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言葉を重ねるしかないんだ(一日一詩(あくまで目標)

ポニー・テイルズ・テイルズ

作者: ふにゃこ(水上える)

自分に色がつきはじめた子供の時分

長く伸ばしたつややかな黒髪が私の自慢

ひとつにまとめて高く結い上げ

ポニーテイル

揺れるたびなにか誇らしい

私の他のどの部分より

その髪に存在する「私」という色


クラスの女子がある日言った

「知ってた?

 ポニーテールって、馬の尻尾って意味なんだって」


それを聞いたお調子者の男子が騒ぎ出す

「尻尾なの!それ、馬の!馬の尻尾!

 てことはそれがはえてるおまえの頭は馬の尻なんだな!」


その日からわたしのあだ名は

うまのけつ


ああ、なんてこと


みつあみにしても

ふたつに結っても

ばっさり短く切ってしまったあとまでも

もうずっとうまのけつ


私の色は馬のけつの色


嫌気が差して

やがて自慢の髪さえ伸ばすのをやめた


さあ、けつの友達だからなかよしさんは

うんこ しっこ たまきんにふぐり


げらげら笑って自分からさえ名乗り出す

海美ちゃん うんこ

静香ちゃん しっこ

珠姫ちゃん たまきん

未来鈴ちゃん ふぐり


ああ、なんてことよ

そんな言葉ばっかり毎日呼ばれて呼ばされて

だからわたしは日本語がだいきらい


10年経って20年経っても

うんこ しっこ たまきんにふぐり

二十歳を過ぎて三十路になっても

うんこ しっこ たまきん ふぐりは結婚してハブられた


彼氏の前でートイレ行くのちょー恥ずかしいーとか言ってる

うんこ


「片手落ち」って言葉は差別用語だから使っちゃいけないんだよ、

なんて難しい顔で人に諭してる

しっこ


その口で平気でいつものあだ名を呼び合うのね

もう習慣だからなしくずしにね

おかしな人たちと思うことも多いけれど

なんとなく昔からつるんだまんま


でもある日ね

唐突にそれは私の目に飛び込んできた

街頭の巨大なスクリーンで

全力疾走する馬たちが


なにかのPR動画だったのだろうけれど

なんのPRなのかすら頭に入らなかったほど

その馬たちは輝いて見えて


なんて美しいのだろう

息が止まるかと思うほど

立ちすくんだようにして私は

見入った


しなやかでいて力強い躍動感

波打つ筋肉、背中、足、臀部も、跳ねる尻尾も、なにもかも


震える心が止まらないまま

「馬のお尻ってすごいきれいだった!」

報告したらうんこもしっこもたまきんも大爆笑で

私は悲しくなったので帰ってからふぐりに連絡を取った


ひさしぶり、と苦笑い気味に

けれど馬の話をすると、ふふと微笑んだ

「私もね、オオイヌノフグリっていう、素敵な花があるのよ」

それは美しいブルーの可憐な花、別名は「星の瞳」


「旦那の前ではいつものあだ名で呼ばないでほしいって、

 しーちゃんに言ったら疎遠にされちゃった。

 でもね、私は旦那を選んだの。

 あだ名がふぐりだって聞いてもふつうに笑ってくれた。

 花言葉まで教えてくれて、こう言ったのよ」


 『忠実』『信頼』『清らか』


 『君がふぐりでもかまわないよ。僕の君への気持ちにぴったりだ』

 

ああ、なんて素敵な言葉!

やっぱりわたしは日本語がだいすきよ


「なにか、見つかるようにできてるのかもしれないわね、

 こういうものってね」


ふぐりが美しかったり馬の臀部が美しかったり

世界は美しくて私たちはそのほとんどの美しさに気付いていない


日常の引っかかるなにかを、ひとつずつ拾い直しては

海辺の貝殻を確かめるみたいにして

自分に、色をつけていく

見つけて選んで、自分の意思で塗っていく

自然に色づくだけの幼少期はとっくに終わっていたの


力強く地を蹴る牝馬を目指して

全力で振り切って走るあの高みを目指して

そうね

また髪も伸ばすわ



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