第4話 盗賊の噂とアレッタ。
お読み頂き有り難う御座います。
第4話です。
『あなた・・・。』
なに?誰?
『あなたに・・・。』
君は誰?
『私は・・・。』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
メルティ:『セイトさ~ん、起きてますかぁ♪』
ドアの外からメルティの声が聞こえる。
今の・・・夢!?
メルティ:『セイトさ~ん?入りますよ?』
ドアを開けてメルティが入って来た。
メルティ:『あ!起きてるなら返事して下さいよぉ♪・・・あれ?どうしたんですか?ぼ~っとしちゃって。』
セイト:『あ!?いや、お、おはよう・・・。』
メルティ:『変な夢でも見たんですか?』
セイト:『いや、何でも無いよ。』
セイト:(何だったんだ、あれは・・・。)
宿場町から馬車に乗り、終着点のセント・レイチェルまで行く。
途中で食事や馬の休息の為の休憩を数回挟んで、終日馬車に揺られる事になる。
セイト:『馬車って子供の頃に牧場で乗った記憶しか無いけど、結構快適なものなんだね?』
メルティ:『定期運行の馬車は旅客専用なので、クッションやベンチが柔らかいんですよ。長時間乗るのでお尻が痛くなっちゃいますからね。』
セイト:『確かにそんな思いして乗るのは辛いよね・・・。』
宿場町から4時間ほど走ると、馬の休息の為にセブンス・パースという町に停車した。
1時間ほど休憩するそうなので、カフェでお茶を飲む事にした。
他の乗客達もほとんどは同じ店に来ている。
定期運行の馬車が通る町は、この様な経済効果があるのだ。
女の子:『ねぇ、あんた達、同じ馬車に乗ってた人達よね?』
セイト:『そうだね。』
女の子:『相席させて貰って良いかな?どうやら満席みたいなのよ。』
セイト:『どうぞ、僕達は二人だけだし。』
女の子:『有り難う!私はアレッタ、シルバーランクの冒険者よ。』
あれ?この娘・・・神力と魔力が結構高いな・・・。
セイト:『僕はセイト、こっちがメルティ。僕達も冒険者なんだ。ランクはブロンズだけどね。』
メルティ:『よろしくです。』
アレッタ:『あんた達、二人で旅してるの?』
セイト:『僕達はクエストでレイゼランドからセント・レイチェルまで手紙を届ける途中なんだ。』
アレッタ:『セント・レイチェルって終着点よね?最近盗賊が出たって言うじゃない?』
メルティ:『その盗賊が原因でクエスト依頼がギルドに出ていたんですよ。』
アレッタ:『あ、やっぱりそうなんだ?ねぇ、私もあんた達と一緒に行って良いかな?』
セイト:『僕は構わないけど、どうして?』
アレッタ:『もし盗賊を倒す事が出来れば賞金が出るしね。見たとこセイト達ってまだ冒険者になって日が浅いみたいだから、護衛も必要でしょ?』
メルティ:『まぁそうなんですけど、これでも一応、私達のスキルはシルバーですよ?』
アレッタ:『あらそうなの?何か失礼な事言っちゃったかなぁ?』
セイト:『別に失礼な事は無いよ。実際冒険者になって日が浅いのは本当なんだから。』
メルティ:『それに仲間が増えるのはこっちとしても有り難いですからね。』
アレッタ:『じゃあ一緒に行って良いの?』
セイト:『うん、もちろん歓迎するよ。』
メルティ:『よろしくです。』
休憩が終わり、再び馬車は走り出した。
アレッタは今まで行った町や出会った他の冒険者の話を沢山してくれた。
大陸南部のエスタという町の出身らしい。
年齢は15才で、この2年間は旅をしながら即席パーティーの冒険者をやって生計を立てているそうだ。
幼い頃に流行り病で両親を亡くし、その後は孤児院で育てられたという話だった。
セイト:『結構苦労したんだね・・・。』
アレッタ:『別に苦労なんてして無いわよ。12才で旅に出る子なんて普通だし、成人年齢まで孤児院にお世話になる訳にもいかないからね。』
メルティ:『でも旅を始めたばかりの頃は大変だったんじゃないですか?』
アレッタ:『最初の頃は食堂とか宿屋でお金作ってたけど、結構楽しかったよ?おかげで体力もついたし、冒険者の装備品とかも買えたしね。』
セイト:『逞しいなぁ、僕が12才の頃なんてテストの成績ばかり気にして仕事とか考えられなかったもん。』
アレッタ:『そりゃまた箱入りさんだったんだねぇ。テストって貴族の子が通う学園って所でやる奴でしょ?もしかして良家のお坊っちゃん?』
いっけねぇ!こっちの世界と向こうでは常識が違うんだった!
