は、警察から拒まれる可能性がある。

〝非常停止は危険だ。すぐに走行を開始しろ!〟

 先刻、無線に入った声は、警察関係者だったに違いない。

 しかし、人命救助が最優先だ。

 栗橋駅で東武線乗り入れの際、停車が必要となるが、栗橋まで待っていては、それだけ負傷者の状態が悪化する。

 実際に整理ダイヤの組み直しを担当しているのは、由紀子だった。すべての権限と責任は由紀子に委ねられている。

 今さら気持ちがブレるわけにはいかなかった。

「大宮総合車両センター、指令を了承しました。最も交差の少ない検査ブースを、開放します。番線変更によって交差支障が起きないよう指示を願います」

 無線担当から報告が上がった。気持ちを引き締めて、由紀子は、移動した電車が御乗用列車の出入りを邪魔しない場所に停車指示をした。

「救急車手配は、いかがですか。日光駅到着時刻に期限がありますから、停滞時間は五分以内に厳守して下さい。それから、警察は? 入構の許可は、出ましたか。事前のブース確認がなければ、安全は確保できないと思いますが」

 つい今しがたまで不安に駆られていた由紀子は、すっかり姿を消していた。

 整理ダイヤ担当の発言として、松浦を含めて、すべてのスタッフが由紀子の指示に従っていた。

「被害者搬出については、具体的対応の指示をお願いします。私は運行再開までに、最も有効なスジを引き直しますから」

 ダイヤグラムの用紙をテーブルに置いて、由紀子は色鉛筆を握り直した。すべての列車の運行が、由紀子の腕に懸かっていた。

 由紀子は、父親の姿を思い起した。

〈やっぱり、私は〝スジ渕〟の血を引く娘なのよ〉

 父親の存在を初めて身近に覚えた。由紀子は心が引き締まって感じられた。


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