血まみれ大樹
世界が割れる音が、こだまする。
リノンと大樹は、ファイティングポーズをとっている。
「……エンカウントって言っても、すぐに戦い始まらないから……」
「うん、モンスターを探すところからね」
「そう……なのか?」
そういって、リノンはファイティングポーズを解き、大樹は若干がっかりした様子で、リラックスした構えをする。
僕はモンスターの気配を探る。
「リノン、そういえば何を呼んだの?」
「えっと……プチデビル」
プチデビルかぁ……大樹の練習相手だろうか。
僕は大樹の装備を確認する。
大樹はシーフの装備で身を固められていた。
きっと……リノンの事だから、最高の装備を手配したのだろう。
「ダイキさん、あそこに居るから戦ってみて?」
「え?」
リノンは、大樹に声をかける。
大樹はその声に固まる。
「大樹、その装備なら、大丈夫だよ。思いっきり戦ってみて?」
「……わかった、やってみる」
プチデビルの数は3体。
大樹のレベルは物足りないけど、装備的には圧倒的に有利だと思う。
「うりゃ!!!」
大樹はナイフを手にとり、プチデビルに躍りかかる。
シーフだからか、元からの運動神経なのか、一気にプチデビルに詰め寄り……。
ナイフで切りかかる。
「どうだ!!」
プチデビルは、何とも言えない声を上げ、血しぶきを上げる。
「次!!」
リノンが声をかける。
人見知りといえども、この場ではリノンが一番の先輩。
しっかりと指示を出している。
「はい!!」
大樹はもう一本のナイフを取り出し、近寄ってきたプチデビルに切りかかる。
「ギヤァァ!!!」
ちょっと浅かったのか、プチデビルは健在。
……てか、大樹かっこいいな……。
僕なんか、1度目の戦闘で少し寝込んだのに……。
大樹はすかさずラッシュ。
仕留め損ねたプチデビルを、利き手で持ったナイフで倒した。
「残りは……どこだ!?」
「後ろだ!!!」
僕はとっさに魔法の準備をする。
しかし……。
「待って!!」
リノンが制止する。
その瞬間。
「いてぇぇぇ!!!!」
大樹の悲鳴。
残っていたプチデビルの攻撃を受ける。
「リノン、なぜ……」
「いいから、見守って?」
リノンは大樹の戦闘に目を離さずに、僕に話しかける。
「あの装備だから、やられることは無いから」
「確かにそうだけど……」
「そうだ! 回復魔法使ってあげて?」
「わかった」
リノンに言われるがまま、僕は回復魔法の準備をする。
大樹は攻撃の痛さで、少し固まっている。
「大樹。受け取って!!」
回復魔法が完成し、大樹にめがけて打つ。
大樹の体は、柔らかい光に包まれる。
「ありがとう! じゃあ、次でラストだ!!」
大樹はそういって、プチデビルに向かい合う。
「さっきの痛み、返してやる!!!」
そういうと、大樹は2本のナイフを交差させ、プチデビルに襲い掛かる。
大樹は間合いに近づくと、2本のナイフを振りぬく。
プチデビルは4つに体が分断され……。
声も立てずに、血しぶきを上げる。
大樹には大量の返り血が降り注ぐ。
「大樹、おめでとう!」
「ダイキさん、すごかったです!」
僕とリノンで祝福の言葉。
「いや、僕もこうやって戦ってみたかったし。ありがとう!」
「ところで、大樹」
「ん? 雄介どうした?」
「大樹は、返り血とか平気だったのか?」
「あ……」
大樹はみるみる青ざめ、その場にしゃがみこむ。
うん、僕もそうだと思う。
「莉音さん……向こうの世界では、こんな感じだったの?」
「はい、こんな感じで戦ってました!」
日記では、「血まみれりノン」とか言ってたけど……正直エグイよな……。
「そろそろ時間ね。説明は元の世界に戻ってからするから」
リノンがそういうと、世界がまた変化をする。
僕を止めた理由も聞かなくちゃ……。