第6話 様々な職種とフィールドランサー。
お読み頂き有り難う御座います。
第6話です。
目が覚めると外はまだ暗かった。
向こうの世界に居た頃なら、こんな時間に起きる事なんてまず無かったと思う。
こっちだと大体夜10時ぐらいには寝てしまうので、最近ではやたらと早起きになってしまった。
向こうと違って時計が無いから、正確な時間までは分からないけど・・・。
気のせいかも知れないけど、1日の時間は24時間よりも少し長い気がする。
空を見ると、月も向こうの世界より近いのか、かなり大きく見える。
こちらに来てから2週間ぐらい経ったけど、気温も春の様な温かい日が続いていた。
とても過ごしやすい気候な為か、昼間は時折眠くなる事も多い。
メルティの話では、管理者ほどの体力ならば数日間は寝なくても思考が低下する事は無いらしいが、向こうでの習慣からか夜には眠くなる。
食欲もこっちに来てから旺盛になった気がする。
最初の数日は向こうのジャンクフードが恋しかったけど、肉類のサンドやフライドポテトはこちらの世界にもある。
逆に和食の方が恋しくなったほどだ。
恐らくゼロに頼めば向こうのスナック菓子やレトルト食品も手に入るんだろうけど、お金の心配が要らないので食堂に行けばちゃんとした食事が食べられる。
こっちの世界だと僕の年齢でも普通にお酒が飲めるそうだけど、特にに飲みたいとはあまり思わない。
難点は食堂の飲み物メニューにソフトドリンクが紅茶か果実水しか無い事ぐらいだ。
旅をしていて思ったのは、僕とメルティ以外の人達は結構その日暮らし程度のお金しか持っていない事だ。
アレッタも少しは蓄えがある様だけど、結構頻繁に討伐やクエストをこなさないと食べて行くのは辛いらしい。
銀行を使うのは行商人や貴族が大半で、冒険者などは貯金する余裕もあまり無いという人がほとんどだそうだ。
一つの町に落ち着く冒険者が少ないのはそんな懐事情も関係している様だ。
男女比率は明らかに女性が多い。
結婚に関しては、どの国でも一夫多妻制が普通だそうだ。
男女比率もそうだけど、より多くの子孫を残す事を良しとした考え方らしい。
一口に人族と言っても、こちらの世界にも数種類の民族が暮らしている。
向こうの世界の人種で言うと、ヨーロッパ系の白人・中東系の白人・ロシア系白人・東洋系黄色人種が暮らしている。
何故かヒスパニック系・アフリカ系の黒人・東南アジア等の褐色人種などが暮らして居ないのが不思議だが、やはり世界が違うからという事なのだろう。
ちなみに種族が違うと子供が出来ない事があるみたいだ。
大きな括りとして、人族と全てのエルフ族とドワーフ族・獣人族・蜥蜴人族という風に子供を作れる種族同士の結婚が一般的だが、法的な縛りは無いらしい。
奴隷制度もあって、奴隷のランクによって条件付きと条件無しの奴隷が居る様だ。
基本的には誰でも奴隷を買う事が出来て、貴族や冒険者だけで無く、店や宿屋を経営している人が働き手として買う事も多いらしい。
冒険者がパーティーメンバーとして購入する事が一番多いそうだけど、その扱いは購入者によってかなりの落差があるみたいだ。
向こうではファンタジー作品の中だけで存在していたものが現実にあるとなると、正直色々と考えさせられる事が多い。
種族による差別や身分制度もそうだけど、会話の通じる相手を普通に物扱い出来てしまう現実は正直言って怖い。
向こうの世界でさえ肌の色や人種による差別はあったけど、こちらの世界はそれよりも明確に扱われ方が違う。
世界の管理者にされた僕は、そんなこの世界の常識を受け止める必要がある。
日本人の常識で考えてはいけない事が沢山あるという事だ。
でもそんな発展途上な社会だからなのかは分からないが、こっちの世界には何故か居心地の良さみたいなものを感じたりもする。
かなりの不便さを感じるし衛生的にも向こうの世界ほど清潔とは言えないけど、生きているという実感はこちらの世界の方がはるかに感じられる。
