8:薄灰色の少年
近づいてみると、それはしゃがんだ人だった。
「どうした? 大丈夫か」
「あ……ちょっとお腹が痛くて……」
冷や汗をかき、青白い顔でこちらを見上げたのは、まだどこか幼さの残る、頬にそばかすを散らした少年だった。ゲームの参加者だろうことはすぐにわかった。なぜなら少年もまた、密島とまったく同じウェアを着ていたからだ。ちがうのは色だけで、玉虫色がかっているのは同じだが、少年のものは全体的に黒に近い深緑色をしていた。
「飲むか?」
持っていたペットボトルの水を差し出すと、少年は一瞬躊躇うような顔をしたが、ごくごくとそれを飲んだ。
「あの、俺なら大丈夫なんで、先に行っていいですよ」
「そうか。でも森の中で、一人で休んでいるのも心細いだろう」
と言っても特にすることもなく、かといって初対面の、まして腹痛の相手にぺらぺらと話しかけるわけにもいかない。密島は少年の隣に胡坐をかくと、居眠りをした。
しばらく休んだあと、膝を軽く払い、少年が立ち上がった。
「どうもありがとうございました。俺、御堂光と言います」
御堂と名乗った少年はハキハキとした口調で、ぺこりと頭を下げた。先ほどまでの病人のような顔色の悪さも薄まり、わずかだが血色も戻ってきている。よかった、と密島はほっとした。
「密島さんって、変な人ですね」
「変?」
「普通なら置いていきますよ」
そうかな、と答えながら、内心苦笑する。御堂を置いて行かなかったのは、御堂を心配したのではなく、どこへ向かったらいいのかわからなかったからだ。だが御堂は人懐っこい仔犬のような顔で、「嬉しかったです」と笑った。
「君はいい子だな」
「そうですか?」
「たぶん」
そう答えると、御堂はおかしそうに笑った。
「……よく言われます、いい子だねって」
「え?」
「それにしても、なかなか着きませんね。森を三十分歩いたところがスタート地点って言われたけど」
「そうなのか?」
密島が驚いて聞き返すと、御堂はきょとんとした。
「僕を乗せてきてくれた車の人からそう聞いてますけど……」
……あのデカブツめ。
心の中で車の男に悪態をつく。もしたまたま御堂と出会わなければ、優勝どころか危うくゲームに参加すらできないところだった。




