21:ネクスト・ターゲット
DTが用意した一覧の中で、密島はとあるプレイヤーに注目した。
「この成見ってプレイヤー、はじめに八重咲寧々との勝負に勝ってカードを交換してあとは、二人のプレイヤーと遭遇している。でも、どちらにも自分の方がカードが強いと言って勝負を断っていた」
〈キングのカードを持っている可能性はありますね〉
「成見幸、東京都出身、十歳の子供がいるシングルマザーか」
公式サイトに書かれたプロフィールを読み上げる。どこにでもいそうな、明るい雰囲気の笑顔の女性が映っていた。特に特筆すべき点も見当たらない。しいて言えば、顔が年齢よりもやや老けているような気がするところくらいだ。
〈でも……駆け引きが上手い、ということも考えられますが〉
「そうか?」
DTの言い方に、どこか否定的なニュアンスを感じ取った密島は、「このプレイヤーをターゲットにするのに何か問題でもあるのか?」と聞き返した。
〈正直に言えば……〉
DTは若干言いづらそうに、ぐずぐずと言葉を濁した。
〈この成見幸というプレイヤーを今の段階でターゲットとするのはあまりおすすめできません。彼女は「いいね」の数が1889なのに対し、「う~ん」が53と、マイナス票が異様に少ないです。また、この「いいね」の数は、著名人である比留間崇成や高屋聡に追いつきそうな数字です〉
「なぜだ? ただの一般人だろう?」
〈それは恐らく……〉
DTの話を聞いた密島は、なるほど、と素直に頷いた。二人のプレイヤーが成見を避けた理由がわかった。
「でもこのおばさんがキングのカードを持っていたとしたら、結局いつかは狙わないといけない。なら、早い方がいい」
密島が準備をしてテントを出ると、イヤホンからクスクスと笑い声が聞こえた。
「なんだ?」
〈いえ、みっちゃんのことが少しずつわかってきたような気がします〉
「あっそう」
早朝の森を歩きながら、密島はDTに訊ねた。
「もし自分がキングのカードを持っていたらどうする?」
〈わたしなら派手な動きは避けるでしょうね。自分以外の全員がキングのカードを血眼になって探しているのですから。どこかにひとまず隠れるかも〉
「体力や運動神経のよくないおばさんなら尚更だよな」
歩きながらタブレットを操作し、成見幸の購入履歴を見る。食料と日用品があるだけで、特に目ぼしい履歴はない。
〈でも隠れる場所といっても、木の上に上るか、地面に穴でも掘るかしかありませんね〉
「DTならどっちにする?」
〈木の上でしょうか。その方が敵の存在を監視することも容易ですし〉
「一理ある」
密島はそうつぶやくと、背の高い針葉樹林を目指すため、くるりと踵を返した。