セイト:『いや、そうでは無いんだけど・・・ね・・・。』
メルティ:『セイト様は異世界から来られたんですよ。』
えっ・・・!?おい!メルティ!何言ってくれてんだよ!?
アレッタ:『異世界!?えっ!?じゃあもしかしてセイトって・・・。』
ヤバい!!
アレッタ:『空人なんだね?』
ん?ソラビト?・・・ってなに?
メルティ:『そうなんですよ。それで戻れなくなられたそうなんです。』
小声でメルティに聞いてみた。
セイト:『ねぇねぇメルティ、ソラビトって何?』
メルティ:『異世界から希に世界の境界を越えて、こちらの世界に迷い込む方が居るんですよ。その方々をこちらの世界では空人と呼ばれているんです。』
へぇ・・・そんな事あるんだ・・・知らんかった。
アレッタ:『凄い!空人って初めて会った!でもそれは大変よねぇ・・・。それでセイトは帰る方法を探してるの?』
もうここは話を合わせて誤魔化すしか無いなぁ・・・。
セイト:『いや、それはもう諦めたよ。だから冒険者を始めたっていうのもあるんだ。』
アレッタ:『それでメルティとはいつから?』
メルティ:『先月に私が魔物に襲われていたところを助けて頂いたのがきっかけで、一緒に冒険者をする事になったのです。』
アレッタ:『そうなんだぁ、でも様付けで呼ぶなんて、セイトは相当感謝されてるのね。』
セイト:『そうなの・・・かな?』
アレッタは結構鋭い所を突いて来るなぁ・・・。
でもさすがに本当の事を話す訳にはいかないもんな。
セイト:『アレッタは冒険者になって長いんだよね?他の土地で何か変わった話とかあった?』
アレッタ:『そうねぇ、私は南部や南西部しかまだ行って無いけど、南西部のゾルマって村ではソーセージが名物なの。そこの大食い大会に王都から公爵家の人が審査員で来ていたのよ。その時、村の近くで盗賊団が一斉に捕らえられたって話だわ。』
メルティ:『それって盗賊団が公爵家の方を狙ってたっていう事ですか?』
アレッタ:『その可能性はあるわね。それで宛が外れた盗賊の一部が、セント・レイチェルに出たって噂の盗賊じゃないかって話よ?』
セイト:『でもセント・レイチェルって結構大きな町なんだよね?多分駐在してる王国の騎士団や兵士局もあるんでしょ?何で盗賊退治をやらないのかな?』
メルティ:『言われてみればそうですよね?』
アレッタ:『正確な事は解らないけど、多分盗賊も複数の組織が合同で動いているんじゃないかな?』
セイト:『一応襲われた時の事を考えた方が良いかもね。』
馬車は食事休憩の為にレスター・ベルという町に停まった。
この町には冒険者ギルドがあるので、セント・レイチェルの盗賊に関する話を聞いてみる事にした。
受付嬢:『セント・レイチェルの盗賊ですか?一応ギルドにも退治の依頼は出てるんですけど、ここ2日ほど盗賊の目撃情報などがほとんど入って来ないんです。』
セント:『そうですか、有り難う御座いました。』
昼食を取りながら盗賊に関する話をした。
アレッタ:『何か妙だと思わない?これだけ盗賊の被害が話題になってるのに、目撃情報が全然無いなんて。』
セント:『妙だね。誰かが意図的に情報封鎖している様な印象だよ。』
メルティ:『だとしたら一体誰が?』
アレッタ:『有力者、もしくは権力者の可能性があるわね。』
セント:『もしそうなら、かなり厄介だね。冒険者では介入出来る範囲が限定されるし。』
アレッタ:『ねぇ、手紙を届ける相手って、確か貴族だったのよね?それとなく話を聞いてみたら?』
