15:最初の相手――上島陽一
木から降りると、密島は早速辺りを散策し始めた。芝生に出るまではスギやマツなどの背の高い針葉樹の森が広がっていたが、芝のこちら側は生えている木の種類がちがっていた。クスノキやコナラなどの広葉樹が生えた雑木林で、木々の間には笹がうっそうと生い茂っている。身をひそめるには好都合だが、歩き回るのには不便なエリアだ。
雑木林の中を歩いていると、たびたび目立たないよう木の枝の陰に取り付けられた監視カメラが目に入った。
初めはいちいち位置を確認していたが、途中でそれが無駄だと気づいてやめた。設置されている間隔から推測するにカメラは二千台以上あり、それらが終始プレイヤーたちを監視している。
四六時中誰かに見られているというのは、あまり居心地のいいものではない。そわそわと落ち着かず、心が休まる暇もない。おちおちくしゃみをすることも鼻をかくこともままならない。
「だがこればっかりは、慣れるしかないか……」
密島は空を見上げ、そうため息まじりに呟いた。
空は朝から晴れていて、今もすっきりとした青い秋晴れが広がっている。まさに行楽日和という陽気だ。
(こんな空の下で飲む挽きたてのコーヒーはさぞや美味しいだろう……)
そんなことを考えてぼんやりしていると、突然背後から妙な音が聞こえてきた。ブーンというクマ蜂の羽音によく似た低音だが、それにしては音があまりに大きすぎる。
木の陰に隠れ、葉のすき間から上空を窺っていると、現れたのはドローンだった。四つのプロペラがついており、紐がつけられたダンボール箱を吊るしている。ドローンは頭上を越え、南の方角へ飛んでいった。
そのとき、「ピコン」というやや間の抜けた音と共にポケットの中に入れていたタブレットが振動した。画面に表示されている一通の通知をタップすると、
【14:15 たかぽんさんが“コントレックス(1.5l)”25本4.529円を購入しました】
という文字が浮かび上がった。
どうやらプレイヤーの行動はこの薄型タブレットを通して、参加者全員に知らされるようだ。さらに厄介なのは、ドローンの飛んでいった方角を見れば何を手に入れたかだけでなく、そのプレイヤーの居場所までわかってしまうということだ。




