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その17 嘘にだまされるな

「私の破滅を回避するためには、私自らが変わる必要があるのでは。そう私は考えたのですわ」


 いつものように始まった悪役令嬢対策倶楽部の活動。

 ローゼマリー会長は唐突にそう告げた。


「ローゼマリーが変わるのです?」


 会長の言葉に疑問を口にするのは、オレンジ色の髪のアイドルと見紛うばかりの美少女。

 中身は残念少女クラリッサだ。


「誰が残念なのですよ!」

「いや、どうせお前、今のローゼマリー会長の言葉を聞いて馬鹿な想像をしてたんだろ?」

「そっ・・・そんなはずはないのですよ!」


 図星を刺されたのかうろたえるクラリッサ。


「お前の事だどうせ、ローゼマリーがお菓子に変わったら美味しいかしら? とかローゼマリーがポトフに変わったら熱々かしら? とか考えていたんじゃないのか?」

「平民アルトはアタシをどういう目でみてるのですよ?!」


 俺の言葉にショックを受けるクラリッサ。

 どういう目ってお前、俺はいつもお前を阿呆の子を見るような目で見ているぞ。


「お菓子だなんて、私はそんな甘い女じゃありませんわ!」


 そして上手い事言ってやったぜ感溢れるローゼマリー会長のドヤ顔頂きました。

 でも大して上手く言えてませんよ?




「それで会長は具体的にどう変わるつもりなんですか?」

「それをこれから皆さんと考えるのですわ」


 相変わらず勢いだけの丸投げですな。


「変わるという事は、今までのローゼマリーに無い部分を探せばいい」


 起きていたんだなディアナ。

 青色のゆるふわヘアーの巨・・・発育優良美少女ディアナが、いつもの眠そうな顔を上げて答えた。


「ローゼマリーに無い部分。意地悪な所かな?」


 ディアナの言葉に続けるのは銀髪の美男子・・・のように見えてペタン子系女子。

 脳筋美少女バルバラである。


「なら私は意地悪令嬢になれば良いんですわね!」


 ポンと手を打って理解の表情を浮かべるローゼマリー会長。

 でもそれをやったら確実に最短距離で破滅しちゃうだろうね。




「そうでした・・・危うく本来の目的を忘れる所でしたわ」


 ローゼマリー会長はしょんぼりと肩を落とした。


「けど、考え方によってはそれもありかもしれませんよ?」

「どういうことですの?」


 小首を傾げて上目遣いに俺を見るローゼマリー会長。

 おおう、なんて破壊力だ。

 俺は自分の心臓がバクバクと高鳴るのを感じながら、努めて平静を装って自分の考えを話した。


「本当に意地悪令嬢になってしまっては問題がありますが、意地悪令嬢の考え方を学ぶ事で逆に意地悪令嬢が取る行動を避けることが出来るかもしれません」

「敵を知らざれば勝ち遠しだな」


 ふむ。この世界にも孫子の「敵を知り己を知れば百戦危うからず」的な言葉があるのか。

 世界が変わっても知恵者の考える事は同じなんだな。

 バルバラの言葉にローゼマリー会長が感嘆のため息を漏らした。


「そんな言葉があるんですのね。知りませんでしたわ」

「ああ。正確には『敵を知らざれば勝ち遠し、てか知ってても負ける時には負けるんだけどね』だ」

「後半は随分とぶっちゃけたな!」

「父上から教わった有難い言葉だ」

「また父上かよ! てか後半は絶対父上の創作だろ!」


 それでもまあ、知らないよりは知っていた方がマシ、程度には取る事が出来る・・・のか?

