第5話 仲間と家。
お読み頂き有り難う御座います。
第5話です。
宿屋で目覚める朝。
いつもと違う朝。
ちょっと冒険者っぽい。
と、思ってたのに・・・。
セイト:『・・・何であんたがここに居るんだよ?』
ゼロ:『やだなぁ、めでたくパーティーメンバーが加入したみたいだから祝福しに来てあげたんじゃん♪』
セイト:『そいつはどうも・・・で、何で僕のベッドで添い寝してんだよ!』
ゼロ:『こんな美少女と添い寝出来るなんて最高の御褒美でしょ♪』
セイト:『若い美少女限定の話だけどね。あんた年幾つ?』
ゼロ:『女の子に年を聞くなんて野暮ってもんじゃない?』
セイト:『何が野暮だよ・・・ってか神に性別の概念なんてあったのかよ?てか早くベッドから出てくれよ!』
ゼロ:『もう、セイト君たらホントつれないんだから♪』
セイト:『それで?メンバー加入を祝う為だけに来た訳じゃ無いんでしょ?』
ゼロ:『なんだ、お見通しかぁ。実はそのメンバーの事なんだよ。』
セイト:『アレッタの事?』
ゼロ:『あの娘、自覚は無いみたいだけど、空人の子孫だよ。』
セイト:『空人って確か異世界人だよね?』
ゼロ:『そう。異世界人はこちらの世界に来る時に、本来なら身体を形成するマナの性質が変わるから、消滅してしまうか神力や魔力が備わるかのどちらかなんだ。だから空人と呼ばれる人達は能力が高い事が多いんだけど、彼女の場合もその能力を受け継いでいるんだ。だから今後も君の力として役に立ってくれる筈だよ?』
セイト:『だからメルティはパーティー加入に賛成したのか・・・。でも何でわざわざ知らせに来たの?』
ゼロ:『君が疑心暗鬼にならない様にだよ。恐らく君はあの娘が自分の神力にあてられるかも?って不安がってるんじゃないかって思ってね。』
セイト:『その決断をするのはもっと先の話でしょ?』
ゼロ:『メルティも言ってただろ?長い期間人生を共に過ごす必要があるってね。それを伝える必要があると思ったんだ。』
セイト:『でもまぁ、彼女には言えないけどね。』
ゼロ:『別に言う必要は無いさ。さぁ、伝えるべき事は伝えた。ボクは戻って仕事をする事にするよ。』
セイト:『あれっ?今日は意外にあっさり帰るんだね?』
ゼロ:『言っとくけどボクだってあんまり暇な訳じゃ無いんだよ?それにあの娘に見つかると色々面倒だしね。そんじゃね♪』
そう言うとゼロは消えてしまった。
まったく、普通に登場出来ないもんかね?
メルティ:『セイト様♪朝ご飯食べに行きましょ♪』
セイト:『今行くよ!』
宿屋を出たセイト達は、冒険者ギルド直営の食堂へ向かった。
冒険者ギルドは討伐やクエストを受ける冒険者達の為に早朝から食堂を営業してくれている。
夜にはそこは酒場に変わるので、夜中以外は営業している事になる。
店員:『いらっしゃい!3名かい?そこのテーブル席でメニュー見てて!』
ギルドの食堂は大盛況で、常にお客が入っている。
少し濃い目の味付けと、ボリュームのある料理は体力勝負の冒険者にうってつけだ。
アレッタ:『ここの食堂はメニューが多いわね!何にしよっかな~♪』
メニューを見ると、結構ヘヴィーな料理が多い。
ステーキ等の肉料理がメインなのはギルドならではなのか?
