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最終話 クリスマス

最後までこの作品にお付き合い頂き、ありがとうございました。

 俺は駅前の商店街を歩いていた。

 12月の町はどこもクリスマス一色だ。

 俺は寒さにかじかむ指でスマホを操作した。


「! みんなもう着いているのか。マズいな」


 俺が見ているのはSNSアプリ。

 グループ名は『悪役令嬢対策倶楽部』。

 言うまでもなく、悪役令嬢対策倶楽部のメンバーが参加しているグループである。


マリエ『みなさんもう到着してますわ』

リサ『遅刻したユウトは罰ゲームなのです』

ルハラ『いいね。みんなの前で性癖を披露ね』

江田『誰得だしw 店の前に着いたら連絡入れてねー』

アンナ『( ˘ω˘ )スヤァ…』


 ・・・そろそろみんなと再会してふた月になるが、アイツらがスマホを使いこなしているのはやっぱり違和感がスゲエな。

 ディアナことアンナなんて顔文字まで使ってるし。

 まあ、あっちの世界の記憶が戻るまでは普通の女子高生だったんだから、スマホを持ってても別におかしくはないんだが。


 おっと、待ち合わせ場所のカラオケボックスの看板が見えて来た。

 メッセージを入れとかないと。



 転生したみんなと再会したあの日から約二ヶ月。

 今日は12月24日。そう。毎年世間を賑わすクリスマスイブというヤツだ。

 この日、俺達はみんなで集まってカラオケパーティーを開いていた。


 部屋に入ると既にメンバーが一通り歌い終えた所だったようだ。


「ユウト、遅いんですよ!」

「駆け付け一曲ね! 私が入れておいたぞ! 『さだ〇さし』で『防〇の歌』!」

「止めろ! いきなりそんなの歌ったら場が盛り下がるわ!」


 いや、いい歌なんだぞ。

 ただ、こういう場でノリノリで歌えるかっていうと・・・なあ? 


 ちなみになんでカラオケボックスになったかというと、何かの話の弾みでローゼマリー会長ことマリエ会長が、「今までに一度もカラオケに行ったことはありませんわ」と言い出したからだ。

 みんなでファミレスに入った事もなかったらしいし、どれだけお嬢様なんだよ。


「カラオケボックスは不良のたまり場だと思っていましたわ」


 真顔でそんな事を言い出すマリエ会長。

 カラオケ屋は昭和のゲーセンか。


「ならユウトは何を歌うんですよ? 『関〇宣言』?」

「何でお前らはそんなにまさし(・・・)押しなんだよ! 俺に普通に選ばせろ!」


 ちなみに会長はノリノリで『H〇y! S〇y! J〇MP』の新譜を歌っていた。

 ファンらしい。何だか意外だ。

 じゃあ俺もジャ〇ーズの曲を歌おうかな。




 カラオケを歌った後は、安い美味いのハンバーガーチェーン店で昼メシを食べてから、ショッピングモール巡りとなった。


 バルバラことルハラがフランクフルトを唇と舌でねぶりながら「どうだ? ユウト。興奮するか?」などと馬鹿な事を聞いて来る。

 お前は一体どこに向かっているんだ?

