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スポンサーズ! 〜出演するだけで5千万円もらえるリアリティ番組が全然テ◯スハウスじゃなかった件〜  作者: キグルミ100パーセント
三日目・四日目 ~どうでもいいけど、七転び八起きって一回多くない?~
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ライディング・レイド



 笠原に誘われ、密島は飯盒炊飯のぶら下がった焚き火を前にして、切り株の上に座っていた。

 「お客さんだから」という笠原の言葉に甘え、どんどん暗くなる空を見上げながら、ただぼけっと座っていると、目の前ではてきぱきとした手順でどんどん夕飯の準備が進められていく。


「いただきます」


 目の前に皿いっぱいに盛られた白いご飯と、その上に並々盛られたスパイシーなカレー、そしてトッピングの温泉卵というメニューが置かれる。暖かいものを口に入れるのも久しぶりだが、いい食材を使っているのか、普段密島がアイボリーファラオで自炊する料理よりもずっといい食事だった。密島は腹をすかせた仔犬のようにカレーライスに文字通りかぶりついた。


「いい食べっぷりだねぇ。おかわりもあるよ」


 五分足らずで一皿目を食べ終え、おかわりをよそいながら、「美味しい」と密島は感想を言った。


「隠し味にコーヒーを入れるのがいいんだ」

「へえ」

「昔から料理のセンスだけはあってね。でも父からは男が料理なんてやるなってよく叱られたけど。昔気質な人なんだ。男は台所に入るな! とかね。まあ好意的に解釈すれば、母の仕事を奪うなって言いたかったのかもしれない」


 密島の感覚からすれば古風な人だが、笠原の親の年齢から言えばそう驚くようなことでもないのかもしれない。


「今でもしょっちゅう叱られるよ。同じ柔道関係の仕事だから、仕事でミスをすればすぐに父に話が伝わって、俺のメンツをつぶす気か! とかね。でも、逆にいい仕事をするとわざわざ電話で褒めてくれたりして。父親が同じ業界にいるのも善し悪しだね」

「ふうん」

「ところで、腰はもう大丈夫?」

「ああ」


 すっかり痛みも引いていた。さっき見たら、こぶし大の赤黒い内出血ができていて、腰に穴が開いたようになっていたが、三日もすれば無くなるだろう。


「それにしても面白い作戦だった。発煙筒がなかったら、逃げられなかったかもしれない。考えたのは笠原さん?」

「いやぁ、僕はあんなの思いつかないよ。たまたま森の中をウロウロしてたら、あの二人に誘われたんだ」

「じゃあ、考えたのは」

「いや、彼らも別の人から話を持ちかけられたみたいだ。パンピーさんってわかる?」


 密島は頷いた。女子大生発明家とかいう、あの赤いメガネの女だ。


「僕らはすべて彼女の指示で動いていたんだ。二人のうちの若くて眼鏡をかけている安藤くんって子がパンピーさんと通じているらしい。まあ僕はただ声をかけられただけだから、詳しいことは知らないんだけど」

「笠原さんは、仲間じゃないのか」

「うん。あのさ、密島くん……」


 急に笠原はスプーンを置き、真顔で姿勢を正した。顔の半分が焚き火の炎に照らされ、光と影の境い目で影が揺れている。


「僕は今、キングのカードを持ってるんだ」

「えっ……」

「でも狙われたくなくて、下位の数字のカードを持っているようにふるまってる。マウンテンバイクの彼らと一緒にいたのも、それを悟られないようにするカモフラージュだった。昼間伝えなかったのは、カメラに撮られてクイーンのプレイヤーに僕がキングであることを知られたくなかったからだ」


 パチパチと小枝の燃える音だけが静かな森に響いていた。


「どうして、それをわたしに教えようと?」

「キングにだけヒントを与えられるでしょう? そのヒントの意味を誰かに一緒に考えてほしかったんだ。一人じゃ解けそうになくて」

「でも、教えてしまったら、わたしがあなたからカードを奪うかもしれない」

「それでもいいよ。君は悪い人でもこわい人でもなさそうだから」


 答えに納得のいかない顔をしていると、「僕、意外と人を見る目があるんだよ」と笠原は頓珍漢につぶやいた。


「あと、僕は本当に五億円がもらえるとは思ってないのもあるかも」

「え?」

「実は、ゲームに参加する前に、去年行われたという一回目の番組について徹底的に調べ上げたんだ。大きい声じゃ言えないけど、僕の働いている団体はかなり仕事が暇でさ、使用の調べものをしていても仕事に支障がないから。でもどんなに情報を探しても、噂レベルのものしか出てこなかった。たった一年前のことなのに、だ。放送を見ていたという書き込みはほとんどが匿名掲示板のものだし、実際にSNSで放送を見ていたという人物を募集してメッセージを送ってみたけど、どうやらみんな別のリアリティーショーと記憶が混ざっている印象だった。そしてひたすら探し続けて、唯一出てきたのが短い広告動画だ」


