その9 友達を増やそう
「昨日作った「目標用紙」を私なりに研究させてもらいましたわ」
ローゼマリー会長は手にした紙を俺達に見えるように掲げた。
というか、今日は「では本日の”悪役令嬢対策倶楽部”の活動を始めますわ!」から入らないんですね。
「アルトの意表をついてみました」
ドヤ顔を決めるローゼマリー会長。
可愛い顔ですね。でも、たいして意表も突かれていませんけど。まあいいや。
「問題は私達貴族学科の女子三人にあると思われます」
ローゼマリー会長の言葉に色めきたつクラリッサ。
「ローゼマリー! 平民アルトよりアタシ達の方に問題があるとはどういう事なのです?!」
「私達にはお友達がいませんわ」
背後にガーンという効果音を浮かべて白目になるクラリッサ。顔には縦線が入っている。
「孤独を愛す」
「それも立派な考え方です。でも私は昨日の一件で思い知らされました」
ローゼマリー会長は手にした紙を指さした。
「私一人だったら、こんな形で目標を決めようというアイデアは絶対に出ませんでした。これはアルトという人がこの倶楽部にいたからこそ出来たのです。私達一人一人では至らなくても、倶楽部のメンバーの力を集める事で、このような素晴らしいアイデアも生まれるのですわ!」
なんかベタ褒めされて顔が赤くなってきたわ。
ていうかそれ、元々は俺のアイデアじゃなくて、TVで見たうろ覚えの知識なんだけど。
なんだろうな、無性にこの場から逃げ出したくなってきたぞ。
話を促してとっととこの話題を先に進めてもらおう。
「ええと、それが友達の話につながるんですよね?」
「そうですわ」
「私達貴族学科の女子三人には、これといったお友達がいないという共通点があります」
イヤな共通点だなそれ。
「なので私はお友達を増やすべきなんじゃないかと思ったのですわ」
この考え自体は、昨日クラリッサの書いた提案の通りでもある。
その事に気が付いたのだろう。クラリッサがパッと嬉しそうな表情になる。
てか、元が美少女だからコイツの笑顔は破壊力ハンパねえな。
「な、何を恥ずかしい事を言っているのです! 馬鹿じゃないの?! この平民アルト!」
おっと、口に出してしまっていたらしい。というか、クラリッサにとって「平民アルト」は罵倒語なのか? そして馬鹿に馬鹿と言われる俺って一体。
話の内容に興味が持てないせいだろうか、ディアナは半分眠っているように見える。
俺はディアナの服をつまんでツンツンと引っ張った。
フルフルと揺れるたわわな果実。
ごっつぁんです。
「おい、寝るなよ。お前の事でもあるんだぞ」
「意味無し。興味無し。価値無し」
大前提として意味が無い。なぜなら興味が無いから。よって価値は無い。
おおう、見事な三段論法だ。
しかし、ちょっと待てよ。
「あの、ローゼマリー会長は少し前までは友達がいたんじゃないんですか? 確か自分から断ったとかいう話だったような・・・」
クラリッサがビックリした顔になってローゼマリー会長の方を見た。
いや、普通に考えて友達が一人もいないヤツの方が少数派なんじゃないか?
