生徒会の鬼と化学部の姫
燦々SUNと弧滓 歩之雄のリレー小説です。お互いにお題を1つずつ出し合い、ランダムのお題と合わせて3つのお題で、起承転結を交互に書きました。横線が入っている部分で作者が変わります。「起」と「転」を燦々SUNが、「承」と「結」を弧滓 歩之雄が書きました。
燦々SUNのお題:「柱」
弧滓 歩之雄のお題:「姫」
ランダムのお題:「ナトリウム」
俺の名は城田蒼司。この白麗学園の2年生であり、同時に厳格な生徒会長として知られている。
その厳しさゆえに一部の生徒からは"生徒会の鬼"などとも呼ばれているが、その一方で先生方からは"白麗学園の陰の大黒柱"として頼りにもされているので問題はない。俺は別に「学生の今しか出来ないことだし〜」とか「生徒会ってなんかカッコよくない? 女の子にモテるかも~」とか、そんな青春ボケした理由で生徒会なんかやっている訳ではない。
……いや、実際やってみたら生徒会の仕事って想像以上に裏方で地味だし、忙しい割に全然目立たないし。定例集会で顔を合わせる各部活の部長副部長以外のほとんどの生徒は、そもそも俺の顔と肩書きが一致してないし……。生徒会が脚光を浴びるなんて、マンガやアニメの世界だけだと入って2カ月で悟った。同時に、青春を求めるなら無難に体育会系の部活に入るべきだったと気付いた……い、いや!飽くまでも一般論だけどな!?別に俺は最初から青春なんて求めてないしな!?
んんっ! ……そう、俺が生徒会に入り、あまつさえ生徒会長なんて面倒な職務を引き受けているのは、全ては将来のため。
1年間立派に生徒会長を務め上げたとなれば、内申点は非常に高くなる。その実績は大学受験、引いてはその後の就活においても大きなアドバンテージになるだろう。
そう、俺はその為だけに、生徒会長という職務に就いているのだ。それゆえ、不良や不純異性交遊に対して多少厳しくなってもそれは仕方がない。
全ては俺の内申点の為。断じて青春しちゃってる他の生徒達に対するやっかみなどではない。
しかし、その取り組みの甲斐あって、今この学園には問題児らしい問題児はほとんどいない。
そう、約1名……
「それで? 城田会長。これは一体どういうことかねぇ?」
……この女を除いては。
俺は執務机の前に立つその女生徒を、剣呑な目で睨んだ。
制服の上から羽織った白衣。それとは対照的な漆黒の長い髪と黒のニーソックス。
まるで、ドラマに登場する妖艶な保健医のような妖しい美貌を持つこの女は、桐生香奈恵。同じ2年の化学部部長であり、この学園一の天才児であると同時に最悪の問題児だ。
生徒達からは、その美貌から"化学部の姫"と称され、同時にその奇行から"白麗学園のマッドサイエンティスト"と恐れられている。
この女の理学系の才能は凄まじく、昨年は高校1年生でありながら、その研究成果が内閣総理大臣賞を受賞している。しかも、化学部としてではなく個人で。
その業績から先生方もこの女に強く言うことは出来ず、大変不本意ながら、この女の問題行動を止めるのはいつも俺の役回りとなってしまっている。そしてそれは、今回も同じだった。
「どういうこと……というのは、化学部の学園祭での企画を却下したことか?」
眼鏡のブリッジを押し上げつつそう問い掛けると、桐生は心底不可解だと言わんばかりに両手を広げた。
「その通りだよ。一体どういうつもりで却下したのか理由を聞きたいねぇ」
「どういうつもりも何も、こんな企画が通ると本気で思ってるのか?」
俺が化学部の企画書を桐生の方へと滑らせると、桐生はそれをつまんで片眉を上げた。
「金属ナトリウムを水槽にぶち込むだけの簡単な実験。難しい実験手法もいらず、見た目にも派手だ。学園祭の出し物としてはこの上なく相応しいと思うけどねぇ」
「馬鹿かお前は。そんな実験、近隣住民や消防署の協力が得られる訳ないだろう」
NaClなど、化合物自体は割と身近に存在するナトリウムだが、単体の金属ナトリウムはとんでもない危険物だ。水や酸素との反応性が非常に高く、室温で放置しているだけで空気中の水分と勝手に反応して、自然発火するくらいなのだから。
そんな金属ナトリウムを、水槽に放り込んだらどうなるか。答えは簡単、爆発である。
俺も実際に生で見たことはないが、大きなナトリウムの塊を放り込まれた湯船が爆砕する動画なら見たことがある。たしかに見栄えはいいかもしれないが、そういう問題じゃない。明らかに危険過ぎる。学園祭とかは置いておいても、日本の一高校でやっていい実験ではない。
「とにかく、この企画は却下だ。他の企画を持ってこい」
「そうは言ってもねぇ。君は、この前のドライアイスをペットボトルに入れるだけの簡単な実験も却下したじゃないか」
