表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スポンサーズ! 〜出演するだけで5千万円もらえるリアリティ番組が全然テ◯スハウスじゃなかった件〜  作者: キグルミ100パーセント
二日目その二 ~血は水より濃いかもしれないけどデルモンテのトマトジュースより薄い~
28/41

27:本当の涙



 翌朝、東の空がようやく赤く色づき始めた頃、密島は池のほとりにいた。


 横に並んで歩き始めた密島を見て、成見は一瞬驚いたような顔をしたが、結局何も言わなかった。


「知らなかったの、結婚してたなんて」


 しばらく歩いたあと、まるでひとり言のように前を向いたまま成見はそうつぶやいた。


「わたし、片親育ちって言ったでしょう?」

「ああ」

「小二のときにその親に捨てられて、子供のいなかった夫婦に育てられたの。そのがね両親ね、すごく仲が良いんだ。小さな頃から、大きくなったらこんな家庭を作りたいって思ってた。それなのに結果はこれ。わたし、人を見る目がないみたい。離婚した夫も、普段は優しいけど、怒ると手がつけられなくなる人だったし……」


 そう言うと、成見は唇をぎゅっと噛んだ。

「両親が弱音を吐いているところなんて、一度も見たことない。本当にできた人たちなの。それなのにわたしは、大人になればなるほど、どんどんあの女に似てくる」

「あの女……」

「わたしを捨てた女。あの女もそうだった。男を見る目がなくて、自分を大切にする気のない男とばっかり恋人になって、捨てられての繰り返し。挙句、自分が産んだ娘の面倒すら嫌になって、子供を捨てたのよ」


 成見の目には怒りと共に怯えがにじんでいるように見えた。自分を捨てた母を、ああはなるまいと思えば思うほどに、同じ道を歩んでいるような気がしてしまう恐怖が。


「SNSに書いてあった。母親が恋なんかするなって」

「そんなのっ……」

「腹立つわよ。人間なんだから、恋ぐらいさせてくれって思うわよ。でも、悔しいけど、その通りかもって思っちゃった。わたしが恋愛なんてしなければ、炎上することもなかった。それにこのことが息子の耳に入ったら、きっと辛い思いをすると思う。わたし、母親失格ね」


 成見は静かに笑った。その手に塗られたマニキュアはところどころまだらにはがれていた。


「それはあなたが決めることじゃない」

「じゃあ誰が決めるの?」

「息子さんでしょ。あなたでも、わたしでも、もちろん画面の向こうの知らない世間の人間たちでもない。あなたは、あなたの息子にとってたった一人の母親、でしょ」


 成見は何も答えなかった。何も言わず口を固く引き結び、ただ黙ってゆっくりと瞬きを重ねた。そして一度俯き、小さな息を吐いた。


「わたしも十八までずっと病院で過ごしてきたから、息子の気持ちが少しだけわかるんだけど……。たぶん、あなたの息子は自分の母親が自分のことでいっぱいいっぱいになってるのに気づいたんだ。でも自分は何もできない。だから、お父さんが欲しいって言ったんじゃないかな。あなたの力になってくれる、お父さんが欲しいって」

「そんなの……」


 成見はふっと力が抜けるように前へ倒れこんだ。あわてて支えると、腕の中で声を押し殺し、その細い肩を震わせていた。泣いているのかわからなかった。だが昨日のウソ泣きに比べればずっと真実味のある泣き声だった。


「もう……平気なの?」

「何が?」

「入院してたって」


 涙でぐしゃぐしゃになった成見の顔を見て、密島は思わず吹き出した。


「どう見ても平気でしょ!」

「そうだね、ごめんね。でも仕事柄つい心配しちゃうのよ、ひとん家の子でもさ」

 もう二十歳も越えているんだけど、と思ったが、今度は口には出さなかった。


「きっと似た者親子なんじゃないかな」

「そう?」

「そうですよ。息子さんそっくりなわたしが言うんだから、間違いない」


 すると、成見が立ち上がりながら、ぷっと吹き出した。


「それね、よく見たら、全然似てなかったの」

「……は?」

「ほら、おばさんになると、若い子ってみんな一緒に見えるでしょ? たぶん、うちの子が成長したら、密島くんよりもっと男前になると思うのよね」

「これだから親バカは……」

「でもありがとう」


 そう言うと、成見は手をふって森の出口の方角へ走っていった。その後ろ姿が小さくなるまで、密島はずっとそこに立ち尽くしていた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