第一話 まだショタ
TS、良いよね・・・。
こういう過去を背負った主人公、良いよね・・・。でも主人公は一人しか作れないしなぁ・・・。せや、英霊という形で主人公に憑依(?)する形なら、色々と妄想した主人公設定を詰め込めるやん!あ、しかも憑依する間は女の子に変身という設定にすれば、己の性癖も満たせる!しかも憑依する英霊を変えれば、主人公も別の姿に変身できる!なんかこう、フォームチェンジする女の子ってやっぱり良いよね・・・。
英霊ならやっぱりガチャだよな(ソシャゲ並感)。あ、ついでにヤンデレも登場させなきゃな(作者の性癖)。
と、色々と妄想していたらできた作品。
死を迎えた先にあるのは何だろうか。
もし、貴方たちにもう一度会えるようなところだったら、いいな。
僕は目を閉じ、力を抜いた。
致死量を超える出血を気合いでこらえて、戦い続けていたからだろうか。
それだけで僕は死を迎えた。
死を迎えた先にあったのは、全てを忘却させる奔流だった。
ただ圧倒的な奔流に呑まれ、自己を構成するあらゆるものが洗い流されていくような感覚。
不思議と忌避感はなかった。
忘れてはいけない。なくしてはいけないはずなのに。
抵抗する気力は湧かないし、さらに抵抗したとして、この圧倒的な奔流の前では心の抵抗なんて無駄なように思えた。
全て、忘れる。
この奔流は、きっと救いだった。
全てを忘れさせる。思い出すことなど二度とないように徹底的に洗い流すこの奔流は。
きっと、死を迎えた者に対する救いなのだろう。
だけど。
だけど、だ。
僕が忘れたら、誰がみんなを覚えていてくれるだろうか。
彼らの勇姿を。彼らの献身を。
あの戦場で生き残った味方などいなかった。命がけの、最後の防衛戦。
彼らがどれだけの恐怖と絶望を味わったのか。あの場にいた者たちだけが知っている。
それを退けて戦った彼らの勇気を、その尊さを。誰が遺してくれるのだろうか。
ああ、忘れてはいけないのだ。伝えなければいけない。遺さなければいけない。
だから、忘れられない。この奔流は、受け入れられない。
気合いを、入れる。心を、強く保つ。
あの時と同じように。心から溢れる想いを、叩きつける。
流されていく。
しかし、僕はその流れの中で大切な思い出を失うことはなかった。
決して手放してしまわないように。ただ強く心を保ち続けた。
そして。
僕は再び生まれた。
再び生を受けて、8年ほどが経過した。現在、僕は孤児院で生活をしている。
前世では僕は親に捨てられて孤児となったが、今世においてはそもそも親が存在していなかった。
僕は違法な実験を行う科学者が生み出した、人造人間、いわゆる遺伝子を意図的に操作されたり、特殊な細胞を植え付けられたりしたデザインベビーであるらしい。そんなに酷い扱いはされていなかったが、ある日科学者の研究所に警察の人がやってきて、僕は彼らに保護されることになった。
仲良くやっていた同じ人造人間の兄弟たちと同じ孤児院に送られることになったのは、幸いなことだっただろうか。前世の記憶がある僕にとって彼らは自分の子どものようなもので、そのように接していた。彼らにもしっかりとした親がいなかったため、彼らの求めるものを満たすことができたのか、彼らには好かれているかは別にして、信頼はされている気がする。
さて、今世においては、僕は生まれた当初は前世での経験、共に戦い抜いた戦友たちの物語を普及しようと画策していたが、非常に想定外なことが起きた。
この世界では、既に戦友たちはかなりの有名人となっていた。いや、正しくはあの戦争での出来事が、物語として有名になっていたのだ。しかも恐ろしいことに、主人公は僕。
それは小説を原作として、映画化などを通して不朽の名作として世界的に知られている。