注文を済ませて周りを見ると、様々な種族の冒険者達が情報交換をしていた。
てか本当に早朝からステーキ食ってる奴が多いし・・・。
セイト:『やっぱり大きな町は色んな種族が居るね。』
アレッタ:『むしろ人族しか居ない町の方が珍しいわよ?世界の半分以上が亜人種な訳だし。』
セイト:『そうだったんだ?』
メルティ:『セイト様はレイゼランドしか知りませんもんね。あの街は人族しか住んでいませんし。』
アレッタ:『思い出した!レイゼランドって、確か昔に聖騎士が作ったっていう街よね?立派な神殿があるので有名だって言うじゃない?』
メルティ:『そうらしいですね。神殿は町外れにありますけど、かなり大きかったですよ?』
セイト:『聖騎士って王都に居るっていう、あの聖騎士?』
メルティ:『聖騎士は王家とは関係無いんです。本来は神殿や教会を守護する存在なんですよ。』
アレッタ:『今は国の王都に大神殿があるから、聖騎士も王都に居る事が多いのよ。』
セイト:『神殿の総本山って何処なの?』
メルティ:『西方にあるエレーナという国に聖都があるそうです。街全体が神殿になっているという噂ですね。』
セイト:『メルティは行った事無いんだ?』
メルティ:『私は神殿で洗礼を受けた訳ではありませんからね。』
アレッタ:『そんな所は、たとえ洗礼を受けた神職でも、修行をする神官ぐらいしか行かないと思うわ。』
考えてみれば、さっき僕のベッドに自称一番偉いらしい神様が添い寝してたんだよなぁ・・・。
食事を終えるとギルドや兵士局で盗賊に関する話を聞いて回った。
やはりこの数日間はあまり動きが無く、被害も出ていないらしい。
アレッタ:『ん~やっぱり空振りかなぁ?』
セイト:『口止めさせられている様には聞こえなかったね。場所を変えたのかな?』
メルティ:『可能性はありますね。大きな街の近くは盗賊にとっても危険が付きまとうでしょうし。』
セイト:『じゃあ取り敢えず手紙を届けちゃおうか。』
日もかなり高くなって来たので、当初の予定だったタウンゼント子爵からの手紙を届ける事にした。
ベルゼウス:『ご苦労だったね。道中問題は無かったかな?』
セイト:『はい、懸念していた盗賊も、ここ数日間は出ていないそうで。』
ベルゼウス:『それは良かった。ではこれが受け取り証明書だ。』
セイト:『有り難う御座います。』
ベルゼウス:『ところでさっき言ってた盗賊なのだが、どうやらアルテスという町の側にある森に潜伏しているらしいとの情報があったんだ。アルテスはここから北に2日ほど行った所なんだが、それ以外の情報が入って来なくてな。』
セイト:『その情報はギルドや兵士局へは?』
ベルゼウス:『私も昨日行商人から聞いたばかりなのでまだ知らせておらんのだ。悪いが君達にこの後知らせに行って貰いたいのだが、構わんか?』
セイト:『構いませんよ。どうせ馬車の出発まで時間はありますし。』
ベルゼウス:『すまぬが宜しく頼む。これはその賃金として受け取ってくれ。』
セイト:『あ、そうそう、タウンゼント子爵から言伝てです。子爵会で会えるのを楽しみにしていると。』
ベルゼウス:『有り難う、それじゃあ気を付けて帰ってくれたまえ。』
コンスタン子爵の屋敷を出ると、兵士局と冒険者ギルドへ情報を伝えた。
兵士局では至急アルテスの兵士局に連絡をするとの事だった。
アレッタ:『盗賊の事は気になるけど、クエストの完了報告をしないといけないのよね?』
アレッタの言う通り、タウンゼント子爵へ受け取り証明書を渡す仕事が残っている。
元々配達期限は5日だったが、3日で終わっている。
盗賊も確かに気になるが、出来れば先に受け取り証明書は渡したい。
セイト:『証明書を渡さなきゃならないからね。それじゃあそろそろ停車場に行こうか。』
少し後ろ髪を引かれる思いはあったが、今回はクエストを優先する事にした。
セント・レイチェルを出発すると、何組かのパーティーが列なって北に向かうのが見えた。
さっき流した情報がギルドで公表されたのだろう。
元々盗賊退治を目的にこの街に来ていた冒険者も多かったみたいだ。
盗賊退治をする冒険者のパーティーは、基本的に何組かのパーティーが合同で行動する事が多い。
出来るだけ大勢で盗賊達を取り囲むやり方が一般的だからだ。
逆にその方法を逆手に取る盗賊も居るらしい。
幾つかの盗賊団が手を組んで、広範囲に渡って潜んでいる。
囮になった盗賊団が囲まれると、内側と外側の両方から襲撃するというやり方だ。
それに僕達の様な少人数のパーティーは、あまりこの様な作戦には参加させて貰えない事も多いらしい。