 笠原いわく、その二十秒のスポットCMは、去年の夏にとある大型動画広告サイトで頻繁に流されていたのだという。


「タブレットと一緒にDVDが送られてきたでしょう? 去年の番組の冒頭十五分が保存されていたやつ」


 アイボリーファラオのスタッフルームで初田と一緒に見たDVDのことだ。密島は途中で見るのをやめたので知らなかったが、あの動画は冒頭十五分しかなかったらしい。


「そのCMで映った本放送の映像は、何度確認してもすべて冒頭シーンのものだったんだ。さらに、実はたまたまよく行くバーで知り合った人で、ドラマや映画に出るエキストラの派遣の仕事をしている人がいたんだけど、僕がゲームに参加することを話したら、興味を持ってくれてね。その人に動画を見せたら、なんとその人の担当エキストラによく似た人物が動画に出ていることがわかったんだよ。それで、そのエキストラの仕事をしている人に話を聞きに行ったのだけど……」

「なんて」


 密島が前のめりになって訊ねると、笠原は肩をすくめた。


「契約で番組に関することはしゃべれないと言われてしまった」

「そうか……」

「ただ、その人はエキストラは副業で、本業は結構特殊な仕事をしている人だったんだ。僕が思うに、十日間も連続で休みが取れるような仕事じゃない」

「つまり……?」

「あれはエキストラを使って作られたニセの広告動画だと思う。一回目の番組は、実際には存在していない可能性が高い」


 どういうことだ。そうなれば、優勝して五億円をもらったという後藤田は、嘘をついてることになる。すると笠原は指を顎にあて、「後藤田さんは仮面の男の仲間なのかも」とつぶやいた。


「だって、僕らプレイヤーが報奨金五億円なんていう与太話をこうして信じているのも、ひとえに去年実際にゲームを参加したという彼の存在が大きいでしょう?」

「それはそうだけど、仲間と断定するには早急すぎる」


 後藤田は仲間ではなく、エキストラと同じく謝礼をもらって嘘をついているという可能性の方が高いように思えた。前科持ちである過去までネットに晒されているのに、わざわざそんなゲームを自分で企画し、参加するという意味がわからない。そう反論すると、笠原も「たしかにその通りだね」と同意した。


「ヒントを見せてもらっても?」

「どうぞ」


 笠原は見やすいように密島の隣に移動すると、タブレットを操作した。

 すぐに黒い画面に白い文字が浮かび上がった。


 〔シーラカンスが崖から落ちた〕


「なんだこれ? シーラカンスって?」


 密島は困惑して眉をひそめた。てっきり座標だと思っていたのだ。


「僕もよくわからなくて。池を調べたり、崖がないか探したりしたんだけど、それらしい物は何一つ見つからなかった」

「DT、このヒントから連想できる言葉の意味をできるだけたくさん調べておいてくれ」

〈了解しました〉


 一体どういう意味だろう。首をひねっていると、遠慮がちなDTの声がした。


「あの、みっちゃん、もし笠原氏の推測が正しく、エースが初めから五億円なんて与える気がないのなら、ヒントにも意味はないんじゃないでしょうか〉

「そうかもな」

〈それに……〉

「なに?」

〈後藤田氏ではなく笠原氏が嘘をついているということも一応考慮に入れられた方がよいのでは……〉

「なるほど。それについてDTはどう思った?」

〈わたしは単なるオペレーターAIですので……〉

「いいじゃないか、参考までに教えてくれ」

〈……怒りませんか?〉

「ああ」

〈本っ当に怒りませんか?〉

「くどいな。なんだよ」

〈……みっちゃんの意地の悪いジョークにあんなきれいな涙を流せる人が、嘘をつくようはずがないと思います〉


 それを聞き、笠原は派手に吹き出した。


「君のオペレーターはなかなか素直みたいだ」


 笑いが止まらず、腰を抑えながらヒイヒイと悲鳴のような笑い声を出す笠原に、スピーカーモードから切りかえながら、密島は大きく眉を寄せた。


「お前さ、結構わたしのこと嫌いだよね?」

〈そ、そんな、滅相もございませんよ、ボス〉

「下手くそが」

「密島くんとDT、楽しそうだねぇ」

「楽しくなんかないっ」


 噛みつくように叫び、密島は冷えてしまったカレーライスを口の中にかっ込んだ。



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