「当然だ。まず爆発させるという発想から離れろ」
「はいはい分かったよ。それにしても、君はいつも私の邪魔をするねぇ。そんなに私が嫌いかい?」
きっと深く考えてはいないのだろうその発言に、俺は無言で返した。
桐生のことが好きか嫌いかと言えば、それは間違いなく嫌いだ。
生徒会長なんかやってこつこつ実績を積み上げている俺からすれば、内閣総理大臣賞個人受賞なんて華々しい実績を持つこいつが面白いはずもない。俺とは違い、こいつはもうその実績だけで、大概の大学ならAO入試で一発合格だろう。
いや、それだけならまだいい。それだけなら、「そんな奴もいるんだな」と遠い世界の住人を見る気持ちでスルー出来ただろう。
だがしかし。こいつは、それだけに止まらず事ある毎に俺の実績に傷を付けようとするのだ。いや、本人がそんなつもりでやっている訳ではないことくらい分かっているが。
だが、もう一度言うがこいつを止めるのは俺の役割と見なされている。つまり、こいつの問題行動はそのまま俺の評価に関わるということだ。せめて、俺の任期が終わった後ならまた話は別なんだが。
まったく、別次元の天才ならそのまま別次元にいればいいものを。なぜわざわざ凡人である俺の足を引っ張ろうとするのかと声を大にして問いたい。いや、まあそんな惨めなことはしないけどな。
俺が無言のまま桐生を見上げていると、桐生は肩を竦めて踵を返した。
「やれやれ仕方ない。じゃあまた別の企画を考えるよ」
「危険物は使うなよ」
「善処するよ」
それ、100%考慮しないやつだろ。
そう思いはしたが口にはせず、俺は生徒会室を出て行く桐生を見送った。
「ふーーっ」
眼鏡を外し、目頭を揉みながら椅子に深く身を沈める。
この学園祭を終えれば、2週間後には生徒会は代替わり。俺はこの生徒会室を去ることになる。
実質、この学園祭が俺にとって生徒会での最後の大仕事になるわけだが……
「先行きが不安だ……」
主にあの女のせいで。
本当にあの女、マトモな企画を持ってくる気があるんだろうか?
「まあ、いつもと違って事前に何をするか聞かされるだけマシ、か…………ん?」
その時、慌ただしく廊下を駆ける足音が聞こえたと思ったら、ドアを蹴破るような勢いで庶務の1年生が飛び込んで来た。
「会長! 大変です。第一理科室で──」
「あんの女ぁ……っ!!」
どうやら、さっきのはフラグだったらしい。
俺はわなわなと震える手で眼鏡を掛け直すと、荒々しく椅子から腰を上げた。
――――――――――――――――――――――――
私の名は桐生香奈恵。この白麗学園の2年生。つまりはどこにでもいる普通の女子高生。
そんな私の幼い頃の記憶にある1ページ。
食の細かった私は、それで何かと両親に心配されていた。
親としては子供はご飯を食べない事は不安で仕方がなかっただろう。あれやこれやと食べさせようとするが、私は無理強いされる事で尚更食事が、特に日本人の主食たるお米が嫌いになっていった。両親もあまりに思い通りに行かないがゆえについつい私に怒鳴ってしまう事もあった。
当時、両親共に歳は20代前半。
今思えば若い身で子供を持ち、初めての子育てにガムシャラだったのだろう。
しかし、幼い私としては、無理矢理ご飯を食べさせようとしてくる両親がただ恐かった。
とあるフードコートで家族と共に食事を取る事になった時、私はやはりご飯を食べることを嫌がっていた。
最初は優しく食事を促していた両親も、次第にイライラしだす。そして大衆の場にも関わらず怒鳴り声をあげそうになったその時、隣の席に座っていた同い年位の男の子が突然身を乗り出してきて私に向かって口を開いた。
「ご飯はねぇ、お塩を入れておにぎりにすると美味しいよ」
そういいながら彼は備え付けの味塩を私のご飯に適度に振り掛けたのだ。
知らない男の子からの突然のアドバイスと行動。
幼い私は、言われるがままに恐る恐るそのご飯を口に運ぶ。
────と、信じられない美味しさが口いっぱいに広がった。
ご飯をガツガツ食べだす私に、呆気にとられていた両親も大喜び。
同じく息子の行動に呆気にとられていたであろう相手の両親も話に入ってきて、親同士で仲良く会話をしだした。
私は彼と少し遊び、名前も教えてもらう。
『しろたそうじ』。彼は確かにそう名乗った。
それから私は毎食ご飯に塩をかけて食べる事にした。
色々な分量の塩を試している内に、両親が私に対して怒鳴らなくなっている事に気がつく。
苦痛な食事を楽しい物に変え、恐かった両親を優しい存在に変える。
そんな魔法を私達家族にかけていった彼、それが私の初恋の相手となった。
『幼少の時代に1度だけ会った初恋』、そんなもの、当然叶うはずがない恋だと思っていたけれど、偶然その彼と同じ高校になったの!
