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その話を持ってきたのは、密島が働いている「クリーニング・エデン」の呉田という客だった。
呉田は店の常連客だった。決まって週に二度ほど、杖を片手におぼつかない足取りで大量の洋服を持ってくる。それなりに裕福なのか、それとも初期の認知症でも始まっているのか、高級仕上げをすすめると断らないので、店主の東を始めとするパート軍団からはいいカモと思われているようだった。だが、それ以外はニコニコと愛想のいい、いたって普通の老人だった。
ある日の閉店間際、密島が一人で店番をしていると、いつものように汗染みのついた大量のYシャツを持って呉田はやってきた。会計を終え、レシートを手渡したとき、急に呉田が口を開いた。
「あんた、こういうもんに興味はないの」
言葉と一緒に差し出されたのは、何かのチラシのようだった。ど派手な色遣いに、一瞬パチンコ店の広告かと見間違えるもそうではなかった。チラシには大きな文字で「ゲームに勝って五億円を手に入れよう!」と書かれている。
「五億円、ですか」
「欲しくないかい」
「欲しいですね」
だがその会話のあと、呉田はぱたりと店に来なくなった。すっかり見なくなった呉田を心配して、「最後に持ってきたの、喪服じゃなかった?」などと東たちが不謹慎な噂話をしていた頃、密島の家のポストに見慣れない郵便物が届いた。