ドクターフィッシュ
僕たちは二人でドクターフィッシュのコーナーに来ていた。
僕たちはお昼を前に倒したので、今はちょうどお昼時で
コーナーはすいていた。
僕は受付をする。
「お嬢さんだけ?
せっかくだから、一緒にいかがですか?」
受付の人に一緒に入るように勧められる。
確かに…一人だけだと、やらないよな…。
せっかくだし、一緒に入ってみることにする。
「お魚いっぱいいるけど、ここに足入れるの?」
「うん、そうだよ。
でも、捕まえちゃダメだからね。」
「わかってる!」
そういうとリノンは、足をまくり上げて、
ドクターフィッシュのいる水槽に入れる。
「え?思ったよりあったかい!」
「うん、熱帯の魚だから。
その中でもドクターフィッシュは暖かい水を好むから、
お風呂と同じくらいの温度だよ。」
僕も、足を入れて少し驚いた。
けっこう温かい。
こんな温度でも、魚が生きていけるとは思わなかった。
「あはは☆
くすぐったい!」
ドクターフィッシュはリノンの足に群がり、
リノンの足を手入れする。
僕の足にも群がってくる。
思ってた以上に、しっかりと食いついてくるな…。
「お嬢さん、手を入れても良いよ!」
「…リノン、手を入れても捕まえちゃ…。」
「わかってる!」
リノンは僕にむくれた表情を見せてから、
そっと水中に手を入れる。
「ユウスケ!手にもくっついてきた!」
「いっぱい来たね。」
「うん!こうして触れ合ってると、お魚も可愛くなってきた。」
まぁ…僕から見ると、そうやってはしゃいでる
リノンが可愛いけどね…。
「リノンの世界にはこんなお魚いなかったの?」
「ん…似たようなモンスターは居たけど、
食べられちゃうかな…。」
「それ、ちょっと怖いね…。」
「でも、私が育った川には、食べられるお魚くらいしか
いなかったなぁ…。」
故郷をゆっくり思い出すように、リノンは言う。
「なんだか、こうやってお魚と触れ合ってると、
昔にお魚を取ってたこと思い出すなぁ…。」
「リノンの両親は漁師だったの?」
「うん、そんな感じ。
時々私も手伝ってたの。」
そう言えば、そんなこと言ってたなぁ…。
川の漁師なのだろうか?
どんな仕事なのか、想像できない…。
「魚を捕って稼いでたの?」
「うん、代々の漁師だったの。
私が16歳になるまでは、家の仕事継ぐって思ってたなぁ…。」
…そうか。
リノンは16歳の誕生日の時に、勇者って知らされてたんだった。
「勇者って聞いた時、どう思ったの?」
「なんか、めんどくさそうって…。」
「あはは…リノンらしいね…。」
「だって、いきなり『勇者』って言われてピンとくる?
私だって実感なかったんだから。」
確かに…僕もいきなり『勇者』って言われても、ピンとこない。
「お母さんは泣いて喜んでたけど…。」
「あはは…そうかぁ…。」
「そういえば、あの日記もお母さんが買ってくれたの。
普通のノートって思ってたみたいだけどね。」
「そうなんだ?
なぜ誕生日にノートなんて?」
「私の活躍を記してほしかったみたい。」
…活躍は…あの日記では見えてこなかったなぁ…。
毒針とドレスで戦う猛者ってぐらいしか…。
それでも十分だけど。
「そろそろ時間で~す!」
係の人に言われ、僕たちは足を上げて、
用意されていたタオルで拭く。
「ユウスケ、今度はどこに行くの?」
「じゃあ、さっき食べたタコとか見に行く?」
「うん!」
…食べたものを鑑賞するなんて…。
とは、僕も思ったけど、それも醍醐味かもしれない。
僕たちはドクターフィッシュのコーナーを後にして、
小水槽がある建物に向かった。