名前を見た時は少し驚いた。でもきっと同姓同名の別人だろうとも思った。
しかしその顔を見たとき、私は同一人物だと確信した。
間違いなく初恋の彼が成長した姿がそこにあったのだから。
彼はこの白麗学園では生徒会に入るらしいから、本当は私もそこで生徒会に入りたかったのだけど、そもそもこの学校に入れた理由が化学の成績が良かったがための中学の担任の推薦。化学部に入ることは逃れられない事だった。スポーツ部でなくてもこんな事ってあるのね。
それなら自分の得意分野で彼に振り向いて貰おうと私は計画を立てた。
女は見た目! 可愛いは正義! 科学部であるならそのイメージは何といっても清楚なクールビューティ!
と言うわけで綺麗なお肌と整った顔にするために、『毎日服用するだけでぷるんとした肌になる上に余分な脂肪を落とす錠剤』をつくる事で女としての美貌をGET!
この薬、マイナスの副作用が一切無いし、ついでに老化した脳の活性化や運動能力の向上効果も期待出来るように組み合わせたためか、確か去年に何かの賞をもらった。どうでもいいけど。
それに合わせて口調もクールビューティキャラに変えていたら、いつのまにか"化学部の姫"とか"白麗学園のマッドサイエンティスト"とか呼ばれるようになってた。
二年に上がって三年生が部活を引退すると共に私は科学部部長に就任。それと同時に、なんと彼は生徒会会長になってた。
これ凄くない!? 一部活動の部長であれば、自然に生徒会会長である彼と会話をする機会が増える。
と、ここで私はハッとした。
彼は幼い頃から天才だった。
つまり、この状態は彼がここまで持っていた結果なのでは? と言うことは、私達はまさか両想い!? ううん、まさかなんかじゃない。だって幼少時代に1度あっただけの彼とたまたま同じ高校になってその1年後に同列の立場になるなんて偶然、ある? あるわけない。運命、なんて陳腐なものじゃない。全ては魔法を操る彼が描いたストーリー。あぁ、ならば私は喜んでその手のひらの上で踊ろう。
何もしなくてもストーリーは進むのだろうけど、せっかくだから私は彼に自分の価値を示し続けた。
時には新種の毒ガスを発明して披露する事で『理知的女子』のアピールを、時には服用者を意のままに操る薬を発明する事で『生徒会会長として人を動かす事のお手伝いが出来る事』のアピールを。
でも彼からは好意的な反応は見られない。それどころか嫌悪感を抱かれている気さえした。
それで私、少しグレちゃったの。ちょっと不良なグループの女の子と遊びに行ったりさ。
そしたら彼ね、生徒会会長として不良を取り締まりだしたの、私をそちらの世界に行かせない為に! ちょっと無愛想に見えてた彼だけど、そこには確かに私への愛があった。
そう確信したら嬉しくなっちゃって、でも同時にもどかしくて早く彼と正式にお付き合いしたくて、じゃあ私に出来る事はなんだろうと考えた結果、『もう直接押し倒しちゃえばいいや』って考えたのね。
でも、私がその思考に辿り着く事さえもお見通しだったみたい。私が行動に移る前に、彼は全校集会で不純異性交遊の自粛について強く呼び掛けたわ。いけないいけない、そうよね、彼が望むのはそんなふしだらな事じゃないわよね。私ったら……ごめんなさい。
その後も私はアピールを続けていたんだけど、事あるごとに却下されたり抑制されたりして、気が付いたら私達の部活動就任期間は学園祭が終わる今月末までになってしまった。
……ねえ、これも貴方の思い通りなの? この学園祭で、何か私を受け入れてくれる計画があるの?
そう考えていた矢先、私が生徒会に出した『学園祭の出し物中に予期せぬ大爆発! 多くの人が見ている中、近くにいた科学部部長が巻き込まれて唖然、そんな中カッコいい生徒会会長が颯爽助け出して吊り橋効果も合わさって二人は付き合っちゃうぞ☆』案も一瞬で却下されてしまう。
彼と私は両想いである。
それは絶対に間違いないのだけど、それでも、もし、万に1つ、それが私の勘違いだったら……?
私は2年間、勘違いをしただけで彼との接点を失ってしまうの?
そこまで考えた私は、意を決して彼にその心を直接聞きに行く事にした。
彼の下に向かう足取りは、非常に重い。心臓がバクバクする。頭では行くと決めたのに、心と身体がそれを拒絶している。
生徒会の扉を開け、遂には彼の下に来てしまった。もう後戻りは出来ない。私は、彼に向かって口を開く。
まずは企画を却下した理由。返答は周囲の許可が得られないから。これはどうとでも言える事、なんでもいいや。
そして本題。無用に彼に嫌われたくはないから、あくまでキャラは崩さず、クールビューティに。
"ねえ、私の事……本当は嫌い?"