もちろんメルティが居てくれるおかげで、ある程度身の回りの世話をしてくれたり、ゼロから貰った能力やお金を気にしなくて良いという事がかなり大きいのは間違い無い。
実際そのおかげでアレッタとパーティーを組んでも一緒に生活出来る環境もあるのだ。
こうやって旅をしていてもお金が無いから宿屋に泊まれないなんて事や、食べ物を買う事が出来ないなんて事も無い。
こんな事をゼロに聴かれでもしたらドヤ顔をされそうだ。
まぁゼロから貰った能力のおかげで、その日の食事代や宿屋代を稼ぐのはそんなに難しい事じゃ無いのは有り難い事なんだけどね。
そんな事を考えている内に朝食を食べに行く時間が近付いて来た。
メルティ:『セイトさ~ん♪ご飯食べに行きましょ♪』
身支度をして二人と合流する。
この町にもギルドはあるのだが残念な事に食堂が無い。
その為停車場近くにある食堂へ向かった。
この世界の食堂は、冒険者や市場の人向けに早朝から営業している所も少なくない。
そして朝食のメニューでも肉料理が多いのが普通だ。
野生の獣だけで無く、畜産による肉食用の動物も飼育されているのが理由かも知れない。
冒険者や肉体労働者が多い事もあってか、食肉の需要が多いのだろう。
魚や野菜のメニューもあるのだが、基本的には質素な味付けがほとんどだ。
アレッタ:『何食べよっかなぁ♪』
アレッタは冒険者歴も長いので、結構食欲は旺盛だ。
それでも引き締まった体型で居られるのだから、日頃から体を鍛えているのだろう。
それに対してメルティは思ったより食が細い。
やはり職種?の違いもあるのだろう。
朝食を食べた後で宿屋に戻り、出発の身支度を済ませた。
サーニャと合流して馬車に乗りレイゼランドに向けて出発すると、サーニャにある物を手渡した。
セイト:『はいこれ。』
サーニャ:『えっ!?これってもしかして・・・。』
セイト:『朝御飯食べて無いだろ?途中の休憩までかなり時間が掛かるから食べときなよ。』
さっきの食堂で持ち帰りが出来る料理を注文していたのだ。
サーニャ:『でも・・・。』
メルティ:『気にしないでたべて。』
アレッタ:『せっかくセイト君が用意してくれたんだから。ね?』
サーニャ:『皆さん・・・有り難う御座います。』
サーニャが食べはじめてホッとしていると、何人かの冒険者が重装備で歩いているのが見えた。
セイト:『あれ?この辺にダンジョンでもあるのかな?』
アレッタ:『あぁ、あれは普通の冒険者じゃ無いわ。魔獣ハンターね。』
セイト:『魔獣ハンター?』
アレッタ:『ゴールドランクを中心とした討伐団で、大型の魔獣を専門に討伐する連中よ。ワイバーンみたいな小型の竜とかジャイアントタイガーなんかも討伐するほどの腕前の冒険者よ。』
メルティ:『そう言えばワイバーンの目撃情報がギルドに掲示されていましたね。』
ワイバーンか・・・ゲームとかだと結構強いザコキャラだったりするけど、実際に遭遇したら厄介なんだろうな・・・。
サーニャ:『私が生まれる前に、町の近くまでワイバーンが来た事があるってお父さんから聞いた事があります。その時はレイゼランドの軍隊が追い払ったって聞きましたけど。』
セイト:『ワイバーンって町を襲う事あるんだ!?』
メルティ:『そりゃありますよ。その時にはかなりの被害が出る事も少なくないんです。』
メルティの話では、ワイバーンが人里まで来るのは野生の獣が減った時や縄張り争いが多発した時らしい。
孤立している町がワイバーンによって壊滅したなんて事もあったらしく、ギルドでも特別報酬が出るほどに危険視されている様だ。
ここ数年、大陸各地での目撃情報があるので、ワイバーンの活動が活発になっているとの事だった。
セイト:『それで魔獣ハンターなんてプロ集団が居る訳か・・・。』
アレッタ:『まぁ其処らの魔物とは報酬だって桁違いに良いから、ランクの高い冒険者は魔獣ハンターをやりたがるみたいだけどね。でもセイト君みたいな空人なら兎も角、私みたいな普通の冒険者じゃ足手まといにしかならないだろうけどねぇ・・・。』
