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第7話 シルヴィと勇者召喚。

お読み頂き有り難う御座います。


第7話です。

『おねがい!まってぇ~!』


走り出した馬車の後ろを走って追いかけているのは、町の食堂で見掛けたフィールドランサーだった。


サーニャ:『必死に追いかけてますよ?』


アレッタ:『恥ずかしいわね・・・。』


うん恥ずかしい。


確かに恥ずかしい。


あんな派手な鎧を着て槍を持って全力疾走。


おっぱいなんかバインバインに揺らし・・・いや、あんな鎧をガッシャンガッシャン言わせて馬車追っかけるとか、絶対恥ずかしい。


可哀想なので馭者のおじさんに知らせると親切に停めてくれた。


女:『はぁ、はぁ、ありが・・・とう、ござい、ますぅ。』


見た目は清楚なお嬢様風の顔立ちなのに、派手な装飾の鎧を着て長い槍を持つという残念・・・いやミスマッチな感じの人だ。


しっかしこの鎧、こんなに胸元開いてて意味あんのか?


見せたいの?


ねぇ乳見せたいの!?


女:『乗れて良かったぁぁぁ。』


見た目とは裏腹に、いわゆるドジっ子属性な人らしい。


サーニャ:『の、乗れて良かったですね・・・。』


女:『はひぃ~、レイゼランドの団体クエストの募集に間に合わない所でしたぁ。』


アレッタ:『団体クエスト?』


女:『えぇ、レイゼランドの北にワイバーンが出たとの事で、ギルドから風魔法の使い手を募集してるそうなんです。正直所持金もピンチなんで、どうしても受けたくて。』


セイト:『へぇ、それは知らなかったなぁ。』


メルティ:『あれ?その募集って先週じゃ無かったでしたっけ?』


・・・えっ?


女:『・・・えっ?えっ?ま、まさか・・・募集・・・終わって・・・る!?』


彼女の顔色がみるみる青くなって行く。


セイト:『ん~まぁ行ってみないと何とも言えないけど・・・ねぇ。』


女:『ですよね!ですよね!!』


おいおい涙目だよ・・・大丈夫か?この人・・・。


女:『あっ!申し遅れました!私、シルヴィ・ランブレッダと申します。』


アレッタ:『ん?ランブレッダ?どっかで聞いた事ある様な家名だなぁ・・・。』


メルティ:『ランブレッダ・・・確か西大陸でかつて勇者召喚をした国の名がそんな名前だった気がしますけど。』


アレッタ:『あっ!それだ!どっかで聞いた事あると思ったのよねぇ。』


シルヴィ:『はい・・・私はかつて西大陸にあったランブレッダ共和国の王族の子孫です。私の先祖は国が滅んだ後に周辺国家からの追っ手から逃れる為に、この中央大陸に移り住んだと聞いています。』


セイト:『勇者召喚までした国が滅ぼされたんですか?』


シルヴィ:『これはお祖父様から聞いた話なんですけど、ランブレッダが勇者召喚をした時に予想しなかった事態が起きたそうなんです。』


勇者召喚は魔王や魔族達の暴走による世界の危機に対応する為の最終手段として行われる。


他の世界から召喚された人間には、此方の世界の人間とは比較にならないほどの能力と恩恵が神から与えられ、ある意味その者だけで世界を手に入れられるほどの力が宿る。


当時世界では、魔族の異常な繁殖と人族の社会へ侵攻して来る勢力の増加から、勇者召喚を検討する国家が多かった。


だが勇者召喚はとても条件が厳しくリスクが高い。


条件は三つ。


1.15才未満の処女の女性魔法使い10人で儀式を行う。


2.王族の姫1人の寿命の3割を対価として支払う。


3.10日間一時も休まずに召喚魔方陣に魔力を送り続ける事。


そこまでしても成功率は約1割である上に、召喚に成功したとしても勇者を元の世界に送還させる魔法が存在しないのだ。


さらに勇者に対しては従属の呪縛魔法が効かない為に、召喚した勇者による自発的な協力を得なければならない。


これらの事情から勇者召喚を行う国家は殆ど無く、その大陸内で勇者召喚が成功した国があると、近隣諸国が勇者を自国へ引き込もうと様々な行動を起こす。


当時西大陸ではランブレッダ共和国の南の隣国である軍治国家【バルーム帝国】によって、勇者が買収された挙げ句にその買収された勇者の手によってランブレッダが滅ぼされたという痛ましい出来事があった。


そう、この世界における勇者は絶対なる正義では無い。


日本のファンタジー作品で馴れ親しんでいる勇者とは、定義そのものが違う。


つまり勇者は最強の戦士であり、最も扱いの難しい傭兵でもある。


勇者とは自身の意思と価値観でその力を行使する存在なのだ。


勇者はその後魔族達を制圧したが、その力を使って上位魔族達を取り込み世界征服を目論んだらしい。


自らが新たな魔王を名乗り、西大陸全土を征服しかけたその時、東大陸のある国によって新たな勇者が召喚され、その東の勇者の手によって西の勇者は滅ぼされた。


ランブレッダ共和国の王族は、バルーム帝国からの攻撃が激化した際に、当時友好条約を結んでいた北の隣国【メシャーデン王国】へ逃れた。


更に幾つかの国を渡り歩き、海を渡って中央大陸へ逃れたのだそうだ。


その後も召喚した勇者が倒されるまでの間は身を隠していたらしい。


無理ゲー・・・。


あの神様も随分と酷い試練を与えたものだな・・・。


てか勇者が自己顕示欲の塊だとかどうなんだよ?