そんな意を込めて絞り出した言葉への答えは────無言!
そして真剣な表情でこちらを見つめ返してくれている。「俺を信じろ」と言う自信にあふれた確固たる瞳。
その意味を理解し、私は心の中でガッツポーズをした。
ここで彼に拒絶されたのであれば、もう生きていけなかったのかも知れない。
本当は「そうじゃない、好きだよ」って言ってこの場で抱きしめてほしかったけれど、まだそんな時じゃないわよね。だって月末には学園祭という最後にして最高の舞台があるんだもの。
執務室を出た私の足取りは軽かった。
いったい彼はどんな舞台を用意してくれるのだろう。学園祭が待ち遠しくて仕方がない。
おっと、その前に却下されてしまった出し物の代案を考えなくてはならない。彼が出した条件は『爆発から離れる事』と『危険物を使わない事』の二つ。
この二つを使わずに化学部として相応しい出し物をしろというと中々その難易度は高い。
じゃあ後出来る事はと考えて、私は取り合えず金属ナトリウムを改良した爆薬で第一理科室の柱を1本取り外す。爆発も危険物も早速使ったけど、学園祭で使ったわけじゃないのでセーフよね。
あら? 1年生が何か血相を変えて走っていったわね、何かあったのかしら?
まあいいわ、出し物の準備をしないと。
色々な案を却下され続けてあまり時間がない。
単純にこの柱を投げてその上に部員が飛び乗る。そんな大道芸でいきましょう。
勿論私を含めて化学部員に曲芸師やバトル漫画のような身体能力なんてあるわけ無いから、そこは化学を極めた私の腕の見せ所ね。
部費で購入したジェットエンジンとこの間開発を終えた反重力装置があればなんとかなるでしょ。
宙に浮く柱が危険物って言われるかも知れないけど、そんな事言ったら重量あるもの皆鈍器よ、ここはもう押しきる。
……なんか廊下の方がバタバタ騒がしいわね、邪魔されても面倒だから入り口の鍵を閉めときましょう。
――――――――――――――――――――――――
「おい桐生! ここを開けろ!」
駆け付けた第一理科室の前でそう叫ぶと、扉越しに桐生の声が聞こえた。
『……なんだい? 今は実験中で手が離せないんだがねぇ』
「なんだ? じゃない! お前は何をしてるんだ! 柱を吹っ飛ばしたと聞いたぞ!?」
『ああ、拡張工事の後で無駄に残されていた邪魔な柱を撤去しただけだよ。これで後ろの席も前が見易くなったんじゃないかねぇ』
「む……」
たしかに、第一理科室には拡張工事で不要になった柱がそのまま残されていた。それなら問題は……いや、どちらにせよ施設の破壊であることに変わりは……。
『心配しなくても、君に迷惑はかけないよ。先生には後で私から報告しよう』
「む……そうか」
それなら、まあ問題はないだろう。先生方は元々桐生には強く言えんしな。
俺が言えば「なんで止めなかったんだ」と言われるだろうが、桐生なら「や、やっちゃったなら仕方ないね? 次からは気を付けてね?」で済まされる可能性が高い。うむ、なら俺は何も知らなかったことにしよう。俺は何も知らないし何も聞いてない。うん、それがいい。
『それより……君の方の準備は大丈夫なんだろうねぇ?』
「ん?」
どこかおずおずといった調子で訊かれた質問に、俺は首を傾げる。
(俺の方の準備……? ああ、毎年恒例の生徒会主催の企画、ミスコンのことか。なんで桐生がそんなことを気にする……? いや、たしか化学部の1年生に出場者がいたな。ふぅん、桐生でも後輩の心配をしたりするのか)
そんな微妙に失礼なことを考えながらも、俺は力強く答えた。
「問題ない。全て計画通りに進んでいる」
『っ!! そ、そうかい。それならよかった……うん、こちらは無難に済ませるから、気にせずに君の計画を進めてくれ』
「……本当だな?」
『心配しなくても、用意していた金属ナトリウムはさっき使ってしまったしねぇ』
それはそれで心配だが……ここではあえて追求しないでおく。
「分かった……なら、俺は戻るぞ?」
『うん……楽しみにしてるよ』
「うん? ……ああ」
なんで桐生がミスコンを楽しみにするんだ?