ノンフィクションの物語として。
一体どういうことだと、最初は大いに戸惑った。テレビを見ていた最中に、最も尊敬できる偉人ランキング1位で前世の僕の名前を見た時の衝撃は忘れられない。
調べて見たところ、この世界ではあらゆる世界の尋常ならざる力を持った偉人の力を召喚する技術があるらしい。そしてそこで前世の僕の力が召喚され、その果てで僕の生涯の経歴を視て、僕の想いを知った召喚者さんは、戦友たちの勇姿を広めるために、そして僕そのものに大きな尊敬の念を抱いて小説を書き上げたらしい。
尋常ならざる力を持った偉人、通称英霊の召喚技術はここ20年ほどで広まった技術なので、異世界の英雄のノンフィクションの物語という真新しさのせいか、その物語は爆発的な人気を獲得した。
つまり、僕の今世の目的は努力するまでもなく既に達成済みであり、僕は今世でどのように生きるか大いに悩んだ。
ただ自己の幸せを目指して生きるには、僕は戦争の中であまりにも多くの命を奪いすぎた。
それは母国からすれば良いことであっただろうし、戦争では仕方ないという見方もあるかもしれない。
でも、敵であった軍人さんたちにも、帰りを待つ家族がいたのだ。
戦争の最中、防衛を固める際に、死体を片付けている時に僕は見てしまった。
死体となった敵の軍人さんの胸元にあった、ペンダントに仕込まれた家族の写真を。
写真に写った奥さんやその子どもは笑顔で、目の前に死体として転がる彼は、そんな二人を見守るように穏やかな笑みを浮かべていた。
彼は、僕が頭部を撃ち抜いたのだ。
僕が、彼の幸せな未来を奪ったのだ。
僕は戦友たちの勇姿を伝えたかった。しかし冷静に己の生涯を振り返ると、戦友だけではない、己が忘れてはいけない罪科も存在したのだ。
そんなことを忘れていた自分に、僕は猛烈に腹が立った。
そうした反省も踏まえて、僕は誰かの役に立つことがしたかった。
誰かを殺して誰かを護るような、幸せという名のパイの奪い合いではない。
純粋に、誰も不幸にさせず、誰かを幸せにしたかった。
正直、どうすればそれができるのかは、まだ分からない。だから今はただ勉学に励み、見聞を広げるのが良いと思う。だから僕はこの世界の社会について積極的に学ぶことにした。
ついでに、同じ人造人間の兄弟たちの良き隣人であるために、僕は教育に関して学ぶことにした。
今世は前世の世界より大きく学問が発達しているので、より兄弟たちのためになる様々な理論を学ぶことができた。前世でも義務教育を通していくらか学を身につけていた僕だが、前世の技術水準は今世における第二次世界大戦期ほどのものであったため、基本的なことはともかくとして、役に立たないことは多い。故に、今世においても学ぶべきことは数多にある。
「にいちゃん、にいちゃん!」
「うん?どうしたんだい、サツキ」
勢いを付けて抱きついてきたサツキを受け止める。彼女は僕たち人造人間の兄弟の中でも二番目に幼い、まだ5歳ほどの女の子だ。しかしながらその能力は非常に優秀であり、兄弟の中でも群を抜いて身体能力や学習面の能力など、ほぼ全ての能力で常人離れした優秀さをほこっている。
基本的に兄弟たちはみな、かなり優れた能力を持っている。あの科学者がどういう意図を持って人造人間を作っていったのかは分からないが、それでも彼らの優秀さを実感すると、なんとなくそのコンセプトが見えてくる。
「うへへ、にいちゃん・・・」
サツキは、甘えん坊だ。僕は基本的に兄弟たちに関しては、甘やかすところは少々あるが、基本的に口うるさく注意して、厳しい態度をもって彼らの面倒を見てきた。
そのせいか反抗心の多い次男などにはかなり嫌われているが、サツキはなぜかそれでも僕を好いてくれている。
