14.5 無
「分かった! あとでまた文句は言わせてもらうぞ、ニア!」
サクノはそう言って、スピードを緩めずに走っていく。
ニアが止まったのに引っ張られたのか、シン、姫、クラトの走る速度は落ちている。
そのせいか、いつの間にかサクノが一番前を進んでいた。
サクノの後姿を見て、シンと姫は走るスピードを上げた。
シンと姫は、これがゲームであることが分かっている。
どうせ後で会えばいいという発想が出てくるのも当然だ。
「ニアさんを置いてきて大丈夫なんですか? 一人じゃとても太刀打ちできるような相手ではないような……」
クラトは不安げな顔でサクノに訊いた。
――さて、どう説明しようか。
当然、このゲームをプレイしているわけじゃないNPCのクラトは、サクノ達とは状況が違う。
この世界で死ぬこと、イコール、本当の死。それがNPCにとっての真実だ。
そして、NPCと死に関係する、ある現象についてサクノは知っていた。
その時だった。
――強烈な爆裂音が、サクノ達の背後で響き渡った。
思わずサクノも振り返り、あれだけ力強く地を蹴っていた足も不意に止まってしまった。
巨大な爆発に目を奪われる。
【クエスト『巨大肉食恐竜を撃破しろ』を達成しました】
という文字がサクノの目の前に現れた。
けれど、その時のサクノには、それが辺りに落ちている小石のようにどうでもいいことだった。
爆発の中心には火炎が発生し、そのままそれは爆煙と共に、宙へと浮かんでいった。
そして、見えた世界には、
何もなかった。
ほんの数十メートル近くまで、黄色い地面の荒野が広がっている。
しかし、そこから先は無だった。
例えるとすれば、それは銀世界のようだ。
雪が降っているとか、そういうものではない。
色が白しかないのだ。モノクロから黒という色をなくしたような世界。
さっきまで走っていた荒野が嘘だったかのように、地面が白い円の形によって削り取られている。
無が生まれた。
サクノはそう思った。