優しいお母さん
「ユウスケの、ばぁーか!!!」
私は、部屋で寝間着を着替え、出かける準備をする。
もう、今朝の雰囲気台無し……。
「……あれほど言ってるのに、まだわかってないんだから……」
着替えて、髪を櫛で梳かす。
本当に……。
「鈍感ユウスケ!!」
そうじゃなくて……って……何度言えば!!
なんだか、急に悲しくなる……。
なぜか、涙がたまる。
「なんでわかってくれないんだろう……」
急に涙がこぼれだす。
両想いのはずなのに……。
いや、もしかして私だけの片思い?
そんな気持ちに、苛まれてしまう……。
「ユウスケのバカ……」
私は、そっと櫛を置き、手を止める。
「リノン~! そろそろ出かけるわよ~」
お母さんの声。
「はーい! 今行きます!!」
そう返事をして、涙をぬぐって玄関に向かった。
「お待たせしました」
「二人で出かけるのは2回目ね」
お母さんと共に、家を後にする。
「リノン、どうしたの?」
「え? 何ですか?
「だってほら……目が赤いわよ?」
お母さんに指摘され、私はとっさに目をぬぐう。
「い、いや、何でもないです!!」
「ユウスケと……喧嘩でもした?」
優しく問いかける、お母さん。
「いえ、そうではないんですが……」
喧嘩……では、ないよね?
どちらかというと、私が一方的に……。
「じゃあ、歩きながらお話ししましょ? 今日は隣の街まで行くからね。制服、そこでしか売ってないのよ。」
「はい……」
私の短い返事に、お母さんは優しく声をかける。
「何があったの?」
「いえ……大したことではないんですが……」
私はぼそり、ぼそりと話しを始める。
「なんだか……ユウスケに…ユウスケさんに、私の気持ちが伝わってない感じがして……」
「うふふ。ユウスケでいいわよ? 気を遣わないで?」
優しく微笑みかける、お母さん。
そのやさしさに、私は甘える。
「そうね……。そういうもどかしさは、あるかもしれないわね……」
「え?」
私の心を見透かすように、お母さんは続ける。
「なかなか、気持ちって伝わらないものよ?」
「……」
お母さんは、私を諭すように、優しく言う。
「ちゃんと、言葉にして伝えたんですが……全然わかってくれなくて……」
「あはは……男って、そういうところあるわよね」
「そうなんですか?」
「うん、そうよ?」
優しい笑顔でお母さんは言う。
「焦ってもダメ。きっと時間が解決してくれるわよ? それにほら、実際に会ってからは、まだ間もないことでしょ?」
「そう……ですね……」
確かに、ユウスケと実際に会ったのは、10日前後くらい。
向こうの世界で長い間、日記で交わしてたから、その感覚が薄い。
まだ、こっちの世界に居るのが、夢心地……正直そんな感じ。
「……ユウスケの事……まだ好きでいてくれてる?」
「も、もちろんです! 大好きです!」
勢いよく言う私。
言ってしまった後で、恥ずかしさで赤くなる私……。
「そう……嬉しいわ。リノンがユウスケを、想ってくれることが……」
お母さんは、ゆっくりそして優しく、私に話す。
「その気持ち、大切にしてくれると嬉しいわ。リノン、あなたはユウスケに逢うために、遠い異世界から来たんでしょ? いつかリノンの想い、ちゃんと受け止めてくれると思うわよ?」
とても暖かい言葉。
私……焦ってたのかな……。
確かに、妄想ばかりが暴走して……今朝の夢だって……。
ちょっと思い出して、身体が熱くなる。
「元気出た?」
「はい! ありがとうございます!」
お母さんに感謝。
そう、私はユウスケに逢うために、こっちの世界に来たんだから……。
ユウスケの事で頭いっぱいで……。盲目してたかもしれない。
「よかった! 駅に着いたわね。切符買ってくるから、待っててね」
「はい!」
何だろう……。
お母さんに諭されて、すごく気分が楽になった……。
本当に感謝しなきゃだなぁ……。