1.車内
密島ユウキは、目隠しをされ、車に揺られていた。
もう二時間はそうしているだろうか。時間の感覚はとっくになくなっており、どこを走っているのかの見当もつかない。
体感だと、およそ一時間前、密島を乗せた車は高速道路に入ったようだった。少しだけ空いた窓のすき間から、料金所のレバーの上がる音がわずかに聞こえ、その後はたまに車線変更をするだけで車体は真っすぐ安定した様子で風を切っているからだ。
カーステレオからは古い洋楽が流れていた。世界中で歌われる名曲で、同名映画のテーマ曲としてもよく知られている曲だ。だが、今の密島の気分にはその黒人歌手がソウルフルに歌いあげるR&Bはそぐわないものだった。少なくとも、死体を見つけに行くのでもない限りは。
とはいえ、密島本人にもこれから自分がどこへ連れて行かれるのか、また着いた先に何が待っているのか、まったく知らされていないのだが。
迎えに来たのは黒いワンボックスカーだった。乗っていたのはプロレスラーのように屈強な体をした男が一人だけで、密島を後部座席に座らせるなり、男は狭い車内を窮屈そうに移動し、密島の顔へと手を伸ばした。
「失礼……」
「やめろっ」
密島は反射的に男の手を払い、反対の手で男の腹に拳をぶつけようとした。もし寸前のところで
「あの、移動中の道を見せてはいけないっていう決まりで……」
という蚊の鳴くような声が聞こえなかったら、そのまま男を殴り、車から逃げていただろう。
「それを先に言え」
男は明らかに怯えたような様子でそっと密島にアイマスクを装着すると、逃げるように前の座席へと戻っていった。
「い、いいと言うまで取らないでくださいね」
「ああ」
車内での会話はこれだけだった。本当はほかにも色々と質問したかったのだが、出発時のこのちょっとしたトラブルによって、それは完全に不可能になった。
よって今できる最善のことは、仏像のようにじっと黙って、怯えたドライバーがハンドルをあらぬ方向へと切るのを防ぐことそれだけだ、と密島は結論づけた。
車はどうやら高速道路を降りたようだった。酔いそうなカーブの連続のあと、信号か何かで車は一旦停止した。
真っ暗な視界は少しでも気を抜くと眠くなってくる。家を出たのは朝の七時半だ。朝食に食べたおにぎりが腹にたまり、そろそろうとうとし始める時間だった。密島は欠伸をかみ殺すと、寝てしまわないよう、なぜ自分がこの車に乗ることになったのかという経緯を思い出すことにした。