つまり無理に盗賊の足取りを追わなくて正解だったかも知れないという事だ。
アレッタ:『ねぇセイト、レイゼランドではどんな所に住んでるの?』
セイト:『ん?僕はメルティの家に住まわせて貰ってるよ?』
アレッタ:『えっ?メルティの・・・家!?家って何!?まさか一軒家!?』
メルティ:『部屋を借りても良かったんですけど、家を買った方が何かと便利なので・・・。』
アレッタ:『えっ!?買ったの!?レイゼランドって結構大きな街よね!?値段だって物凄く高かったんじゃない!?』
メルティ:『レイゼランドに来るまでは、かなりお金は貯めてましたからね。当面の生活費だけ残して全額つぎ込んだんですよ。』
そりゃそう言うよな。
まさか必要な分だけ幾らでも金が手に入るなんて言えないもんなぁ・・・。
アレッタ:『ねぇメルティ!まだ部屋、空いてる!?』
メルティ:『空いてますよ?アレッタさんも一緒に住みますか?』
アレッタ:『ホント!?恩に着るわぁ!!正直それだけが心配だったのよぉ!これまで数えきれないほど野宿をしたけど、大きな街だとそうも行かないじゃない?』
セイト:『確かにあの街でホームレスってのもさすがになぁ・・・。』
メルティ:『それに同じパーティーなら一緒に住んだ方が色々と便利ですしね。』
メルティは初めからそのつもりだったんだろうな・・・。
でもあの家・・・借家じゃ無かったんだ・・・。
本当に高そうだよなぁ・・・。
この世界では街の規模によって、物価や物件の値段が大きく違う。
他所から来た冒険者などは街の外でキャンプをしたりする者達も多い。
正直宿屋に泊まれる冒険者は、それなりに実力のあるシルバーランク以上がほとんどだ。
部屋を借りるには最低でも前家賃を2ヶ月分払えるだけの資金が必要だ。
その資金を稼ぐには、かなりの数の魔物を何日も討伐するか、割の良いクエストを何度もこなす必要がある。
アレッタが驚いたのは当然だった。
何せセイト達は二人ともブロンズランク、しかも冒険者になってまだ日が浅かったのだ。
そんな二人が一軒家に暮らしていて、尚且つ持ち家だというのだから無理も無い。
話を聞いていた他の乗客でさえ目を丸くしていたほどだ。
その後セイト達は休憩を挟んだ後、夕方には宿場町へ到着した。
夕食を食べに食堂へ行くと、入り口で様子を伺っている女の子が居た。
セイト:『あの子どうしたのかな?』
メルティ:『誰かを探してるんですかね?』
アレッタ:『あ、こっちに来るよ?』
女の子:『あのっ!もしかして、旅の方々ですか?』
セイト:『そうだけど?』
女の子:『実は私、レイゼランドに姉が居るんですが、一緒に行って頂ける方を探してるんです!』
アレッタ:『馬車を使えば一人でも行けるんじゃないの?』
女の子:『実を言うと・・・その予算が無くて・・・。』
メルティ:『でも歩いたら何日も掛かりますよ?』
女の子:『なので一緒に行って頂ける方を探しているんです。』
セイト:『お姉さんは君が行く事を知ってるの?』
女の子:『知りません。先日父が亡くなって、私1人だけになってしまって・・・。どうして良いか分からなくなって・・・。』
セイト:『ちゃんと食事はしているの?』
女の子:『ま、まぁ・・・。』
セイト:『詳しく話を聞かせて貰えるなら、一緒の馬車に乗せてあげるよ。今から食堂で夕食を食べるから、一緒に入ろう。』
女の子:『・・・良いんですか?』
メルティ:『さすがに見過ごせませんからね。』
食堂に入って女の子から話を聞いた。
女の子:『私、サーニャと言います。父は町の南側にある花屋をしていたんですが、病を患っていて先日亡くなってしまったのです。私が店を継ごうと思ったのですが、まだ何の知識も無くて・・・。それで姉に相談しようとレイゼランドに行こうと思ったんです。』
セイト:『なら当然しばらくは収入も無かったし、お父さんの治療代も掛かってたって事か・・・。それじゃあ馬車代も無かった訳だね・・・。』
アレッタ:『そのお店はどうしたの?』
サーニャ:『勝手に売る訳にもいかないので、ひとまずはそのままにしてあります。姉に判断して貰うつもりでしたし。』
セイト:『それでそのお姉さんは何処で働いているの?』
サーニャ:『確か東地区にあるフローラっていう花屋さんで働いている筈です。』
メルティ:『分かりました。セイトさん、協力してあげましょう?私達はお金に余裕もありますし、1人分の馬車代ぐらいなら問題ありませんよね?』
セイト:『そうだね。ねぇサーニャ、僕達は明日の朝出発する馬車でレイゼランドに帰る予定なんだけど、もう出発する準備は出来てる?』