メルティもそういう事教えてくれれば良いのに!


シルヴィ:『そんな過去もあってか、2代前の当主がようやくランブレッダ家の紋章を復活させたのです。』


アレッタ:『王家からは紋章の使用許可は得てるの?いくら旧王族とはいえ、この国で紋章を使うには国王から直々に許可を頂かなくては駄目なのよ?』


シルヴィ:『曾祖父の代から許可を頂いています。ただし過去の問題があるので、爵位付きの貴族としての処遇は出来ないとの事で家名付きの上氏となりました。』


上氏とは末端貴族の一つで、小さな村一つ程度の領地を持つ事が許された準男爵より下の貧乏貴族だ。


家名持ちは上氏の中でも上位に位置するが、領地は自宅を含む土地が少しばかりな為に牧場主になる事が多い。


男爵家預りの貴族ではあるが、将来的な昇格を放棄する事を条件に許された貴族階級である。


戦時下で国民を残して逃亡した王族という事もあってこの様な形に落ち着いたのだろうが、旧ランブレッダ領の子孫達はこの処遇ですら納得はしないだろう。


その出来事を後の世代まで言い伝えるだろし、国民の怒りというものはそう簡単に消えるものでは無い。


セイト:『それでシルヴィさんは冒険者で生計を立てているんですか?』


シルヴィ:『はい、うちには兄と弟もおりますからね。この前やっとシルバーに昇格したばかりなんです。だからやっと臨時パーティーの大きなクエストに参加出来るんですよ。』


セイト:『そうなんですねぇ・・・。あっ!僕はセイトって言います。レイゼランドのブロンズの冒険者です。』


メルティ:『私はメルティと言います。セイト様と同じくブロンズの冒険者です。』


アレッタ:『私はアレッタよ。私はあんたと同じシルバーよ。』


シルヴィ:『宜しくお願いします。私は体力しか取り柄が無いので、フィールドランサーをやっていますけど。』


メルティ:『でも風魔法が使えるんですよね?もしかして家系ですか?』


シルヴィ:『はい、我が家は代々風の聖霊様に加護を受けているみたいです。メルティさんは魔法使いですか?』


メルティ:『魔法使いですが、回復系の魔法も使えますよ。属性は光と水と風ですね。』


シルヴィ:『それって支援系の鉄板じゃないですか!?色んなパーティーが欲しがりますよ!』


アレッタ:『そんな事言ったらセイトなんかもっと凄いわよ?ねぇ?』


あれっ?僕アレッタに全属性って話したっけ?


シルヴィ:『えっ!?そんなに凄いんですか!?』


アレッタ:『なんたってセイトはファイアボール1発で岩山を吹き飛ばせちゃうんだから!ね?メルティ!』


あぁ・・・確かにメルティがそんな事言ってたっけ・・・。


メルティ:『セイト様は魔力の純度が高くて、詠唱無しに撃てますからね。』


そこ!?


シルヴィ:『えっ!?ファイアボールって、火炎系の初級魔法ですよね!?1発で岩山を吹き飛ばせるんですか!?』


メルティ:『魔法の力は魔力の純度と流れ、そしてその人の魔力の量によって大きく変化するのは知っていますよね?ファイアボールの様な簡単な魔法でも使う人によって威力が違うのはその為で、セイト様の魔力量と純度はまさに勇者レベルという事になります。』


シルヴィ:『でしょうねぇ・・・。賢者の方でもそこまで強力な魔法は使えないと思います。』


あれ?シルヴィさんは何の疑問も無く受け止めた!?