僕たち兄弟は基本的に、孤児院の他の子どもたちより様々な面で大きく優れているせいか、少々問題が起きやすい。他の子どもを見下したり、その力を暴力的にふるって我が儘を通したりなど、なまじ大人より筋力が優れており、機敏さも尋常ではないという一面もあるせいか、職員さんたちも兄弟たちをしっかりと叱りつけることができていない。
だから、他の兄弟たち、特に男の子たちは結構暴力的な一面が出ており、女の子は若干他の子たちを見下しがちという傾向があるが、サツキはその中でも随分と不思議な気質をしている。
ぽやんとしていて、マイペースなところがある反面、兄弟の中で一番精神的に成熟しているように思える。
彼女は他人を傷つけるようなことはしない。毎日のように様々な問題を起こす兄弟の中で、サツキは唯一他の孤児院の子と普通の交友関係を築けている。他にも、時折サツキは驚くほど落ち着いた冷静な一面を見せることがあり、その観察眼は物事の本質を視る目を持っている気がする。
それなのに彼女はひどく甘えたがりだ。ちぐはぐという感じだろうか、実に不思議な子だと思う。
「んー・・・」
ごろごろと、抱きついてすりすりしてくるサツキを見ていると、前世で座って本を読んでいると膝の上に乗ってきた猫のことを思い出す。
その思い出に沿うようにサツキの頭を撫でると、彼女は嬉しそうな声をあげた。
ああ。実に平和な毎日だ。
サツキにとって、この日々は幸福だろうか。それならば、こんな毎日がずっと続けばいいと思う。
暴れ出した兄弟を止めて欲しいと駆け込んできた職員さんの顔を見て、戦争はなくても争いは絶えないなぁと、思わず苦笑をこぼしてしまう。
行ってくるから、少し待っててね。サツキ。そう言って僕は立ち上がる。
「むぅ・・・」
僕は職員さんに手を引かれて、足早にこの場を去る。しかし背後から、どこか不満げなサツキの声が聞こえて、少し申し訳なく思った。
ふと。ちらりと見たな職員さんは、なぜかとても恐ろしいものに睨まれた小動物のように、脅えた様子で顔を青白くさせていた。
しかし。
平穏な日常は、唐突に終わりを迎えた。
ある日、僕が図書館で学習に励んでいた時。
唐突に、近くで本を整理していた司書さんの首から上が、消失した。
「え・・・?」
パシャリと、頭を失った首から、噴水のように血が放出される。
どこか 嗅 ぎ慣れていて、しかし最近忘れていた血の香り。放たれた血流は、周囲の本や床を赤に染めた。
ぬちゃり、ぬちゃ りと、粘液が粘るような音がした。
それは、司書さんの近くに立っていて、もぐもぐと口のような器官を動かし、今新たに口に入れたものを味わっていた。
なんだ、この化け物は。
黒い、粘液のような不定な存在。しかしその流体の中に浮かぶように、口のようなものがうごめき、目のような丸いものが浮いていた。
それを視認した次の瞬間、それは俊敏な動きで口のような器官を広げて、司書さんの残りの体を呑み込んだ。
ぶ、しゅっ と。何かに詰まった水が、弾けるような音。ぼき、ぼ き と、硬い何かが折られ、 咀嚼 されるような音。
『お前が退かないのは分かっている。だけど俺は。俺はっ・・・!お前に、生きていて欲しい・・・っ』
かつて言われた、戦友の言葉を思い出した。そして、僕の帰るべき場所を思い出す。
自然と、僕は駆けだした。
かつての僕なら、おそらくあの化け物と戦っただろう。あれは危険だ。放置すれば、もっと被害者が出るかもしれない。でも、それは助かる見込みのない危険な賭けだ。あの粘液は、粘液であるが故に、一切の武器を持っていない現状では有効打を与えられないと予想できる。
ねえ、みんなは僕が生きていて欲しいと、思ってくれるかな?
