第4話どうやら世界がZ系!①
目を覚ますと、外は明かりを帯びていた。
どうやら、朝みたいだ。
……き、昨日は散々な目にあった。どんな目かといえば、僕みたいな子供が口に出すのも憚れるような、グロテスクで淫蕩なSERO基準なんてものが存在しないようなことだ。
まったく、この世界の青少年保護なんたらとかいうのは、どこにいったのやら。
「昴ちゃん。朝ごはんできたわよ~。起きているみたいだから、いらっしゃい♪」
そして、まるで何事もなかったような態度なのが、彼女達だ。いや、きっと彼女達からしたら、たいしたことは起こってないんだろう。僕は、こんなにも気にしているっていうのに!
まったく、憤慨ものだよ! こうなったら、素直に出て行ってやるもんか!
グウゥゥゥゥ~。
……けど、どうやら感情と体は別物らしい。昨日、あれだけ疲れることやったんだ。お腹も当然すくよね?
「はーい! 今、いくよ」
仕方ない、起きてやるとするか。
食卓へ着くと、Z系女子は3人ともそろいも揃って食卓へ着いていた。
しかも、エログロファンタジーの衣装で、平凡な和食がならんだ食卓へ普通に座っているのだ。違和感しかない。
和食だよ! WA・SYO・KU! ローマ字表記で考えてみても違和感しかない。朝食風景は凡庸なのに、その姿形で馴染んでいるもんだから、もはやギャグだよ、ギャグ。爆笑ものだよ。
「下僕は、何をボケっと立っているのですか? 目ざわりだから、お座りなさい」
そんな、如何にもファンタジー的なしゃべり方しているエイリだけど、その言動・服装で味噌汁を飲み、箸を器用に使うさまは、珍妙としか言いようがない。どう見てもギャグだよ、ギャグ。
「昴ちゃん、おはようございます。ごはんは、お茶碗一杯でいいかしら?」
そして、電子ジャーからご飯をつごうとする鬼娘。おそらく、朝食を作ったのもこの娘だ。……君、なんでそんなに現代機器に馴染んで、しかも使えんの?
確か、別世界の住人なんだよね? その服と角は飾りか? もう、突っ込みどころ多すぎて、やっぱりギャグだよ、ギャグ。
「……みんな、おはよう。華凛、ご飯は少なめでお願い」
色々言いたいけど、朝から疲れたくない。とりあえず、テーブルの椅子を引いて席にすわる。位置としては、正面がエイリで、斜め前が華凛。横にいるのがアリスだ。
……このアリス。こいつはこいつで、なんで教育の子供向け番組に夢中なんだよ。昨日の残虐性はどこ行った?
「アリスちゃん、テレビは見ていてもいいから、ご飯を食べながらにしてね?」
「……うん」
その返事と共にご飯を食べだしたのはいいけど、案の定というか、ご飯粒をぽろぽろとこぼすのだった。
まるで子供じゃん!
はあ、ホント色々言いたいことはあるけど、言葉としてでてこない。もう、ギャグ色強すぎだよ。
なんて思っていると、華凛があったかいごはんをもってきた。
「はーい、昴ちゃん。ごはんを持ってきましたよ」
食卓をよく眺めると、そこにならんでいるのは、うまそうなお味噌汁、煮物、鮭、納豆、ご飯だ。
それを見て、グゥとなるお腹。それを聞いて、眉をひそめるエイリ。笑顔を作る華凛。無視するアリス。
……こうなったらもう、食べるしかないな!
僕は、やけくそになってごはんを掻き込むのだった。
「ごちそうさま」
……ごはん、普通にうまかったな。はっきり言って、逃亡中の母ちゃんの飯より美味かった。
これ、和食だよ? どうなってんの? 君たち、なんだかファンタジー的存在なのか疑わしくなってきたわ。
「ところで、昴。あなたに伝えたいことがあります」
「あっ、エイリ、僕を名前で呼ぶの久しぶりだね。ゲームの中ぶりだよね? 恥ずかしがらずに、もっと名前で呼んでくれていいんだよ?」
僕の発言に、顔を赤くさせるエイリ。
あっ、怒った?
