リノンは元の世界に帰りたい?
僕はリノンの言葉を待つ。
「私としては、これ以上戦闘に巻き込みたくないなぁ……」
リノンは責任を感じているのだろうか? どことなく寂しそうな、それでいて申し訳なさそうな顔をしている。
「リノン……、そんなに責任感じることないよ?」
僕は優しく、リノンに声をかける。
「大樹を巻き込んだのは、僕のせいでもあるから。それに大樹は頼りになると思うよ?」
精一杯の言葉。
僕だって、大樹を巻き込んでしまった、罪悪感はある。
でも……。
「大樹は僕の幼馴染だし、それに……」
言葉が途切れる。
続きの言葉が言いにくい。
手を握り、必死に言葉にする。
「……3人パーティーだと、リノンは嫌かい?」
リノンは目を丸くする。
そう……リノンは、リノンの世界でも人見知りで、シルビィを仲間にするのにも、苦労している。
ひょっとすると、大樹にも……。
「大樹だって、ほら、仲間外れにするなって、言ってたじゃない?」
「でも……」
リノンは戸惑う。
「……人見知りって言ってたから、大樹が入るは嫌かい?」
「ううん……違うの」
リノンは短く返事をする。
「あんな良い人を巻き込んじゃって……。私……」
リノンの目には涙がたまる。
「気にしなくていいよ? 僕の責任でもあるからね」
「いや! それは私の……」
お互いに、責任を譲らない。
いや、僕の……。
「私が……こっちの世界に来ちゃったからだよ……」
リノンはうつむく。
「そうじゃないよ? だって、僕は来てくれてうれしいし、最後の呪文を唱えたのも僕だよ? だから、リノンだけの責任じゃないから」
こくりとリノンはうなずく。
涙が頬を伝う。
「僕も……会いたいと願ったんだから……」
そう……日記から出てきたリノン……。
まだ日は立ってないけど、僕はその時の気持ちを思い出す。
僕も、涙腺が腫れる。
「私……ずっと気にしてたの」
「何を?」
「こっちの世界に来て、本当に良かったのかって……」
やっぱり、故郷が恋しいのだろうか。
僕はそっと、リノンの涙を手で拭う。
「リノン……帰りたいの?」
「ち、ちが!!」
リノンは涙を引っ込めると、僕に怒涛のように話しかける。
「私は、こっちの世界にモンスターを連れてきちゃったのを、心配してるの! 帰りたいとか、そういうんじゃないんだから! むしろ……」
むしろ?
リノンが急に赤くなる。
残念ながら、そのあとの事は聞けなかった。
「とにかく、ダイキさんを巻き込むのが、私の悩みなんだから! 本当に……よかったのかって、気にしてるんだから……」
リノンは、またうつむく。
「じゃあ、大樹に聞いてみようか?」
「え?」
僕はスマホを取り出し、大樹にショートメッセージを送る。
・・・・・・
今日はありがとう。
モンスター退治だけど、大樹はどうしたい?
・・・・・・
手元にあったのか、メッセージにはすぐに既読の文字が付く。
・・・・・・
いや、ぜんぜん!
モンスターは俺も戦うよ?
だって、俺たち仲間だろ?
・・・・・・
……仲間……かぁ……。
リノンは、そのメッセージを見て、もどかしそうにする。
「リノン、大樹は仲間だって言ってるよ? リノンはどう思う?」
「……うん、うれしい……」
リノンは自分の罪悪感から、少し解放されたようで、安堵の表情になる。
「ねぇ……迷惑じゃない?」
「そんなことないよ? だって、もうリノン一人じゃないんだから」
「うん……ありがとう」
リノンは短く返事をする。
僕は大樹に返事を打つ。
・・・・・・
ありがとう。
リノンもお礼言ってるよ?
・・・・・・
「これでいい?」
送信する前にリノンに確認する。
「いいよ」
僕は送信ボタンを押すと、大樹からすぐにメッセージが届いた。
・・・・・・
今日はごちそうさま!
邪魔者は消えるよ。
・・・・・・
おごってくれたのは、大樹のはずなのに……。
首をかしげる僕の横で、リノンは微笑んでいた。