そうだといいな。苦笑して、僕は心に灯を灯す。
化け物がいると、周囲の図書館利用者に聞こえるように叫ぶ。予想はしていたが、声に反応して司書さんの遺骸を貪っている化け物が僕を見る。その視線に久しぶりの死の気配を感じつつ、僕はとにかく走る。
しかし、本棚が並ぶ場所を抜け、周囲を見渡せる広い場所に出ると、そこには絶望的な光景が広がっていた。
図書館はいくつか死体が転がっており、不定の化け物がそこら中で死体を貪っている。
こいつらは単独の化け物ではなく、群れであった。
「・・・っ!」
僕はただ図書館の出口を目掛けて走る。幸いなこと、いや、これを幸いなことと思いたくもないのだが、化け物たちは食事に夢中であり、僕を追いかけてくる存在はいなかった。
図書館を出ると、おぞましい光景がそこにあった。
不定の化け物に襲われる人々。そして、天高くそびえ立つ黒い塔。
まさか、あれは。
「ダンジョン・・・?」
ダンジョン。それは、英霊の召喚術と同時にこの世界にもたらされた、一種の厄災であり、資源地帯であり、そして異世界への入り口である場所。
このダンジョンに人が初めて足を踏みいれると、英霊の召喚術を行使できる召喚石を入手することができる。その原理は不明であり、現在もただそういうことであるという事実しか分かっていない。
ダンジョンが現れるのは、唐突な出来事であり、場所も時間も、見境なくランダムに誕生する。そして、ダンジョンの内部には恐ろしい怪物がいる。しかしこの怪物はダンジョンから出てくることはない。ならばこの不定の怪物たちは一体どういうことなのか。
考えられるのは、ダンジョンの中にある異世界との入り口。ダンジョンの内部には異世界に繋がる場所あり、その大抵は人類やその他様々な生物が住んでいる世界がある。僕の前世の世界に繋がるダンジョンもあるらしいということも、調べてみたら分かった。
では、ダンジョンで繋がった異世界の、人類に敵対的な生物がダンジョンを通してこの世界に侵攻してきたら?
その答えが、今の目の前の光景なのかもしれない。
どうする。時間さえ経てば、軍やダンジョン探索者などの戦力がこの化け物たちを殲滅してくれるだろう。
だがその間、この町の人々の平和は誰が守ってくれるのか。あの化け物たちがここから近くにある孤児院に向かわないと、一体誰が保証してくれるのか。
ああ、これは。前世と同じだ。
『君が立ち向かう必要はない!確かにここの町は占領され、かの国の邪悪な統治下に置かれ、住民は不幸になるだろう。だが、だが・・・っ、君が命を賭して敵軍を食い止める必要が一体どこにある!?戦争はもう終わるんだっ、これは戦勝国同士の利権争いだ。確かに君がここで敵軍を食い止められれば、多少マシな連邦がこの地を統治するだろう・・・。しかし第一、不可能だっ!こんな少ない戦力で一体何ができる!君が戦う必要はないっ!!』
ふと、前世の上官さんに言われた言葉を思い出した。
そうだ、上官さんの言葉は正しかった。僕は結局戦うことを選び、そして戦友たちを喪い、しまいには僕自身の命すらなくした。
僕が戦うと決めたから、戦友たちはあの戦場に残ってくれたのだ。僕が、殺したようなものだ。
前世の僕をこの世界では最高の英雄ともてはやしているが、そんなものは間違いだ。
僕は戦いが怖い。誰かを喪うのが怖い。敵の軍人さんも、殺すことはできれば避けたい。どうしようもない臆病者で、味方を死線に引きずり込んだ大馬鹿野郎だ。
でも。
でもっ。
僕は、護りたかったのだ。僕が育った故郷の町を、共に過ごした孤児院の仲間たちを。
この想いだけは、間違いではない。仕方がないと、困ったように笑う戦友たちは否定をしなかったのだから。
『ああ。そんなお前にこそ、俺たちは救われてきたんだ』
『お前のそういうところが、俺たちは大好きなんだろうな』
戦友たちが大好きといってくれたこの想いは、喪いたくない。
きっと逃げに徹すれば、僕の人造人間としてのスペックの高さも相まって、生き残ることは可能だろう。でも、違う。違うのだ。
策はある。ただし、これは賭けだ。確証など何もない。もしかしたら無駄死に終わるかもしれない愚策。
だけど。
だけど、この胸にある想いには、決して背けないから。
思いっきり、地面を蹴る。ただ真っ直ぐに、黒い塔、ダンジョンへ向かって走る。