 そんなので興奮するのは、ムッツリスケベのクラリッサことリサくらいだぞ。


「す、スケベじゃないんですよ!」


 図星を刺されたリサが真っ赤になって怒鳴った。

 ただし前世と違って『平民ユウト!』とは続かないらしい。

 今はお前も平民だからな。


「どうしたんだい? ユウト」

「あ、いや。こうしていると、お前らって随分とこっちの世界を堪能しているな、って思ってな」


 会長達、悪役令嬢対策倶楽部のメンバー。

 みんながこっちの世界に転生して来たのは、なんと、俺と結婚するためだったらしいのだ。




 実はその話は最初に会ったファミレスで打ち明けられていた。

 どう思ったかって? メチャクチャ焦ったに決まってるだろ。


 会長達は、「国を救った俺が何も報われないのはおかしい」「せめて事情を知る自分達だけでも俺に尽くすべきだ」と考えたらしい。


「いや、尽くすってそんな。俺はそんな理由で戦った訳じゃないし」

「そんな事はありませんわ! 私達リンプトハルト王国の国民はユウトに返しきれない恩があるのです!」

「ユウトは命をかけて戦ってくれたのに、敵を倒した途端にハイサヨナラじゃ、あまりに酷いよね」

「アタシ達は恩知らずじゃないのですよ!」

「巻き込んだ責任がある」

「それだけユウトは立派だったんだ。自信を持て」


 自信を持てって言ったって・・・結局俺は巻き込まれただけだからな。

 巻き込んだ責任って言うなら、会長達じゃなくて王家の精霊が取るべきだろう。


「だから王家の精霊様も協力してくれたんじゃないか」

「あっ・・・そういう事か」


 コイツらが日本に転生する際には、王家の精霊は随分と無理をしたらしい。

 らしくない、とか思っていたが、アイツなりに俺に対して恩を返そうと頑張ったんだな。


「そ、それにしても会長達が俺と結婚をするなんて、そんな無茶な――」


 地位もお金も残して体一つで転生する以上、生涯を捧げて尽くす以外にない。


 会長達はそう覚悟を決めて転生に挑んだんだそうだ。

 その結果が俺との結婚だったのだが・・・


「そう。無茶だったんですわ・・・」

「まさか日本では重婚が犯罪だったなんて知らなかったんですよ」

「ユウトの国は全員平民と聞いていた。転生してしまえば身分の違いは無くなると思ったのに・・・」

「当てが外れた」

「そうだね。ウチらこれからどうしようか?」


 力無く顔を見合わせる会長達。


 俺はホッとしたような惜しい事をしたような、何とも言えない複雑な気分を味わっていた。

 エッダこと江田がパンと小さく手を叩いた。


「よし。切り替えよう。もう転生してしまった以上、今更やり直しは利かないからね。幸いこっちの世界では元の世界よりも婚期が遅い。急いで今、結論を出す必要はないんじゃないかな?」

「そう・・・ですわね。私達はまだ学生ですし」

「高校を卒業しても次は大学に行くんですよ?」

「そうやって考えると、元の世界の学問は随分と遅れていたんだな」

「ユウトが主席になったのも分かる」


 ディアナことアンナはそう言うが、あれはアルトが取った点で俺が取ったものではないからな。

 俺の自己ベストは学期末テストの8位が最高だったから。

 まあ、カッコ悪いから言わないけど。


 こうして彼女達は転生した最大の目的を失った。

 とはいえ、俺に尽くしたいという気持ちは本物らしく、今日みたいにみんなで集まってどこかに出かけたり、マメにSNSでメッセージをくれたりしている。


「いや、女の子同士だとどれも普通だけど?」

「ユウトは友達がいないんですよ?」


 マジかよ。クラリッサことリサにボッチ呼ばわりされる日が来るなんて。

 いや、男は毎日SNSでやり取りしたり、休みの度にみんなで遊びに行ったりとかしないだけだからな。

 俺にも友達くらいいるから。




 ハンバーガー屋から出ると、曇っていた空に晴れ間が覗いていた。


「雪が降ってホワイトクリスマス。なんて事になれば、ロマンチックだと思ったんだけどね」

「雪が積もったら電車が止まって帰れなくなるんですよ?」

「私のブーツは滑りやすくて」

「・・・君達はロマンの欠片も無いね」


 リサとルハラの塩対応に呆れる江田。

 みんなとショッピングモールに向かう途中、俺は以前から気になっていた事を会長に尋ねてみる事にした。


「マリエ会長。あっちの世界で俺に何か言いかけてましたよね」


 俺が王城に忍び込んだあの日。

 会長は俺に『この戦いが終わったらアルトに話したい事がありますの』と、言った。

 俺は『分かりました。戦いが終わったらどこかで時間を取りましょう』と、返事をしたが、あの戦いの直後に俺はあっちの世界を去ったので、結局、会長と話をする時間は取れなかったのだ。


