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3 クエスト

 自分の職業に歓喜していたシンとは対照的に、ニアの思いは嬉しいような嫌なような、複雑な気持ちだった。


 元々個性的な職業ジョブを求めていたのでEPS(炸裂)というステータスを伸ばしていたのだが、それでも爆弾屋ボマーは個性的過ぎる。

 例えば、爆弾屋という職業を売りに仲間を作ろうとしても、上手くいくとは思えない。


「でも、爆弾屋ってなんか良さそうじゃねえか? それこそ、オレの重騎士タンクナイトだって名前だけ見れば個性的だけど、その内実は普通のMMOならまさに盾役ってとこだし」


「まさか君に励まされるとはね……」

「何だよそのコメント、ひっで」


 シンは『じとっ』とした目でニアを見る。

 ま、いいけど。シンはそう付け足して、


「実際職業名なんて対して意味はないだろ。問題はスキルだよ。スキル」


 シンは左手を広げてメニュー画面を呼び出した。スキル欄を見ようとしているようだ。


 ニアもシンに合わせて、メニュー画面を出す。

 そのままスキル欄を開くと、旅人ピルグリムで獲得した基本スキルが表示された。

 ニアは画面をスクロールして、一番下まで見た。


 一番下の欄には――〈燃える屍〉というスキルがあった。

 それは基本スキルではなかった。恐らく爆弾屋の職業専用スキルだ。


 ニアはその欄を右にスワイプして、スキルの説明画面を表示させた。

 そこには、〈燃える(バーニング)コープス〉と書かれており、その下には、


『使用者から最も近い距離の戦闘不能状態モンスターを発動から一定時間後に中規模爆発させる。使用者以外を攻撃対象とする』


「死体蹴りだ……」

 かなりむごい。それに、扱いにくそうなスキルだった。


「うおっ……なんか微妙なスキルだな……」


 ニアの開く説明画面を、横からシンが覗いてきた。


「そんなこと言うシンはどうだったんだ?」

「オレ? オレはなんというか、思ったより普通だったな。〈守りの(シールド)一撃(アタック)〉っつー、言ってみれば盾での物理攻撃だな」


「地味と言えば地味だけど、便利そうなスキルじゃないか」

「まあ、正直ステータスの方がビビったわ。DEF(防御)が旅人とは段違いに高いしさ」

 シンは「そうだ」と声を漏らした。少し目が光り輝いている。


「オレからちょっと頼みがあるんだよ」

「頼み? なんだ?」


「あー、待った。頼みって言うのはちょっとニュアンスが違うかも……そうだ、誘いっていうのが正しいな。一狩行こうぜ! っていう誘い」

「もしかして、討伐クエストか?」


 このゲームにも他のMMOゲームにありがちなクエストというシステムがある。

 クエストは一般クエストと特殊クエストに分かれていた。

 NPCノンプレイヤーキャラクターが依頼した討伐や探索等が一般クエスト、PCプレイヤーキャラクターが依頼したものやゲーム内のイベントに近いものが特殊クエストとなっている。


「そうそう、察しがいいな。今の新しい職業のまま、一人で討伐とか行くのはリスキーだろ? だからニアを誘ってるんだよ。ま、こないだのトレインの詫びもしてないままでこんなこと言うのは酷いかもしれないけど」

「いや、別にトレインのことはもういいんだけど……そうだな。行くか。どんな職業でも、使ってみないことにはわからないし」


 そう言って、ニア達は教会を後にした。


◇◆◇◆


 ニアとシンはそれぞれ、討伐クエストの掲示板を眺めていた。

 掲示板にはおおまかなタイトルの付いたクエストが大きな張り紙のように載せられている。

 PCがそれに触れれば、クエストの概要がわかるという作りになっていた。


 ニアはふと、『ウェアウルフ駆除!』というクエストに触れた。

 概要を見ると、そのタイトルの通りウェアウルフの駆除についてのクエストだった。

 3匹倒せばいいようだが、その報酬額は1000ピア。はっきり言えばシケていた。


 このゲームは宿屋代が大体100ピア、初期装備のロングソードが300ピア程度で、かなり日本のRPG、つまりJRPGの貨幣価値に似ている。

 ちなみに、このゲームは前述のピアが基本通貨である。


「こっちのクエストなんかいいんじゃねえか?」

 シンはそう言って、ニアを手招きする。強引に手を引っ張ってきそうな性格だが、意外と普通だ。


 シンが表示させていたのは『ゴブリン大量発生!』というクエストだった。

 『ゴブリン』は比較的弱いモンスターで、そこまで経験値も多いわけではない。その割にパーティーを組んで戦ってくるのが厄介だ。


 しかし、シンと一緒にやるのならばソロとはわけが違う。

 一人ならかなり囲まれて後ろから叩かれやすいが、二人ならば最悪背中合わせで戦うことができる。


 クエストの内容は、街の北にあるモルワール坑道に大量発生した『ゴブリン』を討伐するというものだった。

 『ゴブリン』一体につき300ピア。何匹倒しても報酬をもらえるらしい。

 『ウェアウルフ』よりは間違いなく弱いのに、一体単価は大して変わらない。


 このクエストはいいかもしれない。

 ニアはそう思った。


「そうだな。じゃあ、これにしようか」

「おう!」

 シンはそう言って、そのクエストにもう一度触れた。


 そうすると、『このクエストを受けますか? はい いいえ』という画面が出てきた。

 シンは『はい』をタッチした。


◇◆◇◆


 ニアとシンはサザランド北に位置するモルワール坑道を歩いていた――のだが。


「何もいねえな……」


 シンはそう言葉を漏らした。

 ニアもそれに頷く。


「ちょっと変な感じだ……」


 薄暗い坑道内には、何も、誰もいなかった。

 『ゴブリン』はおろか、本来生息しているはずのバッド系のモンスターさえいない。

 明らかに不気味だった。


 『ゴブリン』が大量発生しているというクエスト内容も怪しいものだった。

 もしかすると、すでに狩り尽くされた後だったのかもしれない。


「まあ、一応もう少し進んでみようぜ」

 シンがそう言うので、ニアももう少し進んでみることにした。

 よく見ると、シンの顔が少し暗い。眉間にしわが寄っている。警戒しているのだろうか。


 やがて、十字型になった道に辿りついた。


「おい」

 シンが小さく声を漏らした。

「どうした」

「ゴブリンだ!」シンが右上を見ていた。

「え?」

 ニアは自分の視界右上にあるHPゲージの近くを見る。

 ゲージの下のモンスターの敵数を表示する場所に、ゴブリン×1と書かれていた。


 ニアは十字路を見渡した。

 視野が暗いせいで遠くまで見えないが、どこからも『ゴブリン』は来ていないように見えた。


「どこからだ……」


 その時、僅かな『がりっ』という小さな音が響いた。


「――上だ!」

 シンが叫ぶ――同時に剣を抜いて空中を斬り上げた。

 天井から降りてきた『ゴブリン』の腕が瞬間、斬り落とされた。

 ニアは驚愕の表情を見せている間に、腕を斬られた『ゴブリン』が逃げて行った。


「なんとかなったか……」

「いや、まだだ!」

 ニアはそう言われて、再びモンスターの数へ視線を移し――目を見開いた。


 そこにはゴブリン×15という文字が載っていた。


 十字路のそれぞれの道から、ぞろぞろと『ゴブリン』が出てきた。

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