ダンジョンへ初めて入った人には、英霊の召喚術を行使できる召喚石が与えられる。英霊を召喚することができる人物は、おおよそ10人に1人ほど。さらにそれと同じくらいの確率で、こちらの場合は適正関係なく、何かしらの特別な力を持った道具を召喚することができるらしい。
つまり、策は単純明快。ダンジョンに入って得た召喚石で、この化け物に対抗するための道具を手に入れるか、英霊の力を借りる。
ひたすらにダンジョンを目指して走る。最初は、不定の化け物たちは他の人を襲うことに夢中になっており、こちらを気にする化け物はあまりいなかった。しかし、化け物たちはおそらくダンジョンから湧いてきているので、ダンジョンに近づくほど周りは死体だらけで、僕を狙う化け物たちが増える。
僕は飛びかかってくる化け物を、身をかがめて躱す。化け物たちは、素早い。バッディングセンターで見た、140キロのボールのごときスピードで飛びかかってきている。
どうして躱せるのか。これは単純に僕の体の運動能力がかなり優れているからと、純粋な集中力の問題だろう。どちらかが欠けていれば、間違いなく僕はすぐさま化け物たちの餌となっていた。
躱す、躱す、躱す。
身をかがめて。化け物を飛び越えて。変則的なステップを用いて。
集中力が高まる。ああ。あの最期の戦いの時と同じだ。時がゆっくり流れるような、そんな感覚。
化け物の力は強い。おそらくかすっただけで、ダンジョンにたどり着くのが不可能になる重傷を負うだろう。
だから、それを活かせる。
僕の体は軽い。だからこそ、その化け物が振るった腕などの風圧を、己の推進力とすることができる。
極限まで、相手を引きつけて躱す。その相手の勢いすら利用して、ダンジョンへ駆ける。
躱して、躱して、躱して、ダンジョンまでおおよそ後100メートル。近づくほどに化け物たちの密度は増し、物理的に躱す道が潰されていく。化け物一体一体が2メートルほどの身長を持っている。数が多くなればなるほど、躱す道そのものが塞がれてしまう。
でもまあ。
なんとなく、相手の動きは既に理解できるようになってきた。
だから、誘導する。視界を埋め尽くす量になってきた化け物の群れを、一つ一つの動作をもって揺さぶり、自分の退路が塞がれてしまわないようにコントロールする。
この化け物たちは複雑な思考など持っていないように推測できる。動きそのものは、獲物に対して一直線に向かい、捕食しようとするだけ。同胞同士で連携しようという意思は見られない。むしろ、競うように互いを押しのけ合い、僕を一番に食べようとしている。
だから、誘導すれば同族同士で妨害し合うように仕向けることができる。
さらに、予測を深める。
化け物たちはおおよそあの不定の体に浮いている目玉をもって、獲物を視認していると思われる。だからこそ、あまりにも化け物同士が密集しすぎているこの状況において、その大半の化け物たちは僕がいる場所を正確に把握していない。だからこそ彼らはおそらく、僕がいると思われる場所に適当に突撃しているのが大半だと思われる。
ではどのようにして僕がいる場所を推測しているのか。それはおそらく、他の化け物が僕を捕まえようとしている動作を確認して、そこに突撃しているのだ。
だからこの適当な突撃は、 攪乱に十分に利用できる。
僕を正確に視認していないで突撃しているのなら、その精度は非常に甘く、実に躱しやすい。
飛びかかってくるいくつもの無数の粘液を躱して、躱して、躱しまくる。そしてその間にも、ダンジョンへ向かって走り続けることは止めない。
飛びかかってくる敵の回避ルートを構築する。回避ルートによって僕がどれだけの敵に視認されるかを予測。そして自身を視認した敵の精度の高い飛びかかりの軌道。自身を認識していない敵の精度の低い突撃の軌道。それらを算出し、僕を視認していない敵の軌道ができるだけ僕を視認した敵の軌道を妨害するようなルートを、そのための行動を導き出す。
直感と極度の集中力をもって、それは0.1秒もかからずに完了された。
「・・・・・・!!」
躱す躱す躱す躱す躱す。
残り、30メートル。
化け物たちの密度はさらに増し、もはやそれに隙間はない。波のように押し寄せてくる。普通に躱すだけでは、かいくぐる道すら生まれない。
だから、もっと集中する。
時がよりゆっくりと流れる。より思考が、直感が、冴え渡る。