 会長も思い出したのだろう。

 彼女は頬を赤く染めてあたふたと手を振った。


「あっ! あれはその、あの時と今では状況も違いますし!」


 いくら俺が馬鹿で鈍くても、彼女達が俺に向ける好意には流石に気が付いている。

 だからあの時、会長が何を言おうとしていたのか、今なら大体の見当は付くつもりだ。


 俺は小さく頷いた。


「そうですよね。俺達の関係も変わりました。急な変化で実は俺もまだちょっと戸惑ってます。でもいずれはそれを飲み込んで自分なりに結論を出すつもりです。少し待たせる事になってしまいますが、あの日の話の続きはその時って事でどうでしょうか?」


 会長は俺の言葉に最初はキョトンとしていたが、やがて理解してくれたのか、パッと花が咲くような笑みを浮かべた。

 そんな彼女の笑顔が眩し過ぎて、俺は顔が火照るのを抑えきれなかった。


「? 二人で何を話しているんですよ?」

「なっ、何でもありませんわ」


 真っ赤になって否定するマリエ会長。


 江田が雑貨店の店先の、エスニックなデザインのリボンを見て頷いた。


「そういえばコーランには、男性は四人まで妻を娶って良い、とあるらしいね。どうだろう、ウチら全員で改宗しようか?」

「その話詳しく」

「四人か。ならば私は愛人枠でもいいぞ。それに外国には一夫多妻制を認めている国もあるそうだ。将来はそれらの国に帰化するのもいいんじゃないか?」

「ななな何の話をしているんですよ?!」


 和気あいあいと? 会話に花を咲かせる美少女達。

 彼女達の華やかな美貌は否応なしに周囲の視線を惹き付けてしまう。


 偶然で選ばれた異世界転生。平民アルトに転生した俺が学園で出会った貴族の令嬢達。

 彼女達は異世界から転生して、こうして再び俺の前に全員が顔を合わせている。


 どんな偶然が重なればこんな奇跡が起きるんだろうな。


 これから俺達の関係がどうなるのかは分からない。

 俺は誰か一人を選ぶのか、あるいは改宗して全員と「ユウト?」ゲフンゲフン。


 それはともかく、一つだけ分かっている事がある。


 聖夜が奇跡の夜だとしても、こんな夢のような奇跡はもう二度と起きないんじゃないか? って事だ。




 悪役令嬢対策倶楽部~オレが助ける伯爵令嬢は未来の悪役令嬢


    ◇◇◇◇ 完 ◇◇◇◇

これでこの作品は終了となります。

最終章が思っていたよりも長くなったばかりか、後日談にまではみ出してしまい、中々終わらずにやきもきされた方もいたかもしれません。

どうもすみませんでした。


元々この作品は、拙作『マリーのお兄ちゃん』のリベンジで書き始めた物となります。

不人気のため一章だけで終わった『マリー』と違い、本作は最後まで書き上げる事が出来ました。

みなさんにも楽しんでもらえたなら幸いです。

あ。最後に評価お願いします。


多くの作品の中からこの作品を読んで頂き、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] カクヨムでレビュー書かせて貰ったのですがなろうでもあるようなのでこちらでも評価入れておきますね。 本編が仲良くなるまでのお話でお互いが意識しあう恋愛って意味ではだいぶ弱かったので後日談でその…
[一言] 一気読みしてしまう程、めちゃくちゃ良かったです! ありがとうございました!!
[良い点] 読了!完結お疲れ様でした(超いまさら) 正直悪役令嬢ものは結構読んだのでお腹いっぱい感があって当作にも手を出さずにいたのですがそれは間違いでしたね(苦笑)楽しませていただきました(^^)
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