「黙りなさい。あまり調子にのっていると、後で凄惨な仕置きがまっていることでしょう」
こ、怖っ! 昨日のことを思い出すと、そんなにからかえないな……。
「はいはい、わかりまーした」
「……ほんとうにわかっているのですか? まあ、いい。下僕に付き合っていると、日が暮れるから無視するとして」
「ええ、扱い酷いな。もっとかまってくれていいんだよ?」
僕の発言に、彼女はピキッと目を強張らせた。……うん、黙っていよう。
「今から、重要なことを教えて差し上げますから、心して聞くことです!」
「う、うん」
エイリは、僕を指さして──
「いい、これから話すことは、変化した世界で下僕が生きていくために、重要なことになります」
「わ、わかったよ。ちゃんと聞くって」
「では、言いましょう。実は、世界の融合によって、世界だけでなく、下僕の体にも変化がおこっています。それも、他の人々とは違う、大きな変化」
──そんなことを力説してきた。
いやー、力説してくれたところ悪いけど、そんな言葉足らずなこと言われても、良くわからないよ。あと、人を指さすな。
「えーと、その言い方だと普通の人にも、何か変化が起こったみたいだけど? それに、僕はそれ以上なの?」
僕が、エイリの失礼な差し指をすいと除けると、彼女はそれを躱してさらにずいと指してきた。
「そう。世界の融合なんてことが起こったからには、其れ相応の変化が起こって当然ですよね? 具体的に言えば、融合によって双方の原理原則が混ざったと言えばいいでしょうか?」
つまりそれは、人に限らず、この世の神羅万象の普遍的だと思っていた原理原則に、変化が起こったということだろう。
「なら、普通の人も君たちみたいな特殊能力が使えるようになったのかな? 例えば、エイリの回復術だったりとか?」
彼女は、右手を頭付近に掲げ──
「さあ? それは確かめてみないとわかりませんけど、変化は確実にあった。私達がこちらで力を使うとき、抵抗が減ったのです。それに、向こうの教授たちも、そのような変化の予見をしていました」
──と、詳しくはわからないと説明をしてくれた。
……どうでもいいけど、彼女は身振り手振りを使って説明するのが好きだな。そこまでやるって、もしかして、人に説明するのが好きなんじゃないか? 偉そうにできるし。
それはまあ置いといて、能力を使いやすくなったということは、確実に変化があったんだろう。それに、教授なんて頭のいい人たちが言っていたのなら、本当にほんとうなんだと思う。
「そして、下僕には確実に、わかりやすい変化が起こったはず。それは、『ィクルウ』神より下された神託と奇跡により、明らかなこと。つまり、世界融合の実行の宣言と、それに付随した事前準備の処置」
「……?」
えーと、つまり、どういうこと?
「事前準備とは、『ィクルウ』神が独りよがりな契約として、双方の世界で行った互いの世界の事前体験のこと。事前体験は様々な方法がとられたが、具体的な例を出せば、ゲーム『ダーク オブ カース』ですね」
「えっ? あのゲームが事前準備なの?」
昨日の夜までは普通のゲームだと思ってたあれが、神によるものだって?
「そう。あれは、私たちの世界をゲームとして体験させ、かかる融合のさいの準備をさせる為のモノだったのです。下僕がゲームとして体験していた世界、あれは実際に向うにある世界」
「へーーーー!」
なるほどなあ~。CGにしてはやけにリアルな映像だと思っていたけど、実在世界の映像をそのまま流していたのなら納得だ。
「そして、ここからが重要。あのゲームをプレイしていたあなたには、『ィクルウ』神より恩恵とも呪い(カース)とも言える力が齎された」
「お、恩恵? 呪い(カース)?」
な、なんだか怖いこというなぁ。
「そう、それはつまり、下僕が彼方で使っていた力、『開闢の護符使い士(ルゥーティジ オブ カードマスター)』がそのまま備わっているということです」
「えっ?! カードマスターの力を使えるの?」
「ええ、使い方はわかるでしょう? 今、使ってみては?」
そういわれたら、なんだかドキドキしてきた。
あの、ゲームで使っていた力が実際に使えるんだ。これがドキドキしないでいられようか!
とりあえず、気合を入れるために、右手でガッツポーズだ!
「よ、よーし、使うよ」
「ええ、いいですよ」
今度は、右手で顔を隠すポーズ!
「使うよ!」
「ええ」
次は、人差し指を立てたポーズ!
「見ててよ!」
「わかりましたから」
今は、啓礼のポーズ!
「でわでわ!」
「……」
また、ガッツポーズ!
「行きます!」
「…」
ここで、追加の両手でガッツポーズだ!
「行くぞ!」
「さっさと使いなさい!!!!!!」
こ、怖っ。
さっさと使わない僕へ、大激怒のエイリ。
……いやだって、得体のしれない力をいざ使うとなると、なんか怖いじゃん。
「よ、よーし、今度こそホントに使うぞ。……『開闢せよ』!」
その言葉を合図に、僕の服の上から、ゲームで使っていた和装神官風のローブが生成されていた!
「ほら、やっぱり使えた。それで、使ってみてどうですか?」
「カッ」
「カ?」
「カッコイイーーーーーーーーーーーー!」
大歓喜する僕。
そして、それを呆れた面持ちでエイリは見てくるのだった。