サーニャ:『凄いですね、私は聖霊様の加護を受けられなかったみたいです。』


メルティ:『サーニャさんぐらいの年齢だと、魔法適性自体がまだハッキリしない事が多いですね。いずれ何らかの形で魔力の流れを感じると思いますよ?』


サーニャ:『えっ!?私でも魔法が使える様になるんですか?』


アレッタ:『その可能性は高いわね。』


セイト:『焦る事は無いさ。サーニャはもっと大きくなってからでも遅く無いんだから。』


サーニャ:『・・・はい。』


その後夕方にはレイゼランドに到着した。


シルヴィとギルドの前で別れ、サーニャを姉が働いているという花屋へ送って行った。


サーニャ:『お姉ちゃん!』


女性が振り向くと、驚いた顔で走り寄って来た。


女:『サーニャ!どうしてここに!?』


サーニャ:『最近お父さんが死んじゃったの・・・。私どうして良いか分かんなくて・・・でも、この人達が私をここまで連れて来てくれたんだよ。』


女:『そんな・・・お父さんが!?』


セイト:『サーニャ、お姉さんに会えて良かったな。』


女:『妹が大変お世話になりました。私はサーニャの姉のセリアと申します。』


セイト:『俺は冒険者のセイトと言います。こっちはメルティとアレッタです。


メルティ:『はじめまして。』


アレッタ:『アレッタよ。』


セリア:『妹とはどこで?』


セイト:『定期馬車の中継地になってるルーサルです。サーニャちゃんが暮らしてた町ですよね?』


セリア:『そうです。父はその町で花屋を経営していました。一月ほど前に体調があまり良く無いと連絡は受けてたんですが、まさかこんな事になるとは・・・。』


セイト:『心境は御察しします。それでサーニャちゃんはお任せしても?』


セリア:『はいもちろんです。あっ!ちょっと待ってて下さい、馬車の代金を・・・。』


セイト:『あぁ結構ですよ、元々レイゼランドまで来るついででしたし。』


メルティ:『そのお金でサーニャさんに何か美味しい物でも食べさせてあげて下さい。』


セリア:『・・・ありがとうございます。』


二人と別れてギルドに戻ると、シルヴィがガックリと肩を落としていた。


あっ・・・やっぱり募集終わってたんだな・・・。


セイト:『や、やぁシルヴィ、大丈夫か?』


シルヴィ:『せ、せ、セイトしゃ~ん!!ぼしゅうおわってたぁ~!!』


あはは・・・どうすりゃ良いんだよ・・・。


メルティ:『あのぅ、シルヴィさん、もし宜しければなんですけど、私達とパーティー組みませんか?』


えぇぇぇ!?


メルティ!?良いのかよ!?


シルヴィ:『えっ?・・・私なんかで・・・本当に・・・良いんですかぁ?』


冷静になって考えよう・・・。


うちのパーティーは魔法剣士の僕と魔法使いのメルティ、そして剣士のアレッタだ。


まだ実戦はして無いけど、この布陣ならアレッタと僕が前衛でメルティが1人で後衛と回復をしなきゃならない。


確かにシルヴィが前衛に入れば僕が後衛に入れるから、パーティーとしてはバランスが良くなる。


でも・・・。


セイト:『ねぇシルヴィ、君は今後もレイゼランドに留まるつもり?』


シルヴィ:『機会があれば旅に出ても良いなとは思いますけど、当分はここのギルドで稼がなきゃです。』


アレッタ:『所持金ってどのぐらいなの?』


シルヴィ:『ぶっちゃけた事を言うと・・・食費を考えたら宿代も厳しい・・・です。』


う~ん・・・。


チラッとメルティを見ると、笑顔で頷いた。


セイト:『じゃあ・・・パーティー組もうか。』


メルティ:『じゃあ登録済ませたら、何処かで御飯食べてうちに行きましょう。』


シルヴィが不思議そうにメルティを見ると、メルティがシルヴィに笑顔で言った。


メルティ:『住む所なら、私の家がありますから心配しないで下さい。』


シルヴィはメルティの手を両手で握りしめて・・・。


シルヴィ:『ありがとうごじゃいましゅ~!!』


はぁ・・・。


大丈夫なのか?


メルティの家までの帰り道、メルティにそれとなく話を聞いてみた。


セイト:『なぁメルティ、良いのかよ?シルヴィは普通の人なんだろ?』


メルティ:『彼女は風の聖霊だけで無く、神の加護を受けています。恐らくはセイト様との絆も築けるかと思います。』


それでか・・・。


まぁメルティを信じるしか無いかな・・・。


メルティの家に着くと、二人はかなり興奮していた。


二人が来た事で少しはメルティも夜は自重してくれると助かる・・・と思っていたんだけど・・・。


翌朝。


セイト:『・・・あのぅ・・・メルティさん?』


メルティ:『おはようございますセイト様♪』


セイト:『なんで僕のベッドに潜り込んでるのかな?』


メルティ:『旅の時は宿屋だったから、こういう事は出来なかったじゃないですか。』


そんな清々しい笑顔で言われても・・・。


セイト:『他の二人に見られたら大変じゃない。』


メルティ:『そうなんですか?私は構いませんけど?』


いやいやいや、どうして解らないかなぁ?


セイト:『いやほら、二人との関係が気まずくなると困るし・・・。』


という話をしていると、扉が開く音が聞こえ・・・。


アレッタ:『おはようセイト君、折角だし私とシルヴィに・・・街を案内して・・・欲しいんだ・・・けど・・・。』


あっ・・・コリャ終わったわ・・・。


アレッタ:『あっ・・・ごめん・・・あ、あ、あとにする・・・ね・・・。』


と言い残して静かに扉が閉まった。


メルティ:『見られちゃいましたね♪』


どうすんだよぉぉぉぉ!!

お読み頂き有り難う御座いました。

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