サーニャ:『え!?本当に良いんですか!?』
セイト:『うん、一緒に行こう。取り敢えずは何か食べなきゃね。』
食事を済ませると、翌朝宿屋の前で待ち合わせる事にした。
宿屋に入ると、3人で紅茶を飲みながら雑談を始めた。
セイト:『アレッタってずっと旅をしてたんだよね?』
アレッタ:『うん、あまり1ヶ所に留まっていると、色々と面倒な事も多いからね。』
メルティ:『でもこれからは私達と固定のパーティーを組むんですよね?』
アレッタ:『さすがにこれ以上ソロでやるのも結構キツいからねぇ。それにセイト達と一緒なら、もっと違う世界が見れそうだからさ。』
セイト:『違う世界?』
アレッタ:『うん、セイト達って他の冒険者達と違って、物の見方や人との向き合い方が正直だからね。だからクエストとかで今までと違った経験が出来ると思ってね。』
何かロクな冒険者と付き合った事が無い様な口ぶりだなぁ・・・。
セイト:『まぁ僕達は冒険者歴が浅いから、ベテランの冒険者達とは考え方も違うと思うけどね。でも逆に経験も少ないから、いざって時には判断に困る事もあると思うよ?』
アレッタ:『その時は私がサポートするわよ。でもメルティの話じゃセイトの潜在能力ってかなり高いみたいじゃない?正直私の出る幕なんて無いかも知れないけどね。』
メルティ:『そんな事はありませんよ。セイト様も私も、冒険者としての知識は初心者です。それに経験豊富なアレッタさんが一緒ならとても心強いですからね。』
本当にそうだ。
確かにメルティはこの世界の事に詳しい。
でも冒険者の知識と世間の常識では全く異なるからな。
アレッタ:『そう言って貰えると嬉しいけどね。正直言って私、特別能力が高い訳でも無いから不安な事も多いのよねぇ・・・。』
あれ?確かゼロが空人の子孫だから能力が高いみたいな事言って無かったっけ?
もしかしてアレッタは自分の潜在的な能力を自覚して無いのかな?
メルティを見るとメルティは静かに頷いた。
メルティ:『アレッタさん、ひとつ伺いたいんですけど、アレッタさんのご両親ってどんな方だったのですか?』
アレッタ:『私の両親?そうねぇ、まだ小さかったからハッキリとは覚えて無いけど、確か父さんは別の大陸の出身だった筈よ?母さんは南部のフォルシアって港町の出身で、漁師の娘だったらしいわ。』
セイト:『お父さんって冒険者だったの?』
アレッタ:『違うよ?確か行商人だったと思うわ。船でこっちに来て母さんと知り合ったみたいね。』
なるほど、その辺の話とかもちゃんと聞いて無かったのか・・・。
それじゃあ自分が空人の子孫だって事も知る筈無いよなぁ。
ふとアレッタのアクセサリーに目をやると、見覚えのあるペンダントトップがあった。
あれ?このデザインって、確かあの有名な映画に出て来る紋章だよな?
セイトは父親が映画、特に洋画のファンタジー作品が好きだった事もあり、子供の頃からかなりの作品を見ていた。
その紋章はとある中世を舞台に作られたファンタジー作品に出て来る紋章だったのだ。
星と竜を囲む様に幾何学模様があり、アルファベットのAの文字が入っている。
セイト:『ねぇアレッタ、そのペンダントって、もしかしてお父さんから貰ったの?』
アレッタ:『よく分かったわね?父さんが亡くなる前に、私がおねだりしたらくれたのよ。今じゃ形見になっちゃったけどね。』
メルティ:『まるで何処かの王家の紋章みたいですね?素材は銀みたいですが・・・。』
確かあれは映画の限定グッズで素材はシルバー925だったな・・・。
お父さんが12万もするからって、買えなくて悔しがってたから良く覚えてる・・・。
アレッタ:『私も気になって何処の紋章か調べてみたんだけど、こんなに複雑な紋章を使ってる王家や貴族は無かったわ。だから未だに謎なのよ。』
確かにこっちの世界だと植物・武器・天体のどれかが紋章になってる事はあっても、こんな幾何学的な紋章は無いもんなぁ・・・。
しかもアルファベットは向こうの文字だし・・・。
アレッタ:『でも父さんがいつも身に付けてた物だから大切にしてるんだ。』
そう言ったアレッタの顔は少し悲しげに見えた。
こちらの世界での魔法は万能では無い。
アレッタの両親やサーニャの父親の様に、魔法では回復出来ない病気もあるのだ。
もちろんゲームの様な死んだ人を蘇らせる魔法も無い。
だからこそ人々は支え合って生きている。
僕は向こうの世界で忘れかけていた何かを、この世界で再び学んだ気がしていた。
お読み頂き有り難う御座いました。