そんな疑問が浮かんだが、俺は深く考えることなくその場を後にした。
* * * * * * *
そして、学園祭当日。
俺の予想に反して、化学部の企画は大盛況だった。
もっとも、その内容はとても“無難”と呼べる内容ではなかったが……。
「それじゃあ、行きますね?」
「いつでもどうぞ~」
「えい!」
来場者の女子高生が柱の横に設置されている巨大な杭打機(?)のスイッチを押すと、ジェットエンジンで加速された巨大な杭……というか丸太? が柱にぶち当たり、一番下の段を抜いた。
「とうっ!!」
それと同時に柱の上に立っていた化学部員がひらりと跳躍し、一段低くなった柱の上に見事に着地した。そのサーカスの軽業師のような芸当に、観客から拍手が沸き上がる。
彼女らが何をやっているかというと、一言で言うなら“人間だるま落とし”だ。
巨大なだるま落としの上に人が立って、そのだるま落としを下から一段ずつ抜いていくという、テレビのバラエティー番組で時々芸人がやっているあれである。
ただし、これはだるま落としの素材としてコンクリートの柱を使っているし、上に立っている部員は命綱の代わりに何やら奇妙な装置を背負っているが。……なにやら反重力装置とかいうおよそリアルでは聞かない単語が聞こえたが、俺は何も聞いてない。
「どうだい? なかなか盛況だろう?」
聞き慣れた声に振り返ると、今日も今日とて制服に白衣を羽織った桐生がこちらに近付いて来た。
「たしかにな……安全面で色々と言いたいことはあるが、まあお前にしてはマトモな企画だと言える」
「それはどうも。もっとも、私が出したのは素案だけで、そこに他の部員達が肉付けしていってあんな形になったんだけどねぇ」
……まあ、そうだろうな。こいつにここまでの企画力があるとは思えない。
「それにしても、あれは本当に大丈夫なのか?」
「あれとは?」
「あの一番上に立っている女子だ。命綱も付けていないようだし、あの高さから落ちたらシャレにならんぞ」
「問題ないよ。仮に落ちても怪我しない程度の速度で落下するからねぇ」
「それならいいが……」
そう言っている間も、順調に段は減っていき、いよいよ最後の段になった。
観客の1人がスイッチを押すと同時に、上に乗っている女子が高く跳躍し、後方宙返りに何回か捻りまで加えながら地面に着地した。直後、周囲から万雷の拍手が送られるが……
「……気のせいか? 着地の瞬間、右足をぐねったように見えたんだが?」
「……」
隣の桐生にそう問い掛けると、さっと視線を逸らされる。……オイ。
観客が散ったのを確認してから、未だにポーズを取っている女子の元へと駆け寄ると、その女子は笑顔をキープしたまま額にびっしりと脂汗を浮かべていた。
「大丈夫かい? さっき、足をひねっていた気がするんだけどね?」
「桐生先輩……すみません、ちょっとダメっぽいです」
どうやら、軽い捻挫らしい。
他の部員に肩を貸してもらって保健室に向かう彼女の背を見送りながら、桐生が呟いた。
「参ったねぇ……まあ、上に乗る役は他の部員に代わってもらえば問題はないか」
「いや、問題はあるぞ」
「? 何がだい?」
「彼女はミスコンの出場者だ」
そう、今しがた足を捻挫した彼女は、ミスコンの出場者の1人だったのだ。このままではミスコンに欠員が出てしまう。
「誰かが代役に入らなければ、ただでさえ人数が少ない出場者がさらに減ってしまう」
「そうかい……それは大変だねぇ」
「ああ、ミスコンの開始まであと30分しかない。俺の会長としての最後の大仕事であるこの学園祭で、仮にも生徒会主催であるミスコンに欠員が出る。これは大問題だ」
「そうだね……ところで、なんで私を見るのかな?」
「……一応この企画の責任者はお前だ。ここは部長として、後輩の代わりに一肌脱ぐべきじゃないか?」
「むぐっ……」
俺の提案に、桐生は苦虫を噛み潰したような表情になった。
その姿に、俺も少し溜飲が下がる。いつも散々迷惑を掛けられているんだ。これくらいの意趣返しは許されるだろう。
それに、この女見てくれだけはいいからな。実際、こいつほど代役に相応しい奴もいないだろう。あの"化学部の姫"が代わりに出るとなれば、観客だって文句は言わないはずだ。
「お前、この前『君の方の準備は大丈夫なんだろうね?』って言ってたな? 仮にも俺の企画の心配をしてたお前が、ここに来て俺の企画を潰したりしないだろう?」
俺がそう追撃を加えると、それまで煩悶していた桐生がピタリと動きを止めた。
そして、ジッと俺の顔を見上げると、なにやら納得したように頷いた。
「……分かった。君がそう言うなら出ようじゃないか」
「? お、おう。助かる……」
何を納得したのかは不明だが、出てくれるというなら文句はない。もう時間もないので、会場となる体育館に隣接する空き教室に作られた、ミスコン出場者の控え室に移動する。……した、のだが、
「ちょっと待ってくれ! 着替えがあるとは聞いてないぞ!?」
スタッフに衣装を渡された途端、桐生が常になく慌てた様子でゴネ始めた。
「ミスコンなんだ。当然だろう? 安心しろ、さっきの彼女とお前は身長も体形もそんなに変わらん。そのまま着ても恐らく問題はないはずだ」
「いや、そういう問題じゃなく、私はこの白衣を脱いだら……」
「あのぉ、すみません。この後メイクもするので、そろそろ着替えてもらえますか?」
「くっ……」
スタッフにそう呼び掛けられ、桐生が苦悶の表情を浮かべる。
「……ほら、スタッフに迷惑を掛けるな。一度出ると決めたなら、覚悟を決めろ」
「う、くっ……分かったよ」
「じゃあ、俺はステージの方に行ってるからな。逃げるなよ?」
「……逃げないよ」
桐生に念押しをし、俺は体育館の方に向かった。
* * * * * * *
無難に開演のあいさつを済ませ、いよいよミスコンが始まった。
ステージ上では、メイド服やゴスロリ、フリル付きの浴衣など、様々な衣装に身を包んだ出場者が、それぞれ観客に向かってアピールを行なっている。
ミスコンの主催者は一応生徒会だが、一番の功労者は衣装を作っている手芸部の面々ではなかろうか。出場者の衣装は、どれもプロ並みの仕上がりだ。この衣装はそのまま出場者にプレゼントされるので、実際それを目当てに出場を決める者もいるらしい。
(さて、そろそろ桐生の番だが……?)
