まきこんでしまって、ごめんなさい……
「え? 私?」
ユウスケとダイキさんの視線を集める。
「リノン、くわしく教えてくれないかな?」
ユウスケは真剣なまなざしで言う。
ダイキさんのまなざしも、私に向けられる。
うーん……どうしよう。
緊張してきた……。
「え、えっと……」
「「……」」
沈黙。
私の鼓動が早くなる。
「リノン……あまり無理しないで?」
ユウスケは私の手に手を重ねて言う。
暖かくて、大きな手……。
私は、ぼーっと……。
……じゃ、なくて!
「うん、わかった!」
二人は聞き入るように、沈黙する。
「えっとね、私がこっちの世界に来る時に、
世界の境界線が不安定になってるみたいなの」
聞き入る二人。
私は続ける。
「向こうでは、魔王を倒してモンスターは居なくなる
はずだったんだけど……」
「だけど?」
ユウスケが、問い返す。
「私たち、魔王を普通に倒してないから……」
「裏エンディング……だっけ?」
「そう、今までの勇者たちとは別の終わり方。
本来なら、魔王自身が封印をかけて、眠りにつく。
これが今までの終わり方だったの」
「でも、リノンは……」
「魔王を浄化した……そういう終わらせ方。
だから、もう魔王自身は存在しないの」
私は、ユウスケを見つめて、話しをする。
「あのぉ……俺も居るからね……」
置いてきぼりの、ダイキさんから不満の声。
「ひゃ、ひゃい!!」
思わず、変な声を出す私。
そうだった……ダイキさんも居たんだった。
気を取り直して……。
「けど、モンスターは居なくならななったの」
「「……」」
「なぜかは……今は分かってないの。
それはシルビィ……あ、私の仲間です。
その、シルビィが今、調べてるところなの」
一応、私の知っているところ、おそらくシルビィ達も
ここまでしか知らないはず。
「そうか……」
ダイキさんが腕を組んで、考え込む。
「じゃあ、なんでこっちの世界で、モンスターと
エンカウントなんてするんだい?」
「通常は、天使様……あ、元魔王です。
その天使様の力で、抑え込んでいるので、
普通は大丈夫なんです」
「え?元……魔王?」
「はい、浄化したら、天使様になりました」
ダイキさんは、頭をひねる。
あ、私、ダイキさんと普通に話せるかも?
やっぱり、ユウスケの周りの人って優しいなぁ……。
私はしばし、ユウスケの横顔に見惚れる。
「莉音さーん?」
「ひゃい!」
「あまり、見せつけないでくれる?
こっちが照れちゃうよ……」
ダイキさんは少し恥ずかしそうに、人差し指で頭を掻く。
「じゃあ、俺がモンスターとエンカウントしたのは、
莉音さんの世界ってわけ?」
「いや、ちょっと違うの」
「そうなの?」
「うん、異世界の間って言って、
私の世界と、こっちの世界の間みたいなところなの」
ダイキさんは少し考えてから、私に問いかける。
「じゃあ、なぜ俺は、エンカウントに巻き込まれたの?」
「それは……ユウスケが異世界のはざまに、
入ったことがあるからだと思う」
私とダイキさんはユウスケに目を向ける。
「ん?」
ユウスケは突然振られて、きょとんとしている。
「私が……ユウスケを巻き込んだの……」
「「……」」
沈黙。
「私のわがままだったの……ユウスケと戦いたくて……」
私の涙腺が湿りだす。
ユウスケはそっと、私の頭に手をやる。
「いいんだよ……僕だって、リノンの戦う姿
見たいって言ってたじゃない」
……優しい……。
私の涙腺は決壊する。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
私はユウスケの胸で泣きじゃくる。
ユウスケは、そっと私の頭を撫でてくれる。
「いいんだよ……リノン……そんなに苦しまないで?」
「う、うん……ごめんね……」
「リノン一人で苦しまないで?
僕も……一緒だからね?」
「ありがとう……」
私は、今まで溜まっていた涙を、全部流すと
少しずつ、落ち着いてくる。
「もう、いいかな?」
ダイキさんが、照れて、そして困って、でも優しく……。
そんな複雑な表情で私たちを見る。
「もう、十分だから、わかった、わかった」
ダイキさんに笑みが戻ってくる。
「異世界のはざまに居るモンスターは、全部倒さなきゃ
いけないの?」
ダイキさんが私に質問してくる。
「わからないの。今シルビィに調べてもらってるの」
「そうかぁ……」
ダイキさんは腕を組んで考え込む。
「俺も巻き込まれたことだし、今日からは
三人パーティーって、ことでいいかな?」
ダイキさんの言葉に、私はハッとする。
そうだ……ダイキさんも巻き込んじゃったんだ……。
「うん、僕もそれがいいと思う」
「ユウスケがそういうなら……」
「莉音さん、俺の意見も大切にしてほしいな……」
ダイキさんが苦笑い。
「よければ、俺にも戦い方を教えてくれないか?」
「はい、お願いします」
ダイキさんを危ない目には、会わせられない。
私の戦い方を教えてあげないと……。
「でも、エンカウントって、都合よく来るのか?」
「それなら、大丈夫です」
私は、鞄に入れていた交換日記を取り出す。
「これで、シルビィと連絡を取ります。
それで、この場にモンスターを送ってもらうの」
「これが……さっき言ってた日記?」
「いや、これは、リノンとシルビィ用だよ」
ユウスケが代わりに答えてくれる。
私は日記でシルビィと連絡を取る。
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シルビィへ。
今、ダイキさんの家にいるの。
こっちにモンスターとシーフの装備を
一緒に送ってくれない?
リノンより
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そう書いて、日記を閉じる。
すると、日記が光だし、シルビィの
返事が返ってきた。
……早いよね……シルビィ……。
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おねえちゃんへ。
わかったよ!
今から5分後にそっちに行くから。
気を付けてね!
シルビィより
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「……まるで魔法だな……」
「そのもの、魔法だよ」
ダイキさんとユウスケが会話する。
「じゃあ、もう少しでモンスターと
エンカウントするから、異世界のはざまに着いたら
気を付けて!」
私は、エンカウントに備えて、身構える。
ダイキさんも私に合わせて、身構える。
「ねぇ……身構える必要って、あるんだっけ?」
ユウスケのそんな声から、少し遅れてエンカウントの
兆候が表れる。
「来るよ!」
そして、世界が割れる音が鳴り響いた。