セント:『そうだね、一応聞いてみる事にしようか。』
食事を終えて再び馬車移動。
馭者の話では夜までにはセント・レイチェルに到着するらしい。
手紙を届けるのは明日でも問題無いけど、夜に到着するとなると盗賊に出会す危険がある。
さっきの話で考えると、コンスタン子爵に話を聞く前に盗賊と一戦交えるのは出来るだけ避けたい。
馬車に乗っているのは、僕達三人の他に行商人が二人と若い娘が三人。
恐らく戦えるのは僕達だけだろう。
アレッタ:『夜かぁ、色々と厄介ね。』
メルティ:『襲われた時にどうするかですね。』
セイト:『反撃して追い払うぐらいなら良いんじゃないかな?』
アレッタ:『何か自信有り気に言うわね?何か魔法でも使えるの?』
セイト:『炸裂系の火炎魔法なら被害を抑える事が出来るんじゃないかな?』
メルティ:『初級のフレアバースト辺りで十分だと思いますけど、セイトさんの場合は・・・。』
アレッタ:『待って待って、本当に使えるの!?』
セイト:『うん使えるよ?でもかなり魔力を抑えないとヤバいけどね。』
アレッタ:『でも確かフレアバーストってそこまで強い魔法じゃ無かったと思うんだけど?』
メルティ:『セイト様の場合は魔力の純度が高いのと、魔力が強いので威力が普通の魔法より10倍以上高いんですよ。』
アレッタ:『えっ!?10倍!?空人ってそんなに凄いの!?』
セイト:『いや、さすがに10倍っていうのは盛り過ぎなんじゃない?てか初耳なんだけど?』
メルティ:『何処にファイアボール1発で岩山を吹き飛ばせる魔法使いが居るって言うんですか!?とにかく、セイト様が魔法を使う時は魔力を出来るだけ抑えて使って下さいね。』
アレッタ:『ファイアボール1発で岩山・・・えぇ!?』
数時間後、セント・レイチェル近くの森を抜けると、街がようやく見えてきた。
日が暮れたにも関わらず、商店街以外の街全体にも灯りが灯っている。
この街では、各所に街灯があるので、明け方までは街灯で照らされるそうだ。
森を通過するまでは気を張っていた僕達も、ようやく息が着ける。
門を潜ると、街はかなりの賑わいを見せていた。
馬車を降りると宿屋の呼び込みが停車場に何人も居る。
この街では各方面の馬車が来る事もあり、宿屋はお客さんの奪い合いもあるそうだ。
セイト:『ねぇアレッタ、一応街には着いたけど、アレッタはこれからはどうするの?』
アレッタ:『考えたんだけど、セイト達さえ良ければ、これからもパーティー組まない?』
メルティ:『でも私達は、手紙を届けたら盗賊の調査はしますけど、直ぐにレイゼランドに帰るんですよ?』
アレッタ:『なら私もレイゼランドに行くわ。そろそろ固定のパーティーに落ち着きたいと思ってたところなのよ。』
セイトはメルティと顔を見合わせると、メルティは少しアレッタを見てからセイトを見て頷いた。
少し不安な気もしたが、メルティを信じてパーティーに迎える事にした。
セイト:『良いよ。それじゃあ明日、手紙を届けたらレイゼランドに一緒に行こう。
アレッタ:『有り難う!私、ガンガン前に出て役立っちゃうからね!』
セイト:『取り敢えずは今晩の宿屋を決めなきゃだなぁ。』
女の子:『宿をお探しですかぁ♪』
服の袖を引っ張って、小さな女の子が見上げていた。
セイト達は苦笑いしながら、その女の子を見た。
セイト:『案内してくれるかな?』
女の子:『はいっ!お母さ~ん!お客さ~ん!』
セイト達はその女の子と一緒に宿屋へと向かった。
お読み頂き有り難う御座いました。