のろけ話
僕たちは、大樹の部屋に集まった。
……一体何から話せばいいのやら。
「どこから話そうか?」
「時間もあるし、最初から聞きたいな」
大樹は、優しく微笑む。
……そうだな。何も躊躇する必要もないかな?
「ちょっと、のろけ話みたいになるけど、いいかい?」
「もちろん! じゃあ、馴れ初め話でも聞かせてくれよ」
うん……相手は何でも話せる、幼馴染だ。
僕は、エンカウントに巻き込んでしまったのが、
大樹でよかったと、内心ほっとする。
……まぁ、エンカウントに巻き込んじゃったのは、
申し訳ないけど……。
「じゃあ……。きっかけなんだけど、実は交換日記で……」
「うん、なんか聞いた気がする」
「最初は僕も、誰かのいたずらだと思ったけど……」
「え~! ひど~い!!」
僕と大樹の会話に、リノンが口をはさむ。
「私は、最初から信じてたんだからね!!」
「……いや、この世界では、そんなもの無いから……」
「あ~! じゃあ、最初は本気にして無かったの?」
「だって、この世界では、魔法なんて無いから……」
「……コホン!」
僕とリノンの痴話げんかに、わざとらしく大樹は
咳ばらいをする。
「莉音さん。
莉音さんの世界では普通かもしれないけど、
俺たちの世界では、そんなもの無いんだよ?」
「はい……そうでした……」
「俺だって、莉音さんがこことは違う……異世界から
来たって、正直に信じられないんだよ」
大樹は困惑したような様子で、リノンに説明する。
そりゃ、そうだよなぁ……。
リノンは、少し寂し気な表情をしている。
信じてもらえない事……それは、苦しいと思う。
だってリノンは……。
「じゃあ、続けるね」
「おう!」
「交換日記を通じて、日常会話をやり取りしてたんだ。
でも、やり取りするうちに……」
僕は言葉に詰まる。
えっと……。
リノンが拗ねて……。
「ユウスケがね、私に好きって告白してくれたの!」
「え? マジか! 雄介、やるな!!」
「えっと……あ、うん……」
ご機嫌とるつもりもあったけど……。
リノンにそっぽ向かれた時、かすかに胸がちくっとした、
記憶がある。
会えるか……実在するのかも、わからない相手を
好きになってもいいものなのか……。
僕は悩んで、答えを出した。
たとえ、どんな物語の結末になろうとも……。
「僕から好きって伝えたんだ……」
「うん……」
リノンは頬を赤らめ、うっとりとした表情をしている。
「私……とっても嬉しかったの……」
「ぼ、僕だって、『好き』って書くのに、
勇気だしたんだからね!」
「……嬉しい……。思い出すなぁ……」
「コホン!」
リノンが二人の世界を作ろうとしたとき、
大樹がこの部屋に来てから、2回目の咳ばらいをする。
「はいはい、ごちそうさま!
本当にのろけ話だなぁ……おい!」
と、言って、大樹は僕の後ろに回り込み、
本日二度目の首絞めをかける。
「ぎ、ギブ、ギブ!」
「い・や・だ! こんな可愛い子をよくも!!」
大樹は意地悪なことを言っているが、でも
僕たちを歓迎してくれているようだった。
……でも、さっきよりキツめ……。
僕をいじって、満足したのか、大樹はまた
向かい合って座る。
「んで……それから?」
「えっと……リノンが魔王を倒して、
こっちに来る願いをしたんだ」
「それで……俺たちの世界に来たってことか?」
「うん、そうなる……」
大樹は、ちょっと呆れたように、でも僕たちを
受け入れるかのように、微笑みかけた。
「ま、信じるよ」
「え?」
「俺だって、ほら……モンスター? 見てるわけだし」
「あぁ、そうだったね」
「ま~さ~か~、のろけて忘れたわけじゃないよな?」
「う、うん! 忘れてない、忘れてない!」
そうだ、ここからが本題だ。
モンスターのエンカウントに、巻き込んだ流れを
話さなければ……。
……あれ?
「リノン、僕もよく分かってないから、話してもらっていい?」
「え?」
僕が、話を振ると、リノンはきょとんとする。
そして、緊張の色を出してくる。
……人見知りって、今更出るのか……。
ちょっと心配だけど、リノンに任せてみることにした。