 まあ、それはもういいや。あんまり考えていると俺の思考までバルバラの父さん寄りになってしまいそうだ。


「会長は人が良くて騙されやすいですからね。先ずはそこからいきましょうか」

「私騙されやすくなんてないですわよ?」


 ぶくりと頬を膨らませるローゼマリー会長。

 なんだか意外だな。会長もこんな子供っぽい顔するんだ。

 おっと、話を進めないと。

 俺は会長の方へと向き直った。


「そうですか。じゃあこれから俺が会長を騙しますから注意して下さいね」

「分かりましたわ」


 ふんすと力を入れるローゼマリー会長。

 おいおい可愛いなあ、じゃなかった、え~、ゴホン。 


「実は俺・・・こう見えて女だったんです」


「「「「ええっ?!」」」」


「何でお前ら全員騙されてるんだよ!」



 騒然とする悪役令嬢対策倶楽部のメンバー達。


「アルトが女の子だったなんて!」

「あ、まだその話続いていたんですね。今のはウソですよ、最初に言いましたよね? 俺、男ですから」

「何でそんなウソをついたんですよ!」

「お前今までの話聞いてなかったのかよ?!」


 会話の根底を覆すクラリッサの発言につっこむ俺。


「ちゃ・・・ちゃんと聞いていたのです。アタシが平民アルトのウソになんて騙されるわけないのです」


 ほほう。言ったな?

 ハッキリ言って、俺はお前ほど騙され易い人間はいないと思っているんだがな。


「そうまで言うなら試してやろう。いいか、これから俺はお前を騙すからな」

「ドンと来いなのです!」


 拳を握って構えるクラリッサ。

 ・・・コイツ本当に顔だけは可愛いんだよな。なのになんで中身はこんな・・・まあいいや。


「俺は女の子だ」

「ウソなのです!」

「お前は俺の母さんだ」

「それもウソなのです!」

「俺の母さんは俺の父さんの奥さんだ」

「それもウソなのです!」

「今のは本当の話だよ!」

「ええっ?!」


 ええっ?! じゃねーよ! お前は俺はどんな複雑な家庭に生まれ育ったと思っているんだ?!


「だ・・・騙すと言ったのに本当の事を言うなんてズルいのです!」

「それは・・・確かに悪かったが、お前俺の話を聞かずにウソって言ってただけだろう」


 俺の指摘に図星を刺されて思わず目を反らすクラリッサ。


「クラリッサは騙せても私は騙せないぞ」

「そうか? じゃあ試してみるか?」


 バルバラか。でもコイツも単純だからな。


「私は今までに一度も騙された事が無いからな!」

「騙す以前の問題じゃねえか! お前騙された事にも気が付いていないだろ!」


 お前以前、兄上とやらに「お前は馬鹿だからすぐ人の言う事を信じて騙されるに違いない、だからそんな時にはさっきの言葉を言ってまずは断るんだ、ときつく言われているのだ」、なんて自慢げに言ってただろうが!


「おおっ! そういえば!」

「いや、おおっ、じゃねーよ」


 驚愕するバルバラに呆れる俺だった。

 そんな俺の視界に一人の少女が入って来た。


「ディアナか・・・」


 ディアナは眠そうな目を精一杯キッと見開いて俺を手招きした。


 ゴクリと誰かが喉を鳴らした。

 何だろう、無駄に最終バトルっぽい雰囲気だな。

 いいだろう。相手にとって不足は無い。


「ディアナってさあ」

「うん」

「首の後ろのホクロから、長い毛が生えているの気が付いている?」

「?! そんなものは無い」

「いや、ホントホント。この辺なんだけどさあ、誰かに言われた事ない?」

「絶対にない」

「・・・みんな気にして言わないんじゃないか? ほら、女の子同士だとそういうの気にしそうだし」

「・・・無い」

「ああそう。うん、分かった。今の俺のウソだから。ディアナにホクロ毛なんて無いから」

「当然。・・・ちょっとトイレに行ってくる」


 そう言うとディアナは部屋から出て行った。

 何故か彼女を心配そうに見守る会長達。


 ガチャ


「・・・ホクロ毛なんてなかった」

「そりゃウソだからな」


 何故か怒った顔で戻って来たディアナだった。

 お前騙されてないんじゃなかったのかよ。




「今日の活動で、私達に必要なのはアルトのウソを見抜ける人材だということが分かりました」

「賛成」「その通りなのです」「う~ん。そうなのかもしれないな」


 会長の言葉にそれぞれの言葉で賛同するメンバー達。

 特にクラリッサとディアナは俺の事を恨めし気に睨んでいる。

 どうしてこうなったし。

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