7:薄灰色の少年
目的地には着いたものの、すぐには外に出られなかった。例の大柄な男が服を着替えるよう言ったからだ。
男から渡された袋にはスポーツウェア一式が入っていた。フリースとTシャツ、ニット素材でできたトレーニングタイツ、ショート丈のボトムス、そしてサイズぴったりのランニングシューズだ。色はすべて玉虫色がかったネイビーで統一されており、メーカーのロゴやタグはなかった。
着替えを終えると、今度は猫くらいの大きさのメッシュの巾着袋を渡された。これもウェアと同じ、ネイビーだ。中を開けると、ガチャガチャといくつかのガジェットが入っていた。
「それはまだ身につけなくていい」
男は密島を車から降ろすと、軽く背中を叩いた。
「幸運を。あんたが優勝すれば、俺の元にも十五万が振り込まれるんだ」
男はそう囁き、ワゴン車は来た道を去っていった。
一人残された密島は、目をつぶり、軽く深呼吸をした。目の前に広がる背の高い針葉樹林の、青々とした森の匂いを口いっぱいに吸い込む。
心はどこか落ち着いていた。与えられた新品のランニングシューズが、長く履きなれた相棒のようにぴったり足にフィットしているからかもしれない。家を出てから今に至るまで、すべてのことがまるで夢の中の出来事のようで、現実味がまったくないせいもあるだろう。
(でもまあ……こういうは慣れてるから)
密島は軽く伸びをし、周囲を見回した。
辺りにそれらしき人間の姿は見つからなかった。少し待ってみたが、いつまで経ってもウェルカムボードを持って愛想よくこちらに手を振るホテルマンは現れそうにない。仕方なく、道らしき道もない森をまっすぐ歩きはじめた。
歩きながら、密島は周囲をつぶさに観察した。平地で勾配はほとんどないように思えるが、森の入り口からは緩やかな下り坂になっている。舗装された道はないが、地面は落ち葉と背の低い雑草で覆われており、歩きにくさはさほどない。木の生えている箇所はまだらだが、夜になれば月の光を遮るには十分な障害物となるだろう、と空を見上げながら思った。
空は澄み切っていた。雲一つない、気持ちのいい秋晴れだった。
そうして五分ほど歩いた頃、密島は少し先の木の下に緑色の何かが転がっているのが見えた。