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11 エピローグ

「サクノ。さっきの杖の打撃、どういうことなんだ?」

 ボスモンスターを弾き飛ばすような攻撃なんて、普通ならばありえない。


 サクノはふぅと溜息を付きながら、地べたに座り込んでいる。そしてずれた白い帽子を手で直していた。

 サクノの体の輪郭は、紅になっていた。


「どういうことって……ああ、あれは〈アサルター〉と〈チャージ〉をそれぞれ重ね掛けして、最後に〈バーサク〉を掛けたの」

「〈アサルター〉は攻撃力を上げる術、〈チャージ〉は次に放つ一撃を強化する技……だったよな?」

「そうね。〈バーサク〉は攻撃を上げる代わりに術及びスキルを使用不可にさせる、言ってみればリスキーすぎる術よ」

 サクノが言った。


「今更女言葉にされても困るんだけど……つまりさっきのは、補療師エイダーの専用センスがあるからこその芸当か」

「あー、ちょい待てよ。つかまず専用センスってなんだよ。オレにも、ニアにも、あと旅人ピルグリムの姫にもそんなのないじゃねえか」


「専用センスね……それを説明するのは難しいな。ある時、目覚めたって感じだから」

「目覚めた? ……伝わりにくい説明ね」

「そうとしか言えないから……突然重ね掛けできるっていう、感覚が頭によぎったんだ」


「第六感……みたいなものか」

 フルダイブ型のVRMMOは脳に直接アクセスしている。

 逆に言えば、脳に情報を流して錯覚させることもできるかもしれない。



 結局。崩れた道から迂回して、ニア達は火山の外に出ることが出来た。

 クエストもそこで終了となり、貢献度の高かったニアとサクノがドロップアイテムの報酬を受け取り、ボスモンスターの経験値はあとでパーティに分配された。姫のレベルも職業ジョブを得る一歩手前まで行った。


 その日は、それで解散になった。


◇◆◇◆


 問題は次の日だった。


「第一回〈Eternal Job Online〉、身内だらけでやっちゃうよ? オフ会ぃぃいいい! あげてくぜえええええ!」

「いぇーい!」

「うるさいわね……」

「というか、あの変な男の人、誰なの? お兄ちゃん」


 やむを得ず約束をしてしまったオフ会は、四者四様の滑り出しだった。

 会場は柳浦高校最寄り駅の近くにあるカラオケ屋だった。


 出鼻を挫かれるような2つの発言を颯爽と無視して、

こんオフ会、司会を勤めますは皆さんご存知サクノでーす! 職業ジョブ補療師エイダー、あとパーティーの女房役やってまーす! 現実リアルでは柳浦高校の学生。佐久間宏之でーす! 学校では帰宅部のエースやってまーす!」


「わー! 色々と突っ込みたいところがあるけど、まずはなんでオフ会の会場が一次からカラオケ屋なのか教えて欲しいなー!」

 道人が佐久間に合わせて大声で言った。

 直後に隣に座っている真姫に「チカうるさい……」肘鉄を食らって席で悶絶した。

 道人の姿を真姫は満足そうに見ていた。


「叫んでも大丈夫だからでーす! あと安いからでーす! さあ次は君の自己紹介の番だ!」

 佐久間が道人を見て言った。

「ニアです……柳浦高校2年……近田道人です……えっと……他には特にないです……」


「んじゃ次は隣の人!」

 佐久間が真姫に目を合わせずに言った。まだ目を合わせられない程度にはビビッているようだった。

「永井真姫よ。あとは他の二人と同じ。以上よ」

「わぁ、とても簡潔! そういう態度、俺も好感持てちゃうよ?」

「早く次行きなさい」

 ピシャリと言い放たれて、佐久間は少ししゅんとした雰囲気となった。


「はいごめんなさい。じゃあ次どうぞ」

 佐久間が同じソファに座っている心へと視線を移す。

「――シンです。本名は近田心。柳浦高校の1年です。よろしくお願いします――がそこの人にはよろしくしないです」

 びしっと心が真姫を指差す。


「あら。いきなり不躾な態度ね。チカ、あなたの指導が行き届いてないんじゃないかしら」

 真姫は言った。

「いやいや、指導って言われてもね」

 道人は言った。

「おっとー。いきなり修羅場だー!」

 佐久間は言った。

「いや、実況すんなよ……」

 道人は言った。


「最初に事実確認だけしておきます。あなたは兄と恋人同士なんですよね」

 心は言った。

「そうよ。三ヶ月前からね。今ではらぶらぶよ」

 真姫が道人の手を取って言った。

「らぶらぶ……」

 この三ヶ月にそんな要素があっただろうか。道人は心の中で首を傾げる。


 ギロリと視線を鋭くし、心は、

「兄とあなたのような年頃のカップルが家族の了解を得ずに付き合うなんて、不純すぎないですか?」

「いや、流石にそんなことは――」

「お兄ちゃんは黙ってて。あたしはこの人に訊いてるの」

 心は言った。


「さー、邪魔者のお兄ちゃんはドリンクバーでドリンクでも汲んで来ましょうかねー」

 佐久間は言いながら立ち上がった。

 そして道人の手を引いて、部屋から出ようとした。


「ちょ、おま。この二人放置したらマズイでしょ」

「いやいやー、こういうのは当事者同士でって言うじゃん?」

「いや僕も当時者だって。ちょ、おい」

 道人は無理やり引っ張り出された。

 佐久間はそのままスタスタとドリンクバーのほうへと向かっていく。道人も遅れながらも着いていった。


「いやー、俺の力でなんとかあの二人の仲を取り持とうと思ったんだけどね。心ちゃんはいけても永井さんは無理だわ。やる前に察した。あの迫力はマジでビビる」

 佐久間はそう言って、苦笑いを浮かべる。

「あー。そっか」

「本当ならなんとかしたかったんだけどね。近田じゃまあ、まず無理だし。話をこんがらがせるだけだろうなって」

「それはそれで酷いな。僕もこれから頑張ろうと思ったところなのに」

「あはは。まあ、やれるだけやれよ。なんか結果が見えてるけど」

「そんで、なんでここに連れて来たんだ?」


 道人がそう言うと、佐久間は「あー、そうだな」と一呼吸置いて、

「別に、大した話じゃないんだよ。これだけは言っておこうかなって」

「改まって、珍しいな」


「日常生活まで爆発させんなよ、って忠告。これ以上面倒なことは起こさないようにしとけよ」

「これ以上の事態、は中々ないと思うけど」


「そんなのわっかんないじゃん。まあ別に、俺にとっては大事なんだけど、お前に取っては大事じゃないかもしれないからな」

「は?」

 未だによく佐久間の話が掴めない。

 道人の日常生活が、佐久間にとって大事なことなんだろうか。


「まあ、気にすんな。ただ、俺がお前のことを買ってるってことだけは覚えとけよ」

「あー? ……ああ、わかった」

 わかったけれど、話の理解はできなかった。

 ただ、佐久間の言葉には、友人に対して以上の意味合いがあるように思えた。


「そんだけ。戻るぞー」

 紙コップにコーラを入れて、佐久間は部屋へと戻って行った。


 結局、身内だらけのオフ会は心と真姫の終わりのない論争で幕を閉じた。

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