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その8 倶楽部の目標を決めよう

「では本日の”悪役令嬢対策倶楽部”の活動を始めますわ!」


 金髪をゴージャスな縦ロールにしたちょっときつめの美少女、ローゼマリー会長が高らかに宣言した。

 ここは学園の貴族学科の敷地内にある部室棟の一室。

 集まっているのは俺の他には貴族学科の女子生徒三人。


 先ずはこの倶楽部の発起人であり会長のローゼマリー(伯爵家令嬢)

 次に残念美少女クラリッサ(男爵家令嬢)

 そしていつも眠そうな目をしている巨乳美少女ディアナ(男爵家令嬢)

 最後にこの俺、平民学科首席アルト

 この四人が倶楽部のメンバーとなる。




「では、どうしたらいいのでしょうか?」

「いきなり丸投げですか!」


 さすが蝶よ花よと育てられた貴族令嬢。他人任せ感が半端ねーわ。

 そんな言葉で俺達に一体どうしろと。


「では、私はどうしたら良かったのでしょうか?」


 おっと、ツッコミを入れてしまった事で俺が会長にロックオンされてしまった。

 真剣な目で俺を見つめるローゼマリー会長。

 あ~、この人は基本的に凄く真面目なんだよな。

 なんでこんな人が五年後の卒業式の前夜に破滅する羽目になるんだろうか?


「ちょっと、平民アルト! 黙ってないでサッサと答えるのですよ!」


 おっと、考え事をしていたらクラリッサに文句を言われてしまったか。

 脳味噌が手足や口と直結している阿呆の子と違って、俺は普通に考えてから喋るんだよ。


「だ、誰が阿呆の子です!!」


 おっと、考えた事が口を付いて出てしまっていたみたいだ。

 反省反省。


「お前の事だよ」

「言い切りやがったです!」


 ささやかな言い争いをする俺とクラリッサを見て嬉しそうにするローゼマリー会長。

 興奮で白い肌が桜色に染まっている。

 会長はディアナの服をつまんでチョイチョイと引っ張った。

 その振動で座ったまま寝ていたディアナのたわわな果実がフルフルと揺れた。

 ごっつぁんです。


「こういうのって良いですね! 何だか気の置けない仲間同士のやり取りといった感じがしますわ!」


 ローゼマリー会長は、こういった友達同士の他愛無いやり取りというものに憧れがあったみたいで、ちょくちょくこういう反応を示すのだ。


「う~ん。普通?」


 適当に気の無い返事を返すディアナ。

 いや、お前寝ていて聞いていなかっただろ。




「え~と。先ずは目標を決めましょうか」


 いつまでもグダグダしていても仕方が無い。

 とりま俺が仕切って話を先に進める事にした。


「目標は私の破滅を防ぐ事ですわよ?」


 えっ? 分かっていなかったの? みたいな目でローゼマリー会長が俺を見た。

 おおう・・・ 美少女からそんな残念なモノを見る目で見られたら、俺の心に新たな扉が開いてしまいそうだぜ。


「アルト、キモっ」


 ディアナの率直な感想が俺のハートにグサリと突き刺さった。

 いや、冗談だから。マジに取るなよ。


「いや、もちろん最終的な目標はそうですが、もっと具体的な目標を決めましょう」


 俺は自分のノートを取り出すと(ああ、余談だがこの世界にも紙はある。ゴワゴワの質の良くない紙だが)目の前にテーブルに置いた。


「具体的な目標? そんなもの決める意味あるのです?」

「それが分からないからお前はダメなんだよ」

「なっ!」


 バッサリ切られて涙目になるクラリッサ。


「アタシにだって分かっているのですよ! 平民アルトのくせに馬鹿にするなです!」

「はいはい。えー、ローゼマリー会長の破滅を防ぐ事、これがこの倶楽部の最終目的です。いいですよね?」


 俺は紐で閉じられたノートを一枚破り、その一番上に「会長の破滅を防ぐ」と書いた。

 さらにそのすぐ下に「経過目標」と書く。


 キョトンとするローゼマリー会長。


 そして、さっきまでの眠そうな目から一転、若干前のめりになるディアナ。

 コイツ、魔法なんてファンタジーな力を使うくせに、割と論理的な思考を好むんだよな。

 クラリッサ? 何かもうすでに付いてこられなさそうな顔になってるな。


 俺は同じ紙を人数分作ると全員に渡した。


「「経過目標」の所は一番上に書かれた最終目標を果たすために、この倶楽部がどうするべきかを書いてください。次にその下にはそのために自分が何の役目を果たさなければならないかを書いて下さい。こちらはあくまでも「自分個人が出来る事」に限ります」


 これは昔、サッカー日本代表がW杯に出た時、当時の代表監督が選手の意識を高めるために取った方法である。

 て、TVで放送していた。

 渡された紙を前にウンウンうなる少女達。

 何だかんだでみんな結構真面目なヤツらなんだよな。

 おっと、いかん。俺も自分の分を考えなきゃ。




「みなさん書けましたか?」


 ローゼマリー会長の声に俺はペンを置いた。

 左右を見ると全員もう書き終わっていたみたいだ。みんな俺の方を見ていた。


「え~と、じゃあ言い出しっぺの俺から意見を出させてもらいます。先ずは「経過目標」これは「仲間を増やすこと」です。正直この人数だけじゃ、やれる事は限られていますからね」