ましてやローゼマリー会長は伯爵家の令嬢だ。仲良くしたい人間なんて大勢いそうなもんだろうし。
ローゼマリー会長は少し言い辛そうにした。
「あの人達は・・・お友達とかそういう関係じゃありませんわ。それに彼女達は・・・」
ああ、そういえばローゼマリー会長の取り巻きは五年後には会長を裏切るんだったか。
俺は遅まきながら自分がうっかりこぼした一言でローゼマリー会長の傷口を抉ってしまった事に気が付いた。
「今は私達がローゼマリーの友達なのです! だから関係ないのですよ!」
クラリッサの裏表の無い無邪気な言葉に会長は小さくほほ笑んだ。
こういう時には考えずに喋れる馬鹿はホントに強いな。
俺はクラリッサに感謝した。
「ではどうやってお友達を増やせば良いんでしょうか?」
ローゼマリー会長の言葉に少女達は黙り込んでしまう。
「不明」
「それが分かれば苦労ないのです」
三人の少女がそろって俺の方を見た。
あー、やっぱそうなりますか。
「アルトはどうやって今のお友達とお友達になったんですの?」
お友達とお友達に、ね。変な言葉だが言いたいことは分かる。
でもそう言われても友達なんて何となくなるものだからな。
「俺の場合は寮の三人部屋で一緒だったからですかね? 一緒に生活しているうちに色々と遠慮が無くなったというか」
日本にいた頃はサッカー部の奴らが友達だったな。部活の無い日にもつるんで遊びに行ってたし。
まあ、あれも似たような理屈なんだろう。
俺の話を聞いて少し考えるローゼマリー会長。
「そうなのですか? 私は寮では一人部屋なので分かりませんわ」
「同意」
「というより貴族学科の寮はみんな一人部屋だと聞いたのです」
え? マジで? まあそりゃそうか。
貴族の子女を俺達平民みたいに狭い三人部屋なんかに突っ込むわけないわな。
「でもお友達と一緒に生活するのは楽しそうですわ。そうだ、丁度私達も三人いる事ですし三人部屋で生活いたしませんか?」
「どうでもいい」
「ローゼマリーと一緒のベッドで?! アタシ眠れるかしら?!」
ローゼマリー会長のアイデアに盛り上がる美少女三人。
あ、一人はそうでも無かったわ。
そしてクラリッサ、お前何を想像しているんだ? 俺達の平民寮では三人一緒のベッドで寝ているとでも思っているのか?
というか・・・
「というか、この三人で同じ部屋になっても友達は増えないから意味が無いんじゃないですか?」
俺の言葉に驚愕の表情を浮かべて固まる三人だった。
「そうでした。この三人が同じ部屋になってもお友達は増えませんわね」
しょんぼりとする三人。
あれっ、三人? ディアナもああ見えて案外乗り気だったのか?
「う~ん、同じ趣味を持つ者同士は、話が合って友達になり易いと思いますよ」
「それですわ! 同じ趣味・・・私の趣味は何なんでしょうか?」
俺に聞かないで欲しいよ、知らないし。
そしてクラリッサとディアナも俺の方を見てんじゃねえよ。
お前らの趣味を俺が知ってるわけないだろうに。
「アタシの趣味は・・・今は悪役令嬢対策倶楽部に来る事なのです!」
「はっ! それなら私もですわ!」
「・・・」
拳を握って力説するクラリッサと、クラリッサの意見に乗っかるローゼマリー会長。
「ならば私達と話が合うのは、”悪役令嬢対策倶楽部に来る事が趣味”な女子生徒!」
「おい、一周しちゃってるぞ、この話!」
友達を作ってこの倶楽部に入れようとしてるのに、この倶楽部に来る事が趣味のヤツと友達になるってどういう理屈だ。
「趣味っていうか・・・いや、趣味じゃなくても別にいいんですよ。要は話のきっかけですから。同じドラマ、え~と、小説? とか、好きなアーティスト、じゃない、音楽、何でもいいんですよ。ともかくその話題で盛り上がれさえすればそれでオッケーなんですから」
俺は眠そうな目でこっちを見ているディアナの方を向いた。
「例えばディアナだったら魔法が得意だろう? そっち方面で話をすれば?」
「魔法に関する議論は時間の無駄。百の言葉より一の実践」
おおう、なんつーか体育会系寄りな発言だな。意外だったわ。
「クラリッサは・・・お前何か得意な事とか無いのか?」
「自分の得意な事なんて分からないですよ。平民アルトはどう思っているのです?」
俺か? 俺の目から見たクラリッサの得意な事か。
「馬鹿なことか?」
「それをどうやって話のきっかけにするのですよ!」
スマン。それは俺にも分からないわ。
てか、ローゼマリー会長がワクワクしながら俺の方を見ているんだけど。
これってやっぱり会長にも何か言わなきゃいけないパターンなのか?
「え~と、会長が得意な事は・・・」
「私の得意な事は?」
若干食い気味にくるローゼマリー会長。
「・・・縦ロール?」
「酷いですわ!」
涙目になるローゼマリー会長。
いや、でも他の二人は「あー、やっぱり」って言ってますよ?
結局、この日はこの後も三人がアイデアを出し合い、とある作戦が完成した。
その名も「白馬の王子様作戦」。
作戦の決行は翌日。時間は放課後、場所は部室棟に近い貴族学科の校舎裏に決まった。
・・・これ俺もやるの? マジで気が乗らねえ~。