5:甘党検事
真菜は直角に礼をし、自分のディスクに戻った。そして勝鬨から見えないパソコンの死角となる場所でスマートフォンを操作し、SNSを起動する。
(昼食時間に、上司にスターボックスの飲み物を頼まれて買いに行ったら、間違ってホイップクリームが入ってたみたいでメチャクチャ怒られた。でも、そんな呪文みたいなもの注文する方が悪いんじゃない?だいたいダイエット中なら戸棚の中にあるお茶でも飲んでろっての、っと)
高速で液晶画面をタップし、急いでスマートフォンをポケットにしまう。そのときふと目についた自分の手を見て、真菜はため息をついた。禿げたネイルがみすぼらしく指の爪の上にのっている。最近は終電続きで、休日は布団の上で寝ている間に終わってしまい、外に出かける回数も減っていた。
(一応ハナの二十代なのに、こんなに仕事ばっかしてていいのかなぁ……)
「日坂くん、ちょっと来て」
そんなことを考えていたら、いきなり勝鬨に呼ばれ、真菜は慌てて立ち上がった。
(まさかSNSのことがバレた!? いや、そんなはずないよね……?)
ドキドキしながらディスクに近づくも、その心配は杞憂に終わった。弁当を食べ終えたら、探してほしい事件の資料があるという頼みだった。
「あれ、この事件って……」
真菜はメモを見て首をかしげた。メモに書かれていたのは三年前、市内で起こった暴行事件の名前だった。些細な喧嘩から発展したよくある事件だったが、配属してすぐの事件だったため、わずかに記憶に残っていた。