メルティ:『でもアレッタさんて結構キャリアもあるし、ソロでやってたから他の冒険者より経験豊富なんじゃないんですか?』
アレッタ:『私なんてまだまだよ。臨時のパーティーに参加する事はあるけど、連携が複雑な戦闘にも馴れて無いしね。』
そっか・・・。
ソロとパーティーじゃ戦い方も違うだろうしな・・・。
約3時間位走ると、休憩地点の小さな町に到着した。
少し時間は早いけど、この町で昼食を取る事にした。
この町から先は、当分の間何も無いからだ。
まだ午前中にも関わらず、食堂は結構混みあっている。
恐らく馬車の休憩地点に指定されている町だからだろう。
アレッタ:『思ったより混んでるわね?』
メルティ:『あそこのテーブルが空きましたよ。』
食堂には商人や傭兵、冒険者や肉体労働者などの様々な職種の人達が居る。
テーブルに着いて注文を済ませると、ある人物に目が止まった。
やたらと派手な装飾が施された鎧を着けた女性だ。
周囲の人達にジロジロ見られているのもお構い無しで、一心不乱に大きな股肉にかぶり付いている。
スゲェな・・・。
セイトが半分呆れた顔で見ていると、アレッタがボソッと話し出した。
アレッタ:『あの人、多分フィールドランサーね。』
セイト:『フィールドランサー?』
アレッタ:『馬に乗らずにフィールドを駆け回って戦う槍使いよ。あんな鎧を着けてるのは槍使いのランサーか聖騎士ぐらいだけど、普通のランサーは馬に乗って戦うでしょ?でもあの人は腰回りに馬具を着けて無いし、側にはロングスピアーが立て掛けられてるしね。』
メルティ:『確かに聖騎士ならロングソードを使いますもんね。』
セイト:『にしてもあの鎧は随分派手だね?』
セイトが苦笑いをしていると、アレッタが装飾の一部に紋章を見つけた。
アレッタ:『あの紋章・・・貴族の家系なのかな?でも重そうだし実用向きじゃなさそうよね?』
メルティ:『いや、あの鎧には風の魔法が付与されていますね。センスは兎も角、結構動けるんじゃないでしょうか。』
サーニャ:『1つ聞いても良いですか?』
セイト:『なんだい?』
サーニャ:『冒険者の人達ってどのくらいの職種があるんですか?』
アレッタ:『結構多いわよ?討伐や護衛のスキルを持つ職種が多いわね。スキルは大きく分けると剣士・ランサー・フィールドランサー・魔法使い・魔法剣士・魔導師・僧侶・聖霊使いみたいな感じかな?厳密に言えばもっと種類は多いんだけどね。』
サーニャ:『結構多いんですねぇ。』
メルティ:『でも手軽に始められる剣士に人気が集中してますけどね。魔法を操る職種は一人立ち出来るまでに結構期間も掛かりますし。他にも鍛治師や錬金術師、変わった所ではダンサーなんて職種もありますね。』
セイト:『ダンサーって祭りとかで踊ってる人?あまり冒険者のイメージは無いんだけど、何の役に立つの?』
メルティ:『ダンサーは聖霊使いのスキルが必要で、魔法使いや僧侶が使う支援魔法と似た効果があります。討伐向きではありませんが、人同士の戦いでは結構大きな効果を発揮するんですよ。』
人同士の戦いか・・・。
盗賊狩りや戦争って事かな?
考えてみれば、僕はこの世界の事情をあまり把握して無いんだよな・・・。
サーニャ:『ダンサーって踊り子さんの事ですよね?少し前に旅芸人の一団が来て、広場で踊ってるのを見ましたけど・・・。もしかしてあの人も聖霊使いのスキルを持ってるんですか?』
メルティ:『多分その踊り子さんも聖霊使いのスキルは持ってると思いますよ。』
セイトもこの世界の職業や職種の事は馴染みが無かったので新鮮な話だった。
結局そのフィールドランサーはセイト達が食堂を出る頃になっても食べ続けていた。
馬車に戻って再び移動を始めると、後ろから物凄い勢いで全力疾走して馬車を追って来る人が居た。
『まって~!お願い!その馬車まって~!』
よく見るとさっきのフィールドランサーだった。
あれは恥ずかしいな・・・。
お読み頂き有り難う御座いました。