「おっしゃることは分かりますが・・・ この部屋に入り切れるでしょうか?」


 心配するトコそこ?! いやいや、そうじゃなくて。

 ディアナが横から入ってくる。


「無理。ローゼマリーの話を信じるとは思えない」


 ディアナの指摘にしゅんとなるローゼマリー。

 沈み込んだローゼマリーを見て慌てるクラリッサ。


「そんなことはないのですよ! ちゃんと説明すればきっと分かってもらえるのです!」

「可能性は低いと思う。望み薄」

「何でディアナはそんな意地悪を言うのですよ!」

「意地悪じゃない。可能性の問題」


 興奮して感情的になるクラリッサに対して、あくまでも論理的に返すディアナ。

 

「まあまあ、もう少し俺の話を聞いてくれ。俺はディアナの言う事も最もだと思う」

「平民アルトまで!」

「まあ聞けっての。さっきのローゼマリー会長の言葉に対する答えでもあるんだが、俺は「仲間を増やすこと」とは言ったが、「この倶楽部のメンバーを増やすこと」とは言ってないだろう?」


 俺の言葉にキョトンとするクラリッサ。

 俺の言いたいことを理解したのか「なるほど」と小さく呟くディアナ。


「さっきの私の言葉に対する返事とはどういう事なのでしょうか?」

「え~と、つまり俺は倶楽部のメンバーを増やすんじゃなくて、この倶楽部に協力してくれる人間なり集団なりを作ろうと言っているんですよ」

「同盟者を増やす。」

「そうそれ、ディアナの言う通りだ。同盟者。何もガッツリ俺達の仲間である必要は無いんです。一部で利害の一致する、あるいはギブアンドテイクで手伝ってくれる、そういった相手でも良いんでドンドン増やそうと言っているんですよ。俺は平民学科でこの倶楽部に力を貸してくれそうなヤツらを捜しますよ」


 俺の説明が伝わったのだろう。ローゼマリー会長は花がほころぶような笑みを浮かべた。


「では貴族学科は私達ですわね! 残念ながら私には誰もお友達はいませんが!」

「私もいないのです」

「孤独を愛する」


 ・・・・・・。


「・・・平民学科だけでも捜しておきます」

「お願いしますね」




「さて次は・・・え~と、じゃあクラリッサ」

「じゃあとは何なんですよ、じゃあとは! まあいいのです。私の「経過目標」は「この倶楽部のメンバーを増やす」なのですよ」

 

 おっと、奇しくもクラリッサの意見も俺と同じ方向性だったんだな。最もよりストレートに倶楽部の人数を増やすという内容だったが。


「やっぱり隣の部屋も借りた方がいいのかしら?」


 いや、心配するの早すぎだから。

 ローゼマリー会長の中ではどれだけの人数がこの倶楽部に入る事になっているんだ?


「そのためにアタシは頑張って友達を作るのです!」

「内容が切なすぎるわ!」


 まあ友達を作る事自体は良い事だから、どんどんチャレンジしていけば良いと思う。

 でもコイツ、顔だけは良いんだから、友達というか彼氏を作った方が早いんじゃないだろうか?

 そうしたら彼氏の人間関係から知り合いの輪が広がるかもしれないし。


「ななな、何を言っているのですよ平民アルト! かかか彼氏なんて簡単にホイホイ作るもんじゃないのですよ! アタシはそんなふしだらな女じゃないのですよ!」


 おっと、また考えを口に出してしまっていたか。

 真っ赤になって俺の言葉を否定するクラリッサ。


「彼氏って・・・ どなたですの? ひょっとして私が知っている方かしら?」


 おっと、こっちも真っ赤になって何やら口走っておられますね。

 てか、貴族のご令嬢といえどもさすが女子。こういう話題には食い付きが良いんですね。


「興味なし。次行って」


 こっちの貴族のご令嬢は全くの平常運転なんだな。




「じゃあ次はディアナが発表するのですよ」

「りょーかーい」


 真っ赤になったクラリッサに指名され、間延びした返事を返すディアナ。


「僕の「経過目標」は「この倶楽部の地位向上」」


 ふむ。倶楽部の地位向上か。言いたい事は分かるが掴みどころのない目標だな。「経過目標」に設定するにはイマイチか?


「そのため、先ずは僕がローゼマリーとクラリッサの魔法を鍛え上げる」


 ん? 魔法?


「そして行く先々で勝負を挑み、負けた相手を傘下に加える。目標は卒業までにこの学園を僕達で牛耳る事」

「ヤンキー漫画の主人公かよ!」


 想像以上に物騒な内容だった!

 確かにそれが出来るなら誰もローゼマリー会長を裏切らないだろうけど!

 ほら見ろ、阿呆の子が「おおっ、その手があったのですよ」みたいな顔してるじゃないか。


「誰が阿呆の子なのです!」


 おっと、また口が滑ったか。


「ディアナが力によるこの学園の支配を目論むのなら、私はあなたを止めなければなりません」

「ローゼマリーの魔法では無理。止められない」

「あなたの所属する倶楽部の会長として、仲間として、私には道を外れたメンバーをただす責務があるのです!」


 おい、なんかこっちはこっちでラストバトル的な何かが始まりそうな雰囲気なんだが?!

 誰か止めろーっ!




「最後は私ですわね」


 ラストバトルは無事に回避された模様。

 ローゼマリー会長は手元の用紙を読み上げた。


「「経過目標」は「みんな仲良く」、ですわ」

「キャンペーン用語か!」


 思わず口を突いて出た俺のツッコミに対して、嬉しそうに頬を染めるローゼマリー会長。


「今のは気兼ねの無い友達同士の会話っぽくてすごく良かったですわ!」


 ちなみにやるべきことは「みんなと仲良くする事」だとさ。

 そんな感じで今日の活動は終わった。いいのかこれで?

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