化け物たちは、基本的に同士討ちを気遣うような知能は持っていない。
だから、この化け物たちの波に風穴を開けるのは、化け物たちを利用すればいい。
化け物が振るった腕の軌跡が、隣にいた化け物の不定の体を抉る。
僕は振るわれた腕を最小限の動きで躱し、抉られたことによってできた隙間に体を滑り込ませる。
そうすると他の化け物たちが次々と僕に飛びかかってくる。それらを紙一重の距離ですれ違うように躱し、僕はその突撃の軌跡をなぞるように道を駆ける。
道は全て、化け物たちが僕に対して仕掛けた攻撃の軌跡そのものにしかない。
もしこの化け物たちががむしゃらな攻撃を止め、囲んでじりじりと距離を詰めてくるようなら、僕は即座に死んでいただろう。ああ。この化け物たちにそういった戦術的発想がなくて良かった。
残り10メートル。
既にもう、眼前に空いた空間はない。躱したくても、躱すことのできる空間がないのだ。もはや、躱しながらダンジョンに入ることは不可能だろう。
だから僕は、跳ぶ。
それに対して、化け物は腕を振るった。空中に飛び上がった僕に、それを回避する術はない。
でも、その攻撃が完全に僕に直撃することはなかった。腕の距離がぎりぎり足りていないからこそ、完全に捉えることはできなかった。その腕の長さと自分の跳躍した位置の関係は予め計算済みであり、捉え損ねるまでは計算通りだった。
僕は腕をクロスして、その不完全な攻撃から身を守っていたが、それでも腕の骨が明らかに折れていた。しかし、死ななければ問題ない。捉え損ねたが故に、僕の体は野球のフライのように飛び上がる。化け物の力強さもあり、僕は迷宮の入り口まで真っ直ぐに飛ばされる。
上から見ると、もはや足の踏み場がないほどに化け物たちが満ちあふれていた。ほぼ確実に、召喚術で良いものを召喚できなければ僕は脱出できずに死んでしまうだろう。
ああ。それ以前に召喚術そのものが、時間がかかってしまうものだとしても、僕の命は散る。どうしようもない、完全なる運頼みの賭け。
僕はそのまま飛翔を続け、黒い塔の門を通り過ぎた。
光が、僕の腕の中に虹色の石が現れる。
これが、召喚石。
使い方は、なぜか自然とこういうものだと理解した。ただ念じれば、召喚術は行使されるだろう。
体が、落ちていく。ダンジョンの内部も相変わらず床が見えないほどの化け物たちがいる。推進力を失って落ちてくる僕を見て、今か今かとそのおぞましい口を広げ、僕が落ちてくるのを待っている。
ああ。お願いします。
どうか。
どうか僕に。
みんなを護れる力を。
虹色の光がはじけた。
【かつて、凄まじい力と才を秘めた心なき少女がいた】
【少女は心優しき者との触れ合いを経て、己を手に入れる】
【されど心優しき者は、少女の自由と引き替えにその命を失った】
【遺された少女は一人、孤独に荒野の道を征く】
【ただ一つ、心優しき者が少女に遺した温もりを胸に】
何もない白い空間。
目の前に、少女がいた。
少女が僕に手を伸ばす。
少女の手が僕の頬に触れたとき。
膨大な力の奔流が、僕を呑み込んだ。
青い光芒が、はじけた。
黒い塔のダンジョンに一人、青い光を纏った美しい少女が舞い降りる。
少女が手をかざし、その力を解き放つと。
爆音。
そして数秒後、周囲にいた不定の化け物たちは、跡形もなく消滅していた。
「・・・・・・」
ふと、青い燐光を残して少女の姿が消える。
町の上空へ。少女は一瞬で移動していた。
少女が手を振り上げると、その手に眩い青い光が集った。
少女がその手を振下ろすと。
この惨劇はこの一撃をもって終結した。
第一次インヴェイシブ・スライム侵攻事件。この事件の際、惨劇の地となったこの町に、青き流星が降り注いだ。
流星はこの町に現れた人類に敵対的な異世界生物を全て消滅させ、この町の危機を救った。
それを成した人物の名は、キサラギ。
この事件は後に最高にして最強の英傑と呼ばれる人物が、初めて歴史の表舞台に現れた事件である。
基本不定期更新。ただ、作者はいたって普通の俗な人間であるので、何かしらの感想をもらったりすれば更新が早まるかもしれないというのは否定できない事実である。個人的には評価よりも己の性癖を語りたいがための投稿なので、感想、もしくはこういったジャンルの作品に対する熱い想いを聞かせてくれるととても嬉しいです。