もうステージ横に来てもいい時間なのに、まだ桐生は姿を現さない。
その代わりに、控え室のスタッフが足早にこちらに近付いてきた。
「すみません、会長。桐生さんですが、衣装の手直しに時間が掛かっているようなので、順番を最後に回してもらえますか?」
「む……そうか、分かった」
トランシーバーで、他のスタッフにもそのことを伝える。
桐生の……というか、桐生が代役を務めている女子の衣装はチャイナ服だった。
まあかなりピッタリとしたデザインだしな。そういうこともあるだろう。
そんな軽いアクシデントがありながらも、ミスコンは特にトラブルもなく順調に進む。
そして、最後から2人目の出場者がステージに上がった時……
ガチャ
「ん、ようやく来たか。あんまり遅いから逃げたのかと思っ──」
背後の入り口が開く音に、軽口を叩きつつ振り返り──
「どう、かしら? 城田くん」
お前誰だよっっ!!!!
恥ずかしげに俯きながら上目遣いでこちらを窺う桐生に、俺は内心でそう絶叫した。
いつも無造作に背中に流されている長い黒髪はシニョンで左右にまとめられ、うっすらと化粧を施されたその顔はいつになく女の子らしく、可愛らしい。
そして……あらかじめ全ての衣装を確認していた俺には、具体的にどのような手直しが加えられたのかがはっきりと分かってしまった。
脇の部分に、なかったはずのスリットが追加されている。そして、脚の両側に入っているスリットの上の部分が、紐で留められている。
恐らく、桐生の方が元の女子より背が高く、そして……まあ、胸が大きかったのだろう。キツイ胸の部分を緩めるために脇にスリットを入れ、かなり際どいところまで攻め込まれている脚のスリットを、紐で留めることでカバーしたのだ。
これ、手直し前は一体どんなけしからんことに……って、ハッ!
そこまで考えて、俺は自分の失態に気付いた。
あまりに意表を突かれ、思わずマジマジと見詰めてしまった。
桐生のことだ。今に小馬鹿にした笑みを浮かべながら、「おやおや、そんなに情熱的に見詰めないでくれよ。仕方ない会長だねぇ」とでも言うに違いない!
「城田くん……」
ほら来た。
「そ、そんなに見詰められると……恥ずかしいわ」
だっからお前誰だよっ!!!?
いつもの傲慢で傍若無人なマットサイエンティスト様はどこに行った!? というかさっきから口調変わってない!? あ、コラ、恥ずかしそうに胸を隠すな。スリットを押さえるな! なんかすごくイケないことしてる気分になるだろうがぁぁぁーー!!!
ふぅ、お、落ち着け俺。
このままでは"セクハラ会長"の汚名を着せられてしまう。落ち着け……落ち着いて、いつも通りクールに!!
俺は一度深呼吸をして精神を立て直すと、眼鏡のブリッジを押し上げつつ、心外そうな表情を作った。
「勘違いするな。俺はこの短時間でそこまで見事に衣装を修正した、手芸部の手腕に感心していただけだ。別にお前を見ていたわけではない」
「…………そう」
ごめんねぇぇぇぇーーー!!?!
嘘です。ガッツリ見てました! もう少し紐の位置が高ければ完全に紐パンだな〜とか、まだ胸がキツそうだけど、これ以上スリット入れたら横乳がヤバそうだな〜とか、普通に邪な感想を抱いてました!!
……いや、本当にごめん。ちょっと死にたくなってきた。俺はなんつーことを……。
『さて、次がいよいよ最後の出場者になります──』
「あっ……私の番ね」
「ああ……そうだな」
「それじゃあ、行ってくるわ」
アナウンスの紹介に合わせ、桐生がステージに向かう。
その後ろ姿はどうにも覇気がなく、酷く頼りなく見えて……
「っ、桐生!!」
気付くと俺は、桐生を呼び止めていた。
「が、頑張れっ!」
振り向いた桐生に、ぎこちなく声援を送る。
すると、桐生は一瞬目を見開いた後、ニコッと邪気のない笑みを浮かべ……
「うん、頑張る!」
明るくそう言うと、軽い足取りでステージ上に飛び出した。
……凄まじい破壊力だった。マンガだったら確実に眼鏡のレンズが弾け飛んでいただろう。
「あれは桐生あれは桐生あれは桐生……」
俺は周囲のスタッフの奇異の視線も気にせず、柱に額を押し付けながら、延々と自分にそう言い聞かせるのだった。
――――――――――――――――――――――――
あぁ、ステージに上がるこの直前で、ようやく合点がいった。
人間だるま落としに出たあの子がケガしちゃった時は本当に申し訳なく思ったけど、そもそも絶対にケガなんてしないように設計していた。
急な落下や衝撃に対して反重力装置が自動的に発動するように設計してある。ただ、『予定通りの速度で足に地が着くのにその際にケガをする可能性』は、確かに考慮していなかった。
出し物に出たあの子は、化学部と一緒に体操部も掛け持ちしていてそちらでは一年生にしてエースの天才。予行練習でも一度も失敗なんてしなかった。
なるほど、彼と結託していて一芝居打った、もしくはわざわざ意図的にとケガをして見せた、というわけね。
ミス・コンテスト、全ては私をこの舞台に立たせるために。これが、彼が用意した私の為の舞台……!
『ここで私が優勝して、主催の彼がみんなの前で私に告白』、なるほど最高に恥ずかしくて最高にサプライズで最高に嬉しい舞台じゃない!
私以外の参加者達も皆とても綺麗だわ。
彼は主催だけど審査員じゃない。というかこのコンテストは審査員制ではなく観客投票制。裏での買収は流石に不可能なはず。
その条件で彼は言った、『頑張れ』と。
私は高校一年からいつものあの白衣を纏い、そして同時に彼の為にクールビューティキャラに徹した。そしてその白衣を彼はわざと脱がした。既に見抜かれていたのだ、私のクールビューティキャラに必要なルーティーンが、白衣を着ている事だという事を。
つまり、『舞台は用意した。ゴールの報酬も準備した。ただし勝利は自分の力で、己の素の姿でもぎ取れ!』、そういう事ね!
さっきまでガチガチだった私の身体は現金なもので、彼に一言応援されただけでその足はぐんぐんと前に出る。
『さあ最後の一人 "化学部の姫"こと桐生香奈恵さんの入場です!!』
進行役の言葉と共に私は舞台に立った。
いつもの私であれば、こんな露出の多い格好で人前に出る事なんて絶対に嫌だった。恥ずかしくて死にそうになっていただろう。
でも! ようやくわかった! 私はこの日の為に頑張ってきたんだと!
私が姿を現すと、一瞬、場は静まり返り、その後巻き起こる拍手喝采とエールの声。男性のみならず女の子達も私の姿に見惚れているように見える。他の参加者達も私を見るなり唖然としたり俯いたり。
当然ね! 私がこの二年弱、どれだけ美貌を磨いてきたと思っているの。私の科学の総力は人類の数十年は先を行っている。その頭脳の大半を彼の為に使ったのよ。もっと見なさい褒めたたえなさい!
これだけでも私が優勝できる可能性は高いと思うけども、彼が私に言った言葉は『頑張れ』。私もハッキリと『頑張る』と答えた! ならば完全勝利の為に全力を尽くす!
私はパチンと指を鳴らした。
その合図と同時に私の周囲にのみ発生する桜吹雪。
放課後、暇潰しに学校のあらゆる所にテキトーに仕込んでいた装置がこんな所で役に立つなんてね。どう? 日本最高の花とその中心に佇む絶世の美女は。
花びらに紛れて綺麗な扇も私の下に落ちさせる。チャイナ服って健康的なイメージがある為かダンスが似合う気がするのよね。私、ダンスなんて踊れないけど、同じく学校中に仕込んでおいた傀儡糸とダンスプログラムを組み合わせて私自身を操れば、アイドルのような可憐で可愛いダンスもほらこの通り!
勿論これで終わりじゃないわよ、フフフ、皆私に見惚れて気がついていないようね。この会場には既にガスが充満している事に。
このありとあらゆるナトリウムを配合して気化させて作った特殊ガスを一度吸えば、人の理性を心の奥に静め本能のまま行動するようになる! つまり、例え他の参加者達が観客に裏で票を入れる取引をしていたとしてももはや無意味、本当に美しいと思った相手にしか票を入れることが出来なくなる! さあ皆私に票を入れなさい、今この場で、私はミスコンの姫となる!
「って、ちょ……」
ステージを登って私の下に観客たちが向かってくる!? なんで?!
あ、そうか、本能のまま動くならそりゃ投票云々以前にあらゆる手段で魅力を集めた私を襲うわよね。なんか女の子もいっぱい向かってきているけど、これは百合展開かしら。
ってそんな事考えている場合じゃないわ。い、いや警備員もたくさんいるのだからこれ位のイレギュラーは鎮圧してくれ……ああああああぁ警備員も皆こちらに向かって来てる! ま、まずい、集団に襲われる……具題的には物量と勢いで圧殺されるッ!
「だ、誰か助け────」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
────後から聞いた話ではあの時、桐生香奈恵が撒いたガスにより場の皆がおかしくなっていたらしい。『理性を抑制し、己に忠実に身体が動くガス』、違法薬物もいい所だ。
当然俺もあの時少なからずガスを吸っていたわけだ。ステージに上がる直前のいつもと違う桐生の様子を見たからなのか、はたまた普段からどこかでそう思っていたのかはわからんが、つまり、これが俺にとって自分に正直な行動だったというわけだ────
「桐生!」
観客たち同様、俺は桐生の下へ走った。
他の者達と違うのは、その観客たちが桐生に襲いかかろうとしているのを見たがゆえに駆けた点。
主催である俺が見ていた位置はステージ裏。距離は観客たちよりも桐生に近い。突然の出来事に怯む桐生の手を取り、そのままUターン、ステージ裏へと姿を消す。
この学園にも一定数いる不良達をどうして俺が押さえつける事が出来たと思う? 生徒会としての権力や先生方のバックアップもあっての事だが、奴らも自粛せざるを得なかったのさ。俺を敵に回したくはないだろうからな。
観客達は何故か身体のリミッターが外れているのかその足は速い。しかし俺も同様にいつも以上の身体能力を発揮できている。身体は半ば勝手に動いているのに冷静な部分の俺もキチンと存在するようだ。桐生の手を引きながら最短の動きで奥へ奥へと進む。
奴らは追いつけないだろう。ステージ裏は狭くあの人数が一度に入ろうとするならばそこでどうしても詰まってしまう。そして俺は学園の誰よりも足が速い。ただただひたすら己の将来を有利にする為に、何かの役に立つだろうと陰ながら磨いてきた運動神経がこんな風に役に立つとはな。陰の大黒柱舐めんなよ。
俺は防災ブザーのある部屋に少しだけ寄り道し、そのボタンを叩き割る事でステージ全体にスプリンクラーを作動させる。この事態に気がついた周りが警察を呼ぶなり何とかしてくれるだろう。
桐生の手を引いたままステージ裏を抜け、更に学園の外まで避難した。
そして現状を確認するためにあの場にいなかった生徒会役員に携帯から電話をした結果、スプリンクラーの雨が観客達にかかり始めるとさほど時間を置かずにみな我に返っていったようだ。そしてその会話の中で気になったのが、
「ガス?」
とここで俺は初めて観客達が暴徒と化した原因を知る事になる。なんでも謎のガスが出ていてそれが原因ではないか、という事だ。
電話はそこそこに終え、騒動が納まったなら戻ろうと桐生のほうへ目を向ける。
息を切らせながら俯いている。当然か、こんな格好であんな速度で走り回ったんだから。改めて見ると目のやり場に困る。汗がチャイナ服に程よく纏わりついてエロさ倍増。
と、そこで桐生の顔が上を向いた。走ったからなのか顔が赤い。めっちゃ色っぽい、エロい。
紅潮した顔に輝かせた瞳を覗かせ、桐生は俺に言った。
「うん、城田君……思った以上の最高の舞台だった……!」
そう言えば桐生もガスを吸って────
そこまで思考した次の瞬間、俺は桐生に全力で抱き着かれた。
* * * * * * *
あれから時は流れた。
今現在一番大切な存在が、語り終えた俺に口を開く。
「それが二人のお付き合いの始まり? すれ違い勘違いが酷かったのね……見方次第ではドラマチックとも言えるけど」
そう、俺達はあれがきっかけで桐生と恋人同士になった。今はもう違うが。
付き合った後もハチャメチャな奴だった。一緒に出掛けようとするとジェット装置を使いたがるし、気に入らない輩は怪しげな薬で処理しようとするし、クールな奴かと思っていたのに些細な事で泣きだすし、デートの弁当をつくると言っては塩おにぎりしか持ってこないし。終わらせて正解だったと言えるだろう。
「あ、足音が聞こえる! 距離は1km先かな、よく聞く足音だ」
「本当か? じゃあそろそろ準備だな」
「うん! このクラッカー、一度鳴らすだけでおっきい遊園地のパレードが飛び出すようにつくったんだ!」
「それは仕舞いなさい」
アイツから受け継いだ頭脳を元につくった薬を俺の身体能力を受け継いだ肉体に投与した結果、五感までも常人を遥か上回るようになったか。
「ええ~、せっかくこのママの誕生日の為に頑張って造ったのに」
「いいから、『おめでとう』の言葉と美味しい塩おにぎりで迎えればいいんだよ」
我ながら凄